私たちの「小説」の書き方。

飯田太朗

私たちの「小説」の書き方。

地の分、加藤伊織として。


加藤伊織:「客来ないね」

 私がつぶやくと星花ちゃんが笑った。

道裏星花:「来ませんねぇ、お母様」

加藤伊織:「朗読カフェってさ」

 何とはなしにキッチンスペースに目をやる。じゅうじゅうと音がする。カフェって言ったらナポリタンだろ、ということで砂漠くんに作らせてる。

加藤伊織:「ちょっとコンセプトが曖昧だったかね」

無頼チャイ:「まぁ、伝わる人に伝わればよいでしょう」

 チャイくんがコーヒー豆を挽く。ふわりと、いい香り。マンデリンかな? 

ムタ:「やっほー。買い出し行ってきたよ」

 オーナーのムタくんが元気にお店に入ってくる。裏口使いなさいって何回言っても聞かないんだから。

終雪六花:「あの、玄関掃除したばかりなんですけど……」

 メイド姿の六花ちゃん。この子は努力が報われない傾向にある。

道裏星花:「また掃除しよっか。一緒にやるよ」星花ちゃんが笑う。

みやこ:「基本はまるー」みやこちゃん。砂漠くんに習ったシャロールちゃんの描き方を実践しているらしい。砂漠くんは頑なにスタージェリーカフェのマスコットキャラをシャロールにしようとしているけど……。

砂漠の使徒:「伊織さぁん。また焦げちゃったぁ」

 砂漠くん。マスコットキャラ云々の前に料理の腕を磨こうか。コックさんだしね。

加藤伊織:「弱火の五分は強火の一分じゃないって言ってるでしょー」

 私はカフェのために用意したお菓子のレシピを眺めながらため息。

猫丸:「にゃあ」

 猫丸くん。役になり切っていてよろしい。

ゴマ:「マグロ食べたい」

 ゴマくん。この子も猫なんだけど言葉をしゃべる。まぁ、そういう子がいてもいい。


「カクヨム」は自由に表現をする場だ。私たちのカフェみたいに、書いた小説を朗読するグループもいる。篠騎シオンさんだったかな。彼女も朗読やラジオをやっている。小説投稿空間である「カクヨム」は朗読など声の活動をしている人も多い。

ゴマ:「なぁ、マグロくれよ」

 ゴマくん。そんなのは仕入れないとありません。

加藤伊織:「暇だなぁ」

 私がつぶやくと、星花ちゃんが箒とちりとりを出しながら笑ってきた。

道裏星花:「掃除終わったら、ボクに小説について教えてくださいよ」

砂漠の使徒:「あ、それいいね。ほら、ここにこんがり焼けたソーセージが……」

 砂漠くん。どうやらナポリタンに使うソーセージを焦がしたらしい。だから弱火の五分は強火の一分じゃないって……。

無頼チャイ:「興味がありますね」チャイくん。挽いた豆を使ってコーヒーを淹れている。ペーパードリップ方式で、お湯を注ぎながらチャイくんが続ける。

無頼チャイ:「お客さんはしばらく来そうにもありませんし、小説講座としゃれこんでもいいかもしれませんね」

加藤伊織:「よろしい。この中で『カクヨム』利用最年長の私がひとつみんなにアドバイスといこう」

 カウンターの前から、メニューを書く用の黒板の前に行って、チョークをとる。

加藤伊織:「小説における冒頭の重要性について論じようか」

 私の一言で、六花ちゃんが手を挙げる。

終雪六花:「吾輩は猫である的な話ですか」

ゴマ:「呼んだか」ゴマくん。マグロはちょっと待ってね。

みやこ:「基本はまるー、みたいなコツとか、あるんですか?」

 みやこちゃんの質問に私は答える。

加藤伊織:「基本というか、冒頭文は読者の掴みの部分だから、色んな人が研究してる。その結果ある程度のひな型のようなものは存在する」

 原則一、と私は黒板に綴る。

加藤伊織:「『状況、状態、心理の提示』。さっき六花ちゃんが言った、『吾輩は猫である』なんかが代表例かな。状態の提示。掴みとしては抜群だよね。今でさえ抜群なんだから、当時は相当キャッチーだったろうね」

 原則二。

加藤伊織:「『時間の提示』。よくある『冒頭に数字を使う』っていうテンプレートの代表例だね。『何時何分何十秒、公園で爆発が起こった』みたいな文章は、いきなり読者を小説世界に引っ張り込む」

 原則三。

加藤伊織:「『トピックや情報の提示』。原則二とちょっと似てるかな。事件や出来事、その小説の根幹にかかわる情報を提示する。例文としては、『メロスは激怒した』とか、『親譲りの無鉄砲で子供の時から損ばかりしている』とかね」

 他にも色々あるけど、と私は適当なところで締め括る。

加藤伊織:「この三つが上手く使えれば、いい感じになる……と私は思っている」

道裏星花:「なるほどぉ」星花ちゃんが箒で玄関を掃きながら頷く。

ムタ:「俺、『カクヨム』にいるくせにあんまり小説書かないから分かんないんだけどさ」

 ムタくんがぽけーっとしながら訊いてくる。

ムタ:「冒頭と対比になる、ラストの一文はどうなわけ?」

加藤伊織:「あんまり気にしなくていい」

 と、私はズバッと言ってみる。

加藤伊織:「確かに印象に残るラストは味になるけど、言っちゃえばドアの背中みたいなもので、通り抜けちゃえば誰も気にしない。だから、意外とテキトーでいい」

砂漠の使徒:「へぇ」ソーセージをもぐもぐ砂漠くん。

ゴマ:「マグロはねぇのか」ゴマくんのブレないマグロへの情熱。

無頼チャイ:「そういえば皆さん、『カクヨム』コンテストはどうするのでしょう?」チャイくんが首を傾げる。

無頼チャイ:「僕は今年、挑んでみようか悩んでいるのですが……」

道裏星花:「大きなイベントですよねー。師匠は出るみたいなこと言ってましたけど」星花ちゃんが箒とちりとりをしまう。

ムタ:「師匠って誰」そうか。ムタくんは知らないか。

道裏星花:「飯田太朗さん。ミステリーの界隈にいる人。この間、『ホームズ、推理しろ』っていう新作を書いたって」

加藤伊織:「あの子エグい下ネタの話書いてなかったっけ?」

道裏星花:「あー。壁……? 何か、『未成年は読んじゃいけません』って言われました」きょとん、と星花ちゃん。はー、壁ね。何が続きそうか分かった。

無頼チャイ:「何かSFも書いてませんでしたか、あの方。確か『僕はまだ……』」

加藤伊織:「やめなさい」

 それはこの世界の法に触れます。

ムタ:「俺には縁のない話だなぁ。読み専でいるよ、俺は。いい作品あったら教えてくれ」

道裏星花:「えー、だったら私に『☆』くださいよー。まだ主人公格の能力を二時間半しか使えなくて不自由してるんです」

 星花ちゃんの作品の主人公、どこでもドアみたいな能力だから二時間以上使えたら便利だろうに。まぁ、私も『殴り聖女』があるけど。

砂漠の使徒:「私実は『☆』十二個以上だから丸一日使えるし、PVも10000PV越えてるんでその他の人物の能力も選択肢に加わってます」

 シャロールちゃんが使えるんだぁ。と、砂漠くん。この子シャロール大好きだもんなぁ。自キャラに愛着があるのはいいことだ。

みやこ:「私も読み専かなぁ。声の活動やお絵描きの方が楽しくて」

終雪六花:「私はちょっと興味あるかもです。小説の執筆」

砂漠の使徒:「おっ、小説家デビュー?」

 と、ソーセージをがりがり。どんだけ焦げたんだ。

ゴマ:「ところでマグロ……」

無頼チャイ:「今度仕入れましょうね」

加藤伊織:「マグロが出てくるカフェって何事よ」

みんな:「あはは」とみんなが笑う。


 と、談笑しているところにカラランと玄関のベルが鳴った。お客さんだ。

砂漠の使徒:「わー、凛々サイさん!」

道裏星花:「えっ、師匠!」

 お客が来ると一瞬で店の中が賑やかになる。さてさて、お客が来たってことは私もお菓子を作らないと。

 店の隅で猫丸くんが鳴いた。

猫丸:「にゃあ」

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