第3話 戸惑う子猫のミルキ

「おりゃあああ! 雨散弾レインショット


ミルキは、弓から五連の矢を放った。


雨のように注がれる矢で、次々にゴブリンたちは倒されていく。


「ぐるっが!」

「ぎゃぎりい!」


ミルキのショートカットで綺麗に揃えた髪が、日光で煌めいている。


「ミルキさん、スゴイよ!」


太郎は、倒された無数のゴブリンの死体を見ていた。

かなり大勢のゴブリンの群れだったが、ミルキの手にかかれば造作もなかったようだ。


なんせ、ミルキは魔道弓マジックアーチャーという、最上級職でレベルも相当に高いのだ。


(本当にミルキさんは、生徒会での仕事も素早いし、強いし。僕も見習わないと)


太郎はそう決意していた。


「まあ、こんくらいヨユーよね? 太郎も、もうちっとレベル上げればア?」


ミルキは、”イマドキの生意気なJK”という設定なので、そういう言い方をした。


(うう、なんだか恥ずかしいナア・・・)


こんなしゃべり方で馬鹿みたいと思われてないかしら?


「太郎がお前を好きになっちゃいかんからな。ミルキもかなり可愛いんだ。太郎が苦手そうな生意気JK風の話し方でいこう」と兄貴に言われて始めてみたが、本当にバカみたいだ。


けれど、”七英傑戦争”で行方不明になったクロリアと再会できてから、どんどん勝ち気になり、この「イジメ依頼」も引き受けて、生意気女子高生のようなしゃべり方で通してきたのだ。


「うん、僕もミルキさんみたいに強くなれるのかな?」


「あたしにイ? 太郎にはもっと他に狙っている人がいるじゃん?」


ミルキは尋ねた。


そもそも、今回の演習でクロリアと早苗、ミルキと太郎に分かれたのは、


「恋愛の進展」について聞き出すためでもあるのだ。


「近くにあんな美人がいて、さっさとコクらないと他の誰が早苗に手を出すか分からないワヨお? ねえ、早苗とはどうなってんのヨオ?」


ウリウリと肘でつついてやる。


「え・・・? まさか、僕が早苗さんなんて・・・」


途端に赤くなってうつむいてしまう。


フフン、チョロいもんだ。


「そんなだから、太郎はダメなんショオ? 私がちっとレンアイも指導してあげよっかア?」


ミルキはそう言った。そもそも、こういう方向に持っていくための今回の演習である。


「ま、まさかいいよ! それに、早苗さんは勇者の末裔なんだ・・・僕みたいなドン亀じゃ・・・」


あらら、少し自信喪失しているみたいね。イジメすぎてたかしら?


と言いつつ、私もまだぜんっぜん恋愛の経験なんてないので、どうすればいいか分からないけれど。


「そんな自信なくして、どうすんノ? 昔の科学者も言ってるッショ? 『なんで自分を責めるんだい? 他人が君を責めてくれるのに』ってネ」


「あはは、ミルキさんは面白いことを知ってるなあ!」


太郎は真面目そうだけど、すぐに笑う子でクラスでも人気者だ。


「ミルキさんこそ、付き合っている人とかはいないの?」


「まっさか」


ミルキは「いじめっ子」として通しているはずなので、モテるはずがない。


「あたしが早苗にやってること知ってるッショオ? 私は性悪だからさあ、あーいう子を見てると、イライラするのよね。あんたも知ってるでショ? 私の性悪っぷりをサア・・・」


そう、万一にも太郎が自分に気を向けないように、”嫌味なJK”を演じる必要があるのだ。


「そんなことないよ! ミルキさんはいつも仕事も戦闘も物凄く頑張ってるじゃん。僕は、いつも見てるよ、ミルキさんの頑張りぶりをね! だから、ミルキさんが性悪だなんて、そんな風には思わないよ!」


にこっ、と屈託なく微笑む太郎。


「う・・・え・・・? え・・・?」


とくん、と何故かミルキの心に弾みがつく。


「実際、厳しいし、キツイことを言うこともあるけど・・・けれど、ミルキさんは誰よりも生徒会のことを考えてるんだよね? 物凄い仕事ぶりだもん! それに、魔道弓師マジックアーチャーっていうだけでなく、レベル上げもかかさずやっているし、きっとミルキさんはいずれ勇者のパーティ、”七英傑”の中にも入れるんじゃないかな? ミルキさんは厳しいけど、その強さに憧れている人も多いんだよ?」


とくん、とくん、どきん。


あれれ? な、なんだ? どうしたのあたしの鼓動は?

このぼやっとした太郎が、真顔で褒めてくれると、なんだかつい・・・


気弱なのに、他の人を守る時にだけ、急に強気になるんだから・・・ほんとに困ったヤツ!


「ば、バカなんじゃないノオ? あたし、そんな”七英傑”なんか目指してないし、そんな真顔で褒められても困るだけだし、ちょっと嬉しいけど、結局あんたなんか、あんたなんかどうでもどうでもいいシイ・・・ば、バカなんじゃない!? ほんとに! ほんとに、あんたんなかに褒められても、嬉しくないんだケドオ!?」


「そうだよね? 僕なんかじゃ、ミルキさんと一緒のパーティには入れないよ! 僕、ミルキさんみたいに強くなるために、修行するからね! あ、そうだ・・・卒業しても、一緒のパーティにならないかな?」


「ぐ・・・だから、そーいう恥ずかしいことを真顔で言うの・・・や、やめてってばあ」

「僕はミルキさんのように頑張るよ!」

「はぐ・・・や、やめてってえ・・・」


真っ赤になって、両手をもじもじと交差させるミルキ。


実は、ミルキの元の性格は、こういう感じである。


「え・・・? どうしたの、ミルキさん。なんだか、急に可愛い感じで・・・」


太郎はぽかんとしている。


「な、なんだトオ? 今までがカワイくないってノ? 太郎のクセに、生意気だゾオ?」


「わわ!? 戻った? あれ? さっきのミルキさんは・・・? 見間違いかな?」


「う、うるせーんだヨ。太郎、さっさと残りを片付けるよオ? ぼさっとしてるなら、置いていくゾオ?」


「は、はい!! あれ・・・? さっきの子猫みたいなミルキさんは・・・?」


太郎は首を傾げながらも、ミルキの後を追った。

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