第61話

 双子ちゃん用もいろいろあるのね。横並びのものや縦並びのもの。赤ちゃんと幼児の二人を乗せられるものもあるんだ。これは便利そう。3歳と0歳というような組み合わせで出かける親って大変そうだものねぇ。大人の手が一つだと特に。

 あ、ハーネス特集か。私のころはほとんど使っている人はいなかったけれど、今は特集が組まれるんだ。

 そりゃそうだよ。犬じゃないんだからって言う人もいるけど、いつも手をつないでいられる人なんて数少ないんだから。

 子供の命を守るためには必要な人はいっぱいいるんだよ。もし本当に必要がないなら、迷子のお知らせの放送なんて起きないよね。1秒目を離しただけで、子供は簡単に行方をくらますんだよね。

 ……あ、そう考えたら、敷地で迷子にならないような工夫もしっかりしてもらった方がいいんだろうな。池を作るというのも書いてあったけど……景観を壊そうがなにしようが子供がうっかり落ちて大変なことにならないようにというのも必要かも。

「お待たせ!色々出てた」

 優斗がぱんぱんになった本屋の袋を手に来た。

「え?母さん、それ……」

 私が育児雑誌を手にしているのを見て、うろたえている。

「ああ、仕事で子供向けの建築物への意見を求められて。今の子育てってどうなってるのかなぁと勉強しようかと」

「なんだぁ。そっか」

 優斗がほっとしたようながっかりしたようなよく分からない表情を見せる。いや、高校生男子からしたら、突然母親が妊娠しましたとか言ったらびっくりするだろうから、ほっとした顔なのかな?うーん、分からない。

「ちょっと買ってくるね」

 と、雑誌を手にレジに向かう。

「あ、またあの人来てたよ」

 戻ると優斗が話しかけてきた。

「あの人って、よく優斗が買う本と同じ本を買うっていう人?」

 そんなの珍しくないんだろうけれど、5年くらい前に、高い位置にある本に手が届かなくて取ってもらってから本屋で見かけるとつい目でおってしまうようだ。どうやら、買っている本を見るとかなり趣味があうらしい。ただし、相手は大人で優斗のお小遣いの何倍も本を買えるだけの資金力がある。単に何でも買っていて、同じのも買っているだけなんじゃないかしらね?と思わなくもないけれど、本を取ってくれたというだけでずっと好感を持っているようなのだ。

「うん。あんな大人に将来なりたいな」

「あんな大人?」

「そう。好きな漫画を好きなだけ買えて」

 それ、あんなオタクになりたいって意味?

「見ず知らずの子供にも親切にできる大人」

 ふっと嬉しさで思わず涙がこぼれそうになった。



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あ、察し……

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