episode3:美しい人
涼しい風の通り道になっている、明るい森がある。小さなマモノが木々の中で生活を営む傍で、獣族と精霊族がテリトリーを共有する村があった。
倒木に腰掛けた獣族の女が、眠たそうに目を閉じている。
「ねえクラウス。そろそろ狩りのパートナーを変えた方がいいんじゃない?」
小麦肌の獣族は、中年から初老に差し掛かっている。
「見て分かると思うけど、私はもう歳をとって、動きが鈍くなってるの。俊敏に動けない獣族なんて、パートナーにしておいてもメリットないよ」
「そうですね、サラ。君は以前に比べ随分とキレが悪くなりました」
彼女の隣に座る精霊族の青年は、三年前と変わらない美しい容姿のままだった。
「でもですね。見て分からないと思うけど、僕もかなり歳老いているんですよ」
サラの言葉を真似て、クラウスが不敵に笑う。サラはぎょっと目を剥いた。
「は!? あんたその見た目で、歳とってるの?」
「僕ら精霊族は美しさが価値ですからね。容姿は魔導で調節しているだけで、おじいちゃんです」
「言われてみれば、あんたは私が生まれた頃から既に三百歳を超えてたもんね。それを誤魔化してそんなにきれいでいられちゃうんだから、魔導ってすごいな」
驚きながらも納得するサラに、クラウスは愛おしそうに目を細めた。
「ええ。ですが、サラといて気づきました。相応に歳を重ね老いていくことは、とても美しいことだったのだと」
「はあ? なに言ってんの。老いたっていいことないよ、足遅くなるし、忘れっぽくなるし」
サラが素っ頓狂な声を出す。クラウスは、ははっと乾いた笑い声を上げた。
「元から思考力の低い獣族には分からない感性かもしれませんね」
「ほおん……そっか。じゃない、お前失礼なこと言ったろ!」
一旦受け止めてから怒りはじめたサラを、クラウスは重ねてからかう。
「それと、サラが忘れっぽいのは老いたからじゃなくて、若い頃からです」
「あんたねえ! 精霊族って、皮肉屋で意地悪だよね!」
「獣族が直球すぎるだけです」
ふたりの笑い声は、森の静かな涼風に運ばれていつまでも続くようだった。
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