第7話 異世界道中




 ──大都市エルクステン・ギルド──


 エメレアから〝精神疎通テレパス〟にて連絡を受け取った、大きな胸に金髪ロングのデコだしな髪型が可愛らしい容姿の、種族は。そしてこの〝大都市エルクステン〟の〝副ギルドマスター〟である──フォルタニアは受け取った連絡を、直ぐ様ギルドマスターへと報告する為、大急ぎでギルドの廊下を走っていた。


 ──バタバタバタ!! バン! ドン!!


「──ギルドマスター! 失礼します!!」


 本当に失礼なぐらいに勢いよくドアを開け、フォルタニアはギルドマスター室へと入る。


「慌ただしいですね? エメレアさんから何か追加の状況報告はありましたか?」


『まあ、この状況では無理もありませんか……』と〝大都市エルクステン〟のギルドのギルドマスターである、少し長めの灰髪グレーヘアーに知的に眼鏡をかけた、丁寧な言葉遣いゆえか、この状況下でも落ち着いた雰囲気の男性──ロキ・ラピスラズリがゆっくりと答える。


「は……はい。そうと言えばそうなのですが……」


 反応を見るに、ロキの予想とは何処か少し違う報告のようだ──報告に来たフォルタニア本人すらも少し困惑な様子だが、何となく悪い話では無さそうな曖昧な返事にロキは「どうしました?」と、本気で不思議がる表情を浮かべた。


「それが、報告によると……」


 フォルタニアはエメレアから連絡のあった──


 ・〝特別変異指定魔獣ヴァルタリス〟にあたるヒュドラが、この短時間で討伐されたと言うこと。

 ・そしてそのヒュドラを倒したのは、ギルドでも見かけた事の無い黒髪の少年が1人で倒したとのこと。


 以上の2点をロキに伝える。


(報告者のエメレア本人は、この少年をあまり気に入らないらしいが……これは報告しなくて良いだろう)


 そして隊の援軍より解毒薬の〝上位薬〟にあたる〝聖水〟を、至急大量に持ってきてほしいと言うことを伝えた。


「──それは本当ですか!! いえ、あなたのスキル〝審判ジャッジ〟を疑う気も、そもそも疑いようもないのですが……すいません。取り乱しました。それでも、もう1度聞かせてください──〝特定変異種指定魔獣ヴァルタリス〟の、しかもヒュドラがこの短時間で倒された。しかも見たこと無い1人の少年にと、それで間違いはありませんか? それと聖水については今は〝診療所〟や〝聖教会〟を中心にかき集めてもらってます」


 それが本当なら〝特定変異指定種魔獣ヴァルタリス〟のヒュドラの脅威は去ったことになる……だが、そのたった1人でそのヒュドラを倒した少年は一体何者なのだろうか?


「はい、私も最初聞いた時は驚きました」


 フォルタニアの持つ──スキル〝審判ジャッジ〟は、相手が嘘をついているかどうか分かるスキルだ。


 だが、この時ばかりはフォルタニアは自分のスキルと、頭を少し疑いそうになった。


 そんなレベルのの報告であった。


「何はともあれ〝特定変異指定種魔獣ヴァルタリス〟の脅威が去った。それは本当に喜ばしい事です! すぐに足の速いものに〝聖水〟を運んでもらいましょう! 援軍予定の〝第2騎士隊〟と〝第6騎士隊〟には、私の方から待機命令を伝えておきます」


「分かりました。それでは失礼します」


 頭を下げ、フォルタニアは部屋を後にする。


 *


(──それにしても特定変異種指定魔獣ヴァルタリスのヒュドラを単独撃破ですか……)


 ロキは「もし味方であるのなら、これほど心強いものは無いのですが……」とフォルタニアの去った部屋で1人呟きながら、急ぎ〝聖水〟の準備と〝第2隊〟と〝第6隊〟に待機の指示を出すべく、自身も部屋を出るのだった。



 クレハ達と共に竜車があり、そしてこの戦いの負傷者が集められている──ヒュドラと戦っていた所から少し離れた場所に着くと俺は〝回復魔法〟を使い、まずは、ヒュドラの毒の感染者達を治療をしていく。


「──重症の者を先に連れて来い。同じぐらいの容体なら先に女性を運べ。レディファーストだ!」


 後から『何で先に治してくれなかった!』とかの苦情をなるべく回避するべく、治療の順番を明確にしておく。


「わ、分かりました!」


 騎士隊員が毒に感染した者を運んでくる。


 毒の感染者は……20……30……

 40人……ぐらいか? ……いや、まだいるな?


(どいつもこいつも重症だな……)


 毒を食らった者達は、顔や体の皮膚が毒々しい紫色に変わっている。しかもそれがどんどん広がっていて、酷い奴だと虫の息どころか……呼吸も満足にできず、今にも死にそうだ。


 そんな様子を目で追いながら、俺はブワッと緑の光を放つ〝回復魔法〟を使って、毒の感染者を次々に治療して行く。


「すごい……〝解毒薬〟や隊の〝治療魔術士〟が解毒にあたっても治らなかったのに……!」


 すると横から『あの、これ〝魔力回復薬マジックポーション〟です! 良ければ飲んでください!』と〝魔力回復薬マジックポーション〟を持ってきてくれたクレハが、感嘆の声をらす。


「悪いな、助かる」


 と、俺はそれを受け取り、一気に飲み干す。


 するとブワッと魔力が回復した感覚が体にある。


 ちなみに味は特に無い……

 正直、栄養ドリンクのが美味いな。


 まだ〝魔力〟には余裕があったが、俺はありがたく貰っておいた。いつどこで魔力を消費するか分からないからな、常に回復しておくのに越したことはない。


「それにしても良くこの状態で生きてたな? 魔法の気配があるがこれはその〝治療魔術士〟の仕業か?」

「はい、私達の隊の治療魔術ではヒュドラの解毒ができませんでしたので……少しでも延命するべく〝痛覚麻痺〟の魔法や、毒でダメージを負った〝身体自体〟への治療──それに〝聖水〟なら解毒できるみたいなので〝聖水〟が届くまでに、少しでも進行を送らせるべく、重体の者は仮死状態にしたとのことです」


「なるほどな……」


 応急処置にしては上出来だろう。

 そのおかげで助かったやつも多くいる筈だ。


(まあ、少なからず死者も出たみたいだか……)


 俺は少しシスティアのいる方向に目をやると、システィア達がこの戦いで亡くなった隊の者や冒険者に『すまない……』と言いながら、悔しそうに遺体を別の竜車に運んでいる。


「……」


 ──その後も、俺は毒の感染者に〝回復魔法〟を使って、重体の奴から順にどんどん治療をしていく。


「これで最後か?」

「はい、此方の方で最後です」


 最後に、犬耳の亜人の冒険者が運ばれてくる。


「そうか、あんたで最後らしい。良く耐えたな、それと遅くなって悪かったな?」


 まあ、順番だから仕方ないのだが……

 俺は最後となった、その男性に何となく声をかけてみる。


「いいえ……と、とんでもございません! それに私には帰りを待ってくれる妻が街におりますから……まだまだこんな所で死ぬわけにはいきません!」

「そうか、そりゃ死ぬわけにはいかなそうだな?」


 と、返事を返しながら、俺は最後のヒュドラの毒の感染者も、ボワッと俺の〝回復魔法〟で治す。


「す、すごい! こ、こんなすぐに……ほ、本当にありがとうございます!」


 治るや否やドバッと立ち上がり、深々と地面に頭を擦り付ける勢いで頭を下げて礼を言って来る。


「どういたしまして……てか、いいから頭あげろ?」


 頭を地面に擦り付ける勢いで下げられても、正直対応に困るので、俺は軽く流すように返事を返す。


「こっちはこれでいいか? 毒を食らってない負傷者は、隊の方の〝治療魔術士〟が治してるんだろ?」


 俺は近くにいたクレハに問いかける。


「はい。そちらはこちらでも何とか手が回ってます。何から何まで本当にありがとうございます!」


「いいよ、別に。それに街に向かうんなら道中に魔物も出るだろうし、出来る限り戦力は回復しておいたほうがいいからな? 半分は自分の為だ」


 変に感謝されてもやりづらいので、俺は最後に適当な理由をつけておいた。まあ、嘘でもないしな?


「も、もう、そちらの解毒は終わったのか……!?」

「〝聖水〟は必要無さそうですね。ギルドに伝えてきます」


「あ、ああ。すまない……」


 驚いた様子でシスティアと金髪のエルフがこちらへ向かって来る。だが、金髪のエルフは俺と目が合うと、ギルドに報告と言って何処かへ行ってしまった。


「あらかたな。そっちも終わったみたいだな?」


 少し声のトーンを低くしながら、俺は遺体の運ばれていた竜車にチラりと視線を送る──


「ああ……隊と冒険者合わせて12名が亡くなった。私の失態だ……遺族の者に会わせる顔が無い……」


 下を向き、悔しそうにしているシスティア。


 ……これは俺の〝元の世界〟で両親が死んだ時の実体験からだが、誰かの大切な人──例えば、家族や恋人や友人が亡くなった時に『御愁傷様でした』だの、何だのと言うのが、ごく普通の一般的な対応だろう。


 勿論、それは悪気のある言葉ではない。


 むしろ、相手を気遣っての言葉だろう。


 ……でも、俺は知ってる。


 気を使って言ってくれているのは分かるが……

 

 そういう時、本当は誰にも何も言われたくない。


 自分の中では、相手は気を使って言ってくれた筈の、そんな言葉すらも煩わしく思ってしまう程に、気が動転し、そして最後は失望する。


 昔の俺はこうも思った……


 ──人の気も知らないで、と。


 その人が大事であればあるほど、

 他人には触れられたくない言葉も思いもある。


 黙って線香の1つでもあげてくれた方が何倍も良い。


「……そうか。でも、俺はあんたのせいじゃ無いと思うぞ」


 こんな言葉しか言えない自分が情けなくなる。


 こういう時、何と言えば正解になるのだろうか?


「優しいのだな、ありがとう……」

「だといいな……」


 こんな言葉が優しいか。

 だといいな。本当に……


「街で埋葬するのか? それなら急いだ方が良い」

「ああ、そのつもりだ」


 俺の問いにシスティアは頷く。


「──全隊、街へ帰還する! 街までは、極力魔物との戦いは避けろ! 最速で帰還するぞ!!」


「「「「「はい!!」」」」」


 システィアの指示を受け、騎士や冒険者は各自、竜車や馬みたいなのに乗り込んでいく。


「あの、こちらに乗ってください!」


 俺はクレハに竜車へと案内される。


 ──その竜車の中にいるのは……


 第8騎士隊長のシスティア。

 クレハの友人の金髪エルフ女の子。

 湧水の所であった、もう一人の水色髪の女の子。


 それとクレハと俺の合わせて5人だ。


 後、何故かは知らないが……

 俺は金髪のエルフにずっと睨まれてる。


(まあ、気にしないでおこう……)


「邪魔するぞ?」


 と、俺は竜車に入っていく。


 まあ、案内されて来たんだから『ダメ!』とかは言われないと思うが……


(言わないよな? 特にそこの金髪のエルフ?)


「ああ、入ってくれ! 道中ですまないが聞きたいこともある。もちろん無理にでは無いがよければ少し話せないだろうか?」


 システィアは歓迎と言った感じで迎えてくれる。


「話せる範囲なら構わない。俺も質問していいか?」

「ああ、もちろんだ! 何でも聞いてくれ!」


 と、システィアは自身の大きな胸を張る。


「あの、よければ、自己紹介しませんか?」


 すると、クレハが手を挙げながら自己紹介を提案する。


 そういえば俺も名乗ってなかったな。


「確かにそうだな。では、まず私から自己紹介をさせてもらう。私は──システィア・エリザパルシィ。こちらの〝第8騎士隊〟の隊長を任されている者だ」


 そしてその自己紹介の後に、直ぐにシスティアが何もない空間を指をスライドする動作をすると──次にその指をこちらに優しく弾くような動作をする。


 すると──次の瞬間、俺の目の前に、システィアの〝ステータス画面〟がパッと出てくる。


 ―ステータス―

 【名前】 システィア・エリザパルシィ

 【種族】 人間ヒューマン

 【性別】 女

 【年齢】 26

 【レベル】50


 これって、相手にも見せられるのか!?


(まるで、異世界の名刺だな?)


「ああ、システィアだな。よろしく頼むよ」


「──あ、次は私で良いですか?」


 次にクレハが立ち上がる。


「クレハ・アートハイムです! あの、さっきは本当にありがとうございました!」


 ―ステータス―

 【名前】 クレハ・アートハイム

 【種族】 人間ヒューマン

 【性別】 女

 【年齢】 16

 【レベル】36


 こちらも同じく〝ステータス画面〟を見せてくる。

 えーと、この世界では、自己紹介の時に、この〝ステータス画面〟を見せるのが一般的なのか……?


「こちらこそ色々助かった。よろしく頼むよ」


 クレハの事はよく覚えている。

 この異世界に来て最初に会った人間だからな。


「じゃあ、次、私……」


 立ち上がった金髪エルフの女の子は、そっけない態度で〝ステータス画面〟を見せて来る。


 ―ステータス―

 【名前】 エメレア・エルラルド

 【種族】 エルフ

 【性別】 女

 【年齢】 17

 【レベル】29


「以上……」


 そして、最後にギロッと睨んでくる。


「あ、ああ……よろしく……」


「ちょっと!? エメレアちゃんどうしたの!?」

「べ、別に……」


 クレハが相手だとバツが悪いのか、エメレアは視線をらし、ぷいっとそっぽを向いて黙ってしまう。


「すいません、普段は凄く優しいんですけど!」


 何故かクレハがペコペコと謝ってくる。


「いいよ、別に。そんな時もあるだろ」


「次は、わ、私です……! ミ、ミリア・ハイルデートです……!」


 次に、あわあわとしながら水色の髪の女の子が立ち上り、言葉を噛みながらも自己紹介をして、同じく魔力を使い〝ステータス画面〟を見せてくる。


 ―ステータス―

 【名前】 ミリア・ハイルデート

 【種族】 人間ヒューマン

 【性別】 女

 【年齢】 12

 【レベル】26


「よ、よろしくおねがいしましゅ……します……!」


 ペコリとミリアは頭を下げてくる。

 人見知りなのか、何回か噛んだな……


「ミリアだな、湧き水の場所でもあったよな? よろしく頼むよ」


 と、俺は落ち着かせるようにゆっくり喋り返す。


 ……で、俺か。


 〝異世界〟に到着して直ぐに編集しておいた〝ステータス画面〟を、見よう見まねで皆に見せる。


 ―ステータス―

 【名前】 ユキマサ

 【種族】 人間ヒューマン

 【年齢】 16

 【性別】 男


「今更だが、俺の名前はユキマサだ。歳は16でクレハと同い年だ。よろしく頼むよ」


「ユキマサさんですか。よろしくお願いします──て、え! 16歳なんですか!?」


 少し間を空けて驚くクレハ。


 これはよく言われるから慣れたな。


 〝元の世界〟の孤児院で理沙には……

『何か倖真ゆきまさって、フケてるとかそう言うんじゃなくて……年のわりには大人っぽいって言うか何と言うか、行動とか言葉遣いとかがんだよね。まあ、別に私は嫌いじゃ無いけど……』

 とか、何故か顔を赤くしながら言われた事もある。


「ああ、だからさん付けとか敬語は使わなくていい。むしろ普通に呼んでくれると助かる」

「え……でも……」

「まあ、嫌なら何でもいいが……」

「い、嫌とかじゃないです! じゃあ……ユキマサ君……/// ……で……いいでっ……いい?」

 照れ臭いのかクレハは恥ずかしげに呼んで

くる。

 その仕草に俺は反射的に可愛いなと思ってしまう。


「ああ、よろしく頼むよ。クレハ」

「……/// ……う、うん、よろしくね!」


 何となく慣れてきたか……? 


「んッ! ん! ゴホゴホッ! いい雰囲気の所すまないが質問をいいかな?」


 システィアがわざとらしく咳払いをする。


「べ、別に……いい雰囲気とかじゃ……///」


 少しモジモジとしながらクレハは顔を赤くする。


「──何だ……?」


 俺は短くシスティアに聞き返す。


「先程のヒュドラだがあれは〝特別変異種指定魔獣ヴァルタリス〟のヒュドラだ。勿論通常のヒュドラより何倍も強い。そもそも〝特別変異種指定魔獣ヴァルタリス〟自体の出現が本当に珍しく、双熊やミノタロスでも危険なのにヒュドラの〝特別変異種魔獣ヴァルタリス〟なんて聞いたこともない──それを君は1人で倒した。しかも私の目には君にはまだ余裕があるように見えた気がする」


 じっ……とシスティアは真剣な眼差し見てくる。

 かと言ってシスティアに俺を警戒する様子は無い。


 本当に疑問に思ったから聞いたという感じだ。


「──ユキマサ……きみは何者なんだ? もし差し支えなければ、レベルとかも教えてはもらえないだろうか?」


(〝特別変異種魔獣ヴァルタリス〟? あれは普通のヒュドラじゃなかったのか? 道理で騎士隊や冒険者の連中が総崩れだったわけだな……)


 クレハの様子だと通常個体のヒュドラならそれこそ攻略情報もあっただろうに、普通ならであそこまで押されることはありえん。


「何者と聞かれてもな……」


 うーん。ここは素直に『女神様に呼ばれて異世界から魔王を倒しに来ました!』とでも言えばいいのか?


 いや、魔王はともかく異世界と女神様アルテナの部分は信じてもらえるか怪しいぞ? 悪いが少し濁しておくか。


「簡単に言うとちょっと頼まれ事でな? 少し遠くの国から来たんだ。何者かと聞かれても何と答えればいいか、正直分からないんだが……ただ少なくとも、今ここにいるお前達の敵では無い事は保証する。それと悪いがレベルは今は言えない」


 俺は少し遠回し気味に返答する。

 嘘は言ってないし、多分ここにいる4人とは敵対する事はないだろう。


 まあ、そこの金髪エルフのエメレアはずっと俺を睨んで殺気を剥き出しだが……でも、クレハが仲が良いみたいだし、何かあれば多分フォローしてくれると思う。


「そうか……変なことを聞いてすまない。それに少なくとも私達もユキマサを敵だなんて思ってないどころか──むしろ大恩人だ。レベルには興味があったが仕方ない。まあ、もし気が向いたら教えてくれ」


 良かった。察してくれたのか、深く追求する事は無く、意外とあっさりシスティアは引いてくれた。


「ああ、ありがとう」


 ──その後、クレハ達が街の情報を色々話してくれた。街のあの店の何が美味しい等とか、名産品やオススメの武器屋等だ。


 武器屋はあれだが、何とも女子トークな感じだ。


 そこで俺はふと質問してみる。


「変な質問なんだが、この世界の魔王ってのはどんな感じの奴なんだ?」


 アルテナから軽く話は聞いてはいるが、この世界で実際には、どういった認識なのか聞いておきたい。


「え……? あ、ああ、3人の魔王の話だよね?」


 最初、質問の意味が分からなかったのか……クレハは〝どんなってどんな?〟みたいな顔をしてくる。


(この世界では魔王は一般常識なんだな……)


 日本で〝今の総理って誰なの?〟って本気で聞くような──どこかに頭をクリティカルにぶつけてしまい、記憶が飛んでしまった人だとか。記憶力が致命的に悪い、可哀想な人を見るような反応だったな……



 ……?


 ……ん……ッ……?


「──おい待て、今、って言ったか!!」


 俺は思わず少し身を乗り出して聞いてしまう……!


「え……? うん〝7年前の魔王戦争〟で〝魔王アドルメルク〟が倒されたから、残りの魔王は3人だよ?」


 これまた『え…? 知らないの?』

 と、キョトンとした顔でクレハは答えてくる……


 周りを見るとシスティアもミリアも──さらには今さっきまで、ずっとこっちを睨んでいたエメレアですら、この時ばかりは『え……?』みたいな顔をして、口を半開きでポカーンとしてる。


「えーっと……あっ、ユキマサ君、もう街に着くよ!」


「あ、あぁ……」


 このタイミングで最後に何か凄いこと聞いたぞ?


 ──魔王が3人?


 それに〝7年前の魔王戦争〟で1人倒された!?


 てか、そもそも魔王は元々は4人もいたのかよ!


(おい、ちょっと待て、アルテナ……魔王が残りもいる何て、俺はそんなこと聞いて無いぞッ──!!)


 そんな俺の心の叫びは誰にも届く筈も無く……


(いや、神様アルテナなら聞こえてたりするんじゃないか?)


 そんな事を考えてる間にも、竜車は無事に目的地の〝大都市エルクステン〟に到着するのであった──。

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