[共有]ズキッとバキッと一心同体[してみた]
Case2:武井勝(HN:ウィナー) その1
『こんにちぃなー! どうも、何でも挑戦するチャレンジャーマン、ウィナーでっす!』
視聴者の心をガッチリと鷲づかみにした挨拶から、俺の動画は始まる。
俺は人気動画サイトでチャレンジャー企画を日夜投稿している今売れに売れている動画主というやつだ!
……まぁ、俺のチャンネル会員数4桁からなかなか増えないけど、いつかドッと会員が増えるって俺は信じてる。
『今日のチャンレンジャー企画は、この激辛で有名なカップラーメンを一気に食べてみた! ってことで、一気に完食できたら俺の勝ちってことで、いっちょ勝負してみたいと思いまーす』
今、俺は明日投稿予定の動画の編集作業をしている真っ最中だ。動画を切り貼りしてコメントを付けたりと、視聴者が楽しめるような編集を心がけつつ、作業していた。
いやぁ、それにしてもこのラーメン食べたの半月前のことだが、メッチャ辛かったんだよなぁー。
『からっ! 無理!』
あ、今動画の俺が台所に駆け込んだぞ。黙々と撮影した映像を見ながら、【しばらくお待ちください】というテロップ画面を挿入しておく。
そんな作業をしているとスマホが軽く震える。気がついてスマホをつけると其処には、
【新規メッセージが一件あります】
というSNSへDMが届いたことを知らせるポップアップ通知が表示されていた。俺が通知をタップすると、メッセージが開く、
《ウィナーさん。初めまして。わたしは“かれん”といいます。
いつも動画投稿お疲れ様です。初めてウィナーさんの動画を見たときとても元気付けられて、それ以降応援していました。今回、DMさせていただくのはそのお礼の気持ちをどうしても伝えたかったのですが、感想をいう窓口もなかったので、この場をお借りして伝えにきました》
これはっ! どこからどう見ても、ファンからの愛の篭ったファンレターってヤツじゃないですかね!!
うわっ。初めて貰ったからメッチャ緊張する。返事出さなきゃ。
俺は編集作業なんてそっちのけで、ファンレターらしきDMに必死に頭を回転させながら、返事を入力した。
《かれんちゃんへ
こんにちぃなー! いつも動画をみてくれてありがとぅっ!
俺の動画で元気を貰っているということでとても嬉しいよ!
これからも、応援よろしくぅー!
いつでも、俺への応援メッセージ待ってるぜ☆》
精一杯動画での俺らしさを前面に出してみたのだが、何か方向性を間違った気がしなくもないDMを返信する。
これで返事が来なかったら貴重な俺のファンが一人減ってしまったという後悔を背負うことになるんだなぁーと少しばかり凹みながら編集作業を再開すると、
数分も経たないうちにDMが着いたという通知が入った。急いでスマホを確認すると、先ほど返信したファンレターの相手からだった。
《わぁー。本当のウィナーさんだ。凄く緊張して送ったファンレターに丁寧に返事を下さってありがとうございます。とても嬉しいし、一生の宝物です》
先ほどの痛々しい返信をそのまま俺のキャラとして受け取ってくれた彼女は、とても嬉しそうに返事をくれるものだから、読んでいる俺もついつい表情が綻んでしまう。
《これからも絶対にウィナーさんのことを応援していますからっ!!》
そのテキストの横には拳を高々と上げる絵文字が添えられていた。
《ところで、ウィナーさん。ここでメッセージのやり取りをしているのも何かの縁ですし、私のお願いを一つ聞いていただけませんか?》
彼女からの応援メッセージの次に、こんなメッセージが送られてきたのだ。
《おっ! なにかななにかな?》
俺はついつい食いついてメッセージを送る。
《私と是非共有して欲しいんです。決して怪しいサイトなんかじゃありません、許可をしていただければ、ウィナーさんについて私が共有出来るというタダの機能なので軽い気持ちで承認いただければなと思います》
彼女のメッセージの次にURLが送られてきたので、俺はスマホからタップをする。
そこはよくある出会い系とか架空請求詐欺とかのページとかではなく、シンプルなページだった。スマホにはセキュリティアプリも入れているのだが、そこから警告が来るような事もなかったので、安全なのだろう。
ページには目立つように【パーソナルシェア承認のお願い】と書かれていた。
[このページはアプリ使用者が個人と共有する際に必要な手続きを行うためのページです。指定された相手がアプリを使う必要は一切ございません。許可を押せば、簡単に手続きが完了します。共有を許可されますか?]
パーソナルシェア? なんだそんなアプリ聞いたことないなぁ。共有って一体何を共有するんだろうか? かれんちゃんは何も深く考えるなみたいなニュアンスの返事をしていたけれども。やっぱり、気になるな。
そう思った俺は、どんなものを共有するアプリなのかを訊ねてみると、
《私の個人的趣味なのであまり深くは話せないんですが、ウィナーさんの活動をどうしても追いかけたいので、それに関する共有です》
全く具体的な内容は結局分からない。どうしたものかなぁーと考えは見たけれども、こんな誠実な子が悪いことをするわけではないし、何よりハンドルネームからしてめっちゃ可愛いと思うのでここは大人しく承認許可のボタンを押すことにした。
[許可ありがとうございます。それでは楽しい共有ライフを]
というテキストが数秒出た後、ページはあっという間に消えてしまう。承認したという証拠をスクショしてDMへ送ってあげようと思ったのに。
しかし、彼女にもどうやら俺が共有を承認したという通知は届いたらしく、DMがすかさず飛んでくる。
《承認ありがとうございます。とても嬉しいです。本当に感謝です。では、これからも活動頑張ってください。応援しています》
彼女のメッセージから凄く感謝の気持ちがにじみ出ていた。
俺って良いことしたなぁーと気分も晴れやかに動画編集作業を再開する。
その日できあった動画はその編集に左右されてか、凄くハイテンションなしあがりになっていたということは過言ではなかった。
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