両手に乗せた想い

NALI

初恋は十人十色

「うわぁ!陽菜(ひな)とクラス離れちゃった。陽菜4組かぁ。私10組だよー。しかも校舎が隣だって。陽菜休み時間遊びに来てね!」

小学校からずっと一緒の幼なじみの実花は、高校はどこでも良かったって言って私と同じ高校を受験してくれた。

実花は中学校も同じバレー部で、いつも一緒だった。

「実花と教室離れててちょっと心細いな。」

「大丈夫!大丈夫!すぐ休み時間になるから、すぐ教室来てね!」

「わかった。」


入学式が終わってクラス発表の為に私達は各教室の前に張り出されているクラス名簿を見ていた。


実花は10組の教室がある校舎へと行ってしまった。


「はぁ~。」

私は大きいため息をつきながら4組の教室に入った。



「陽菜ちゃーん!」

後ろからぎゅっとハグされて、

「キャッ!」

っと声をあげた。

そっと振り向くと、中学校の時に同じバレー部だった花蓮が抱きついていた。

「花蓮?」


この高校に受験してたのは知ってたけど、そんなに仲良くなかったから気にしてなかった。


「花蓮も4組なの?」


花蓮はニコニコして

「うん!陽菜が一緒で良かった〜。」


「私も〜。知ってる子がいて嬉しい!これからよろしくね。」


私はいつも実花と一緒にいて、新しい友人がなかなか作れなかった。いわゆる人見知りなのだ。人見知りなくせに、トイレは誰かと一緒に行きたがる。めんどくさい人見知り。



ガラガラ


「みんな適当に席について!」

担任は女性で30代後半ぐらいだった。

サバサバした感じの先生。



「まずは、自己紹介からだね!先生の名前は永島です!専門教科は体育です。こんな感じで端から言って行こうか!」



教室の端から順番に自己紹介が始まった。


うわっ!こういうの苦手なんだよね。すぐ顔が赤くなるし。緊張すると涙が出ちゃうんだよね。


「橋本花蓮です!T中学校から来ました!よろしくおねがいします~。」


花蓮は、緊張しないのかな?


とうとう私の番が来た。

「松下陽菜です・・・T中学校からです・・・・よろしくおねがいします・・・・」

私は顔が真っ赤になって、最後の方は声も小さくなっていた。

でも言えたからいいよね?


全員が言い終わったところで、

「じゃあ、今は男女別々に座っているので、あいうえお順に席移動して下さい!まずは、みんなの名前を覚えるのが優先なので、来月また席替えします。席替えは頻繁にしますので、そのつもりで!」


ま行の私は、窓際の前から4番目の席だった。教室は広く1列に8人はならんでいる。


私の後ろには4人しかいない。前はちょうど柱の出っ張りがあって、前の席の人が半分しか見えない。

私の後ろは男の子だった。

横は女の子なんだけど少し離れてるから、話しかけるにはハードルが高い。

花蓮は隣の列の1番後ろ。

遠い。


終った。


この1ヶ月は、誰とも話せず勉強に集中なのね。


ただ運がいい事が一つだけ。


私は窓際の席、そこから中庭が見える。

中庭には10本以上の桜の木がある。

この学校名物で正門から裏門まで一直線に道があり、両サイドに桜並木がある。

元々、公道があった場所に学校が建ったから公道に校舎がかからないように渡り廊下などで校舎同士が繋がっている。


私の席から見える桜は中庭と桜並木とが一緒に見える。ピンク色でとても幻想的だ。入学して1番最初に感動した。


「ねぇねぇ。」

後ろの人が私の背中をトントン叩く。


私はバッと振り返って

「はい?」

と答えた。


その男の子は韓流スターみたいな人で、びっくりするくらい見た事ないイケメンだった。

かっこよすぎて私は顔が真っ赤になった。

そんな顔を見られたくなくて、横を向いて

「何ですか?」

「ねぇねぇ!君さぁ中学校の時のあだ名は『まっちゃん』じゃなかった?俺も松本寛太だから『まっちゃん』って言われてたんだぁ。」

「言われて見れば、『まっちゃん』って言われた記憶があります。でも仲がいい子からは下の名前で呼ばれてたので。」


「じゃあこのクラスの『まっちゃん』は俺ね!松下さんいい?でも松下さんは俺の事『寛ちゃん』でいいよ!」

そう言った松本君は優しく笑った。

「何で『寛ちゃん?』」

「だって松下さんも『まっちゃん』でしょ?俺も『陽菜ちゃん』って呼ぶかも?」

寛ちゃんはイタズラっぽく笑った。





その笑顔に私は一瞬で落ちた。



ヤバい。胸がドキドキする。顔の赤みも引かない。この人ともっと話したい。でもこんな赤い顔の私を見られたくない。



担任の永島先生が

「じゃあ席移動終ったかな?みんな前を見てー!」


助かった!!

私は慌てて前を向いた。




それからの1か月は

昼休み以外の授業と授業の間の休憩はトイレに行く以外はずっと寛ちゃんと話していた。



ある日

クラスの寛ちゃんの男の子の友人の山田圭太君が

「お前ら付き合ってんの?」

って聞いて来た!

私は顔が真っ赤になって

「違う!違う!付き合ってないよ!」

私は慌てて否定した。




寛ちゃんは何も言わなかった。


私はこのまま寛ちゃんの友達でいたい。

毎日が本当に楽しい。




その次の日、寛ちゃんが言った。

「圭太が、陽菜と付き合いたいって。」



寛ちゃんは、優しく笑った

「良かったね。圭太は良い奴だよ。スポーツマンだし、優しいよ。」


私は誰かに頭を殴られたかのような衝撃だった。



「寛ちゃんは、勧めてる?」


私の頭をポンポンと撫でて、

「決めるのは、陽菜だよ。」



その午後のホームルームは席替えだった。



中庭の桜の花は全て散って新緑の葉が青々としていた。




私の席はちょうど真ん中の席で、私の前は知らないクラスメイトの男の子だった。私はこの1か月寛ちゃん以外の男の子と話してなかったな。昼休みは10組の実花のところに行って、寛ちゃんが移動教室で男女別の時は花蓮と一緒にいた。



私の世界は狭かったのかな?



勇気を振り絞って前の席の男の子に話しかけようとして、辞めた。

だって、その子は消しゴムを削って車の形を作っていた。


子供じゃん。



っていうか高校1年生って子供なのかな?寛ちゃんが大人な感じだっただけ?

寛ちゃん以外と話した事ないからわからない。


寛ちゃんと席が離れたら、休み時間に話さなくなった。


寛ちゃんは、2列先の横の前から2番目

私は前から4番目。



遠くなった。



それから私は、休み時間は本を読む事が多くなった。



窓から差し込む陽射しが強くて、本の文字が反射して読めない。

誰かカーテン閉めてくれないかな?



すると



シャーッ



誰かがカーテンを閉めてくれた!


誰?ありがとう!

と窓際を見たら、友人とお喋りしている寛ちゃんいた。




寛ちゃんがカーテンを閉めてくれたんだ。




窓から5月の風が吹き込んできた。


私の心の隙間に風が吹き抜ける。両手で胸を抑えても、心の隙間は埋まらなかった。



あぁ。




私は寛ちゃんが好きなんだ。



寛ちゃん以外が目に入らないんだ。



でも好きって言ったら寛ちゃんと友達ではいられない?


左手に7割告白しようという気持ちが

右手に3割のこのままでいたいという気持ちが乗っている。



でも怖い。



3割の気持ちが私の決断に邪魔をする。





そして、久しぶりに寛ちゃんが私に話しかけてきた!


「陽菜。」


寛ちゃん!




寛ちゃんは笑っていない。



「圭太が本気で、陽菜が好きらしいよ。返事してあげて。」



「寛ちゃんは・・・・・?寛ちゃんはどう思う?」


私はずるい!ずるい聞き方をした。

好きだと言えばいいのに。




「2人はお似合いだと思うよ。」




私は一粒の涙を流した。

でもすぐ下を向いたから寛ちゃんには見られていない。


「そっか。うん。いいよ!圭太君に付き合おうって伝えて。」



「わかった。」





私は

圭太君と付き合ったけど、手も繋げないまま、1か月で私達は別れた。




その1か月の間に



寛ちゃんに彼女が出来ていた。





好きだと言えば良かった。



もう時間は戻らない。

そんなのわかってるよ!



寛ちゃん!寛ちゃん!言えば良かった。




私は寛ちゃんが大好きだった。






私の初恋





両手で胸を抑えても、心の隙間はずっと埋まらない。



もう言えない。私の初恋。

















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

両手に乗せた想い NALI @TONALI

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ