第24話 英雄たちの語らい

 凱旋する兵士たちの群れ。

 その中にあって、ひときわ目立つふたりがいた。

 それは、鋼の手甲を身につけた空手着の少女、『鉄拳の聖女』リューコと刀を帯びた道着姿の少女、『霧刃の聖女』シズクだ。

 2人の周囲には、似たような手甲を身につけた兵士と刀を身につけた兵士たち。それぞれリューコやシズクから技を教えて貰い身につけたこの世界の者たちだ。

 聖女である以上に、尋常ならざる運動能力の持ち主であるリューコとシズク。その2人と同じことができる者は存在しないが、この世界には女神の加護と魔法がある。身体強化の魔法を使ったり、強化に長けた女神の加護を持っている者がリューコやシズクの動きを真似し、その技を覚えた事で、リューコやシズクに近い技を使える兵士たちが増えていたのだ。

 それぞれ『拳の信徒』と『刃の信徒』と呼ばれるようになったそれぞれの弟子たちは、日々その数を増やし、新たな戦う者たちとなっていったのだ。

 ちなみに内訳としては、もともと剣を扱う術に長けていた騎士たちが『刃の信徒』となり、それ以外の戦い方や武器を持たない荒くれ者たちが『拳の信徒』となっているようだ。


 銃の扱いを『硝煙の聖女』から叩き込まれた兵士たちは、主に各地に派遣され守りのための勢力となっている。王都を中心に、小部隊を編制し、各地の勢力へと派遣。防衛の力となり崩壊者コラプスに対抗するための場所を守護する任務へと就いていた。

 一方、拳と刃の信徒たちは王都から遊撃隊となり、各地に出没する崩壊者コラプスの強敵をつぶす攻撃任務へと就いているようだ。そして、今日もまたリューコやシズクとともに討伐任務に就いていた一団が帰ってきたのである。


「リューコさん、シズクさん。お疲れさまです!」

「わ、王女様どうしたの!? ってかそれってカメラ! え、もしかしてあたしたちのこと撮ってるの?」

「リューコさん、落ち着いてください。王女様はきっと記録のためにカメラを回しているのですよ。ええっと、この格好、おかしくないでしょうか?」


 あわあわと髪をいじるシズクに、はしゃぐリューコ。王女ワンダは、2人の活躍についてカメラに収めることにした。


「今回はね、初めて見る強敵が出たんだよ! ハツミ博士が言ってたとおりの場所にいたから探すのは簡単だったんだけど、でっかいカメみたいなヤツで硬かったんだ~」

「もちろん、多少硬くても私の刃とリューコさんの拳の前では敵ではありませんでしたけどね」

「うんうん、シズクちゃん凄いんだよ。全身がっちがちのカメだったんだけど、関節の隙間ならば切れる! ってかっこよくスパスパーって斬っちゃってさ」


 リューコに褒められたシズクは、笑みを浮べそうになるのを抑えつつ、腕組みして頷いている。


「まぁ、甲羅のところも、あたしが本気で叩いたら粉々になったけどね!」

「それは、リューコさんが馬鹿力なだけですよ! 周りの兵士さん達もびっくりしてましたよ?」


 急にリューコに裏切られて頬を膨らませるシズク。

 どうやら2人は上手くやっているようだ。


 王女は他の人たちからも話を聞くことにした。聖女の力と技に憧れて彼女たちを信奉し、その技を身につけようと日々切磋琢磨する信徒たち。つまりは聖女の弟子達へのインタビューを敢行したのだ。


「ああ、リューコ様ですか? いやー、強いですね! 私もこの世界では名の知れた格闘家だと思い上がっていましたが……あの動きは真似出来ません」

「シズク様の剣術は、まさしく異世界の御業。最近では、彼女と同じ「刀」という武器の生産も始まったので、今は日々精進ですね」


 各地で崩壊者コラプスと戦いを続けてきた者たちも、いまではここ王都に集い新たな技や戦い方を身につけているようだ。新たな武器、より良い装備、医薬品や魔法を使うための様々な魔導具も王都では生産が進んでいた。

 王都を中心に、聖女たちの力によって国力は回復。特に防衛に関しては多くの革新的な進歩が発生していた。

 防衛に使える銃の一般化、交通網の整備、各地の通信網の作成に、各地との連携の回復。

 このまま数年もすれば、王都から崩壊者コラプスたちは一掃できるだろう。そう王女は確信していた。


 だが、崩壊者コラプスを一掃することが目的ではない。

 王女はそれを思い出して、最後に尋ねるべき人のところへと脚を向けた。

 それは、最初から王国のために頭を悩まし、この苦境に立ち向かってきた人。勇者ワタルのところだ。


「……それで、次の目的は決まりましたか?」

「ああ、王女様。ちょうど良いところに。次の会合でその件について話そうと思っていたんですが……って、カメラですか? 懐かしいですね」

「ええ、皆さんの頑張りを記録に遺しておこうと思いまして。ハツミ様とノエル様のところでカメラを受け取ってから、エル様の訓練場を覗いて、タマキ様が守る霊廟に差し入れに行って……」

「あ、記録が残ってますね。リューコとシズクが戻って来たところも取材したんですね」

「はい、お弟子さんたちからも話を聞いたんですよ」

「それじゃ、最後にあとひとり話を聞かないといけませんね」

「……あ、そういえばそうでしたね。どこを探しても見つからなかったんですけど、勇者様はカリン様の居場所をご存じですか?」

「ええ、実は僕が仕事を頼んでいたんです。お城の屋上にいるはずですよ」


 そして2人は屋上へと向かう。

 そこには、遠くを眺めてひとり佇む『超能の聖女』カリンがいた。

 静かに集中している様子のカリンを、遠巻きに眺めながら王女ワンダは勇者ワタルに尋ねる。


「カリン様に頼んでいるお仕事というのは?」

「ああ、実はカリンなら、崩壊者コラプスの本拠地が完治できるかもしれない、と思ったんです」

「本拠地、ですか? そんなものが崩壊者コラプスにあるんでしょうか」

「ええ、やつらはあらゆるところで自然発生する、と思っていたんですが、ノエルの高性能センサーで感知したところ別の可能性がわかったんですよ。カリンが使えるようなテレポート、ああ、瞬間移動によって送り込まれてるのでは、と」

「ああ、だからカリン様なら感知できるかも、といっていたのですね」

「そういうことです。よし、ちょうど良いところですし、カリンに聞いて見ましょうか。……カリン、さっき頼んでたのは分かりそうかな?」

「んー……ワタルにーさんに聞かれるまでは、さっぱり分からなかったんだけど、集中してみたら分かったかも」


 首を傾げるカリンは空の一点を指さした。


「地上にやって来る崩壊者コラプス、移動元ってあれかも」


 カリンが指さすその先には、この世界の『月』が浮かんでいた。

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