一章 雨夜の星 ①
茹だる季節。
肌を刺すような陽射し。
眩しいくらいに白く、大きい入道雲。
何もしなくても、じっとりとかく汗。
その汗のせいで張り付くシャツ。
そして、ただでさえ暑いのに、それを助長する蝉の声。
七月
期末テストも終わり、すぐに夏休みがやってくる。
海やプール、旅行やら、夏祭りやらの話で、クラスの大半は浮き足立っていた。
「ひかり〜テストどうだった?」
「まずまずかなぁ。山は当たったけど、ちょっと意地悪な問題多かったよね」
私、
小学校までは東京からかなり離れた田舎に住んでいたけど、父親の転勤で今は東京でも都心の方に住んでいる。
「私山外した〜! 範囲広い上に引っ掛け問題とか、性格出てるよね〜」
彼女は、
数少ない、私の大切な友達。
一年の時に席が近かったことがきっかけで仲良くなった。
人見知りってわけではないけれど、元々自分から話しかけに行ったりするのが苦手だった。
そんな内向的な私は、引っ越してきてから何となく馴染めなくって。
気付いたら、前よりもずっと色んなことに消極的になってしまっていた。
だから、友達なんか全然できなくて。
入学早々一人でぼうっとしていた時、そんな私に声を掛けてくれたのが純だった。
「みんな夏休みの話ばっかだね。まだテスト返却残ってんのにさ」
「仕方ないよ、来年は受験とか就職とかで夏休みなんてあってないようなものだもん。今年の内にやりたいことはやっておかなくちゃね」
「やりたいこと、ねぇ」
純は少し考えてから、
「ひかりは夏休み何したい?」
そう聞いてきた。
「……私は、特に何も」
これと言ってやりたいことは思い浮かばなかった。
今年の夏休みも去年と同じ。
課題を早めに終わらせて、あとは読書や映画なんかを見て、家でゆっくり過ごすんだろうな。
「純は何するの?」
私の問いかけに、待ってました! と言わんばかりに、純は答えた。
「バイトしたい! そんで、今年こそ素敵な恋して、彼氏作るの!」
「え、うちの学校バイトダメじゃなかった?」
「夏休みの短期ならいいらしいよ〜」
知らなかった……。
バイト、か。
どうせ予定なんてないんだし、私もやってみようかな。
「あ、そうだひかり! 今日この後、暇?」
「うん、何もないよ」
「んじゃ、とりあえずどっか行くか!」
そう言うと、純は私の腕を引いて教室を出た。
今週は午前中で授業が終わるため、お昼過ぎにはもう運動部の掛け声が外に響き渡る。
「運動部の掛け声ってさ、聞くだけで暑さ倍増するよね〜」
「蝉の声も相まって、余計にそう感じるのかもね」
外は、太陽が容赦なく照りつける。
暑さのせいか、何だか頭がぼうっとする。
「でさ、ひかりはどうする?」
「……え、」
「この後、どうする?」
「あ、えっと…」
しまった、何だっけ…
「あ、さては話きいてなかったな?」
「ごめん、暑さでちょっとぼうっとしてた」
「ひかりはどこか行きたい場所とかあるって話だったんだけど」
そう言うと、純は少し考えてから、
「よ~し! そんじゃ、ひかりのために涼しい場所を紹介しよう!」
そう言って、満面の笑みで再び私の腕を引いた。
学校の敷地をでると、どこもかしこもアスファルトだらけで、照り返しが暑い。
「純、どこに向かってるの?」
「着いてからのお楽しみ!」
私は少しぼうっとしながらも、純に腕を引かれ、炎天下の中を歩いた。
「着いたよ! ひかり〜〜〜?」
「ッ、何? 純」
「ほら、着いたよ!」
「文化総合センター?」
てっきりカフェかどこかに行くと思ってた。
……純の好きそうなものなんてあったかな?
「まあまあ、ゴールはまだだよ? 着いてきて!」
そういうと、純は私の腕を引いたまま、建物の中へずんずんと進んでいく。
「ちょ、ちょっと純!」
慌てて声をかけたところで、ピタリと純は立ち止まり、両手を大きく広げて、目的地の名を口にした。
「プラネタリウムです!」
――プラネタリウム
「どう? 驚いた?」
――ズキッ
「暑いから涼しさはマストでしょ? それに〜」
――ズキズキッ
頭の端が痛い。
心臓はバクバク
――はぁっ、はっ、はっ……
息ができない、
どんどん、苦しくなる…
「……ひかり?」
声が、段々遠く、
「ひかり!」
薄ぼやけてた視界は、段々と光を失い
やがて、漆黒に包まれる。
♢ ♢ ♢ ♢
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