第4章 ①光と闇

僕たち家族は、タイムズスクエアのネオンで夜中でも昼みたいに明るいマンハッタンのど真ん中のホテルに滞在していた。


少し歩けば、ブロードウェイの劇場がいくつもある。

ママは、ミュージカルでも、バレエでも、とにかく観劇が好きで、日本でも、僕が小さい頃からよく、連れて行ってくれた。

その影響で、僕も舞台を見るのが大好きで、それなりに目も肥えていた。


毎日のように、ママが見たいミュージカルの劇場に、僕も喜んで一緒について行った。

演者たちは、カッコよく、美しく、素晴らしい演技、ダンス、歌を繰り広げる。

客席の盛り上がりも、日本人とはやはり全然違う。


昼間は、近くのカフェで、時にはデリでサンドイッチかピザを買って、少し足を伸ばし、セントラルパークでランチをした。


マンハッタンのお店のウェイターやウェイトレスが、やたらカッコいい。美人が多い。

ある日、カフェの前で、ミュージカルのビラを配りながら、

時にはクルリとターンしたり、簡単なステップを踏んで注目を集めていたブロンドの美しい女性が、昨日入ったカフェのウェイトレスだと気づいた。


そうか。

ここは、夢の町ニューヨーク、そしてブロードウェイ。

その舞台に上がるべく目指してやってきた演者たち、俳優の卵たちが、アルバイトをしているのだ。


「街中が劇場の中みたいだ。」

と、つぶやいた僕に、ママが微笑んでうなづいた。

「ねえ、今日はチェルシーマーケットの方に出かけましょう。若いアーティストたちのpopアートのギャラリーもたくさんあるし、ホイットニー美術館もあるわ。

素敵なのよね。

ママ、大好きなのよ。

ハドソン川のサンセットを眺めながら、あのあたりでディナーにしましょう。」


僕たちは、ハイラインという、昔の鉄道線路の跡を遊歩道にした道を歩いたり、

ギャラリーに立ち寄りながらチェルシーマーケットに向かった。


チェルシーマーケットというのは、昔のお菓子メーカーの工場跡のビルを遺したまま、中に沢山のカフェやお店、ガレッジセールのコーナーがある、ショッピングモールだ。

古い味のあるビルに、落書き風のポップアートを施してあったり、新旧の微妙な融合がすごくステキだった。


家族連れやカップルがたくさんショッピングに来ている。


僕たちも、お土産を見繕ったり、チョコレートショップで試食をしたり、若手作家のガレッジセールショップを見て回ったりしてマーケットプレイスを楽しんだ。


「歩き疲れたので、カフェでもしましょう。」

とママが促したので、ガラス張りのカフェに入って、マーケットの中を行き交う人たちを眺めていた。


笑顔でゆっくり歩く人々の間をぬって、ものすごい勢いで、叫びながら走っている女性が目に飛び込んできた。


誰かの名前を叫んでいる。


「子どもが迷子にでもなったのかしら?

大変だわ。こんなところでハグれたら、、、

お気の毒に、、、

無事だといいけど、、、


カイトも気をつけてね。迷子で済めばいいけど、ここは、アメリカ、日本みたいに平和で安全ではないのよ。


ちょっと目を離した隙に、子どもがさらわれたりするの。

どこかに売り飛ばされたり、もしかしたら、アメリカじゃない国とかに送られたりもあり得るのよ。


ママが、記者をしていた時に、色々調べてて知ったのは、本当に、年間何万人もの子どもが、行方不明になってるのよ。

そして、どこかの島に閉じ込められて、臓器売買のために殺されたり、、、

子どもが恐怖を感じた時に放出されるある特殊なホルモンが、不老不死に効くという話があって、そのためにリンチされたりとかね。


そのことに関しては、色々な陰謀論もあるけれど、、、

届けが出ている行方不明になっている子どもの数字は事実なの。


だから、カイト、絶対にママやお父さんから離れないでね。


もし、カイトがさらわれたり、行方不明になったら、ママ、気が狂うわ。」


ママの話を聞きながら、さっき見た、叫んでる女性の顔を思い出すと、その形相は異常だったと感じて、背中がゾクっとして、僕は身震いした。


ニューヨークの街も、今は、ずいぶん治安が良いようだし、町中が煌びやかで、たくさんのカッコいい大人たちを見ていると、そんな怖いことは考えてもみなかった。

けれど、さっきの女性の子どもが、もし本当にさらわれて、行方不明になったらと想像してしまうと、この世の闇の部分が目の前の置かれた気がした。


それは、まるでライトに照らされたキラキラした舞台の上にいた自分が、舞台の中央にパックリ空いてる奈落に落ちてしまって、一瞬にして真っ暗闇な世界に放り出されたような気分だった。

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