第4話 勇力とミルキ

「クロリア君、どうも君に依頼したのは失敗だったのかな・・・?」


校長はそう言う。顎髭を盛大に伸ばし、かなりの威圧感だ。


「早苗くんはまるでレベルアップしておらんし、太郎との関係も入学当初のままじゃ。・・・わしのアテも外れたかね?」


「待ってください、校長!」


クロリアは慌てて言った。三食に風呂付きの仕事を失ってしまう!


「俺ほど早苗をイジメれるヤツはいませんよ!」


「それも怪しいものだ・・・早苗はあの美貌で天真爛漫・・・かの”毒猿”も牙を抜かれたかね?」

「馬鹿な! 俺のイジメ力を信用してください!」

「・・・いじめられっ子とイジメっ子が、その後恋愛関係になることは、案外あるそうだ・・・特に加害者が女で、被害者が男の場合はな・・・君らに払った大金を考えると、そうならんことを祈るよ」


・・・・

・・・・・・・・


「さて、一年生の『銅級勇者』になるための模擬訓練が始まるな・・・生徒会のみな、気を引き締めろよ!? 俺たちは、訓練教官でもあるんだ・・・無様な所を見せたら、寝首かかれるぜ?」


クロリアは机に腰かけたままで言った。


「ゲッハハ! 腕が鳴りますぜえ、猟団長! いや、会長! ”鋼鉄眼”のゼブロの腕をみせましょう!」


ゼブロは腕を回す。野太い腕は、小さな岩山のようだ。


ミルキも、手製の短弓ショートボウの弦をはじいて遊んでいる。


「もっとも・・・ここには約一名、生徒会員なのにまだ”銅級勇者”にもなってない子がいるようね・・・銅級、銀級、金級、そして金剛級と無双級。五段階で一番下の段位なのにねえ」


ミルキは冷たい視線を早苗に送る。


「ご、ごめんなさいミルキさん・・・私、今度こそモンスターを倒すね」


「今度こそお? そう言って、また兄さんか太郎に甘えて助けてもらうんでしょ? アッハハハ! 本当に可愛い顔して、強い人の背中に隠れるのだけは上手いんだかラア!」


(ミルキ、今日はなかなか演技に気合が入ってるなあ)と俺は思っていた。


「そ、そんなんじゃないです! 私・・・これでも必死で・・・!」


早苗は肩を震わせている。


「そ、そうです! 早苗ちゃんは、今回こそやりますよ!」


太郎はそう言う。


(よしよし、太郎と早苗はいい感じだな)


 俺はそう思っていたが、


「ほーらみなさい! 結局、太郎にかばってもらうんじゃん・・・! あんたなんて、それしかできないんだからネエ、このブリっ子! いつも足手まといなんだから!」


(おや? なんだかミルキ、急に気合が入ってるなあ)


「ごめんなさい、ミルキさん・・・私、今度こそ・・・」


太郎はニコニコと笑い、

「ほら、ミルキさん。早苗さんもこう言っています! あ、そうだ! 遠距離攻撃中心のミルキさんと、早苗さんがコンビを組めば、物凄い連携が取れるんじゃ・・・? 」


しかし、ミルキは何故か太郎が早苗をかばうことに、異様な敵愾心を持っているように、

「それが隠れてるって言ってるのよ! 何も出来ない癖に! 太郎くんの前でだけ、いつもかわい子ぶって、このアバズレ!」


「・・・どうした、ミルキよ。まあ、なかなか気合が入っているが・・・その辺で止めておけ。あまり、言いすぎても・・・」


(この”任務”にやる気のなかったミルキが、急にどうしたんだ?)

俺は戸惑っていた。

生意気系のJKでいけと言ったのも、存分に早苗をイビるように言ったのも俺だが、あまり強すぎると二人が上手く行かなくなる。


ミルキはきっと睨み、

「兄さんまで早苗の肩を持つの? どっちの味方なの!?」


(なんだあ? クールなミルキの様子がヘンだぞ・・・? これじゃ、ごく普通の妹だ)


「無論、お前の味方さ、ミルキ・・・」


「じゃあ、早苗のこの成長しない様子はなんなの・・・!?」


俺はミルキの耳元で、(いや、だからそれを俺らで”上手い加減”でイジメて、パワーアップさせるっていう話であって・・・)


しかし、ミルキは

(何よ、兄さん! イジメろって言ったり、止めろと言ったり、おかしなのは兄さんの方でしょう?)

(そりゃそうだが・・・)

「ねえ、早苗。太郎の前ではいい子ぶって手なずけて、大したモンねえ」


「わ、私はそんなじゃありません、会長!」

「えーと、ミルキ・・・? ちょっとこっちに来なさい」


腕を軽く掴む。

太郎は「大丈夫? ミルキさん」と声をかけている。


「お前さっきから、どうした・・・? 『太郎くん』って・・・急にやる気を出してくれたようだけど、ヤリスギは駄目だぜ・・・? あくまで、かるーいイビりで・・・」


「フン、兄さんも太郎く、太郎も、あのメスイヌに騙されているようね・・・! 」


「メスイヌって・・・どしたんだ、ミルキ。まさか・・・」


クロリアははっとしていた。


(まさか・・・まさか、ミルキ・・・お前・・・!)

(よく考えると・・・ミルキはこれだけ可愛いのに、今まで彼氏なんかいない・・・)


「ハン! 早苗のことだから、どうせまた太郎に全部やってもらうんでしょ? ほんっとにみんな、甘いんだからサア! 兄さんも兄さんで、すっかり骨抜きにされてるんじゃないノオ!?」


「ミルキさん! いい加減にして! 私は、そんなことしません」


大人しい早苗もムキになっている。


「ミルキさん・・・? 今日はどうしたの・・・? なんだか、いつもと違うよ・・・?」


太郎も、呆然としているようだ。



『案外、イジメの加害者と被害者が恋愛関係になることは多いそうじゃ』



クロリアは、拳を握りしめていた。


(マズイ・・・最悪の状況だ・・・)


「どーだかねえ。私は、普段通りよ! けれど、どっかの早苗さんが、いつまで経っても成長しないから、みんなが困るねえって言ってるのヨオ! と、特に太郎は、今が重要な時期なのに、いつまでもアンタのお守りじゃあ、レベルアップもできやしないわネエ!」

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