台場悠里① リタ姫がお礼に来た
昨日のような騒ぎはあったものの、店のオープン準備はおおむね順調だった。
品揃えは豊富で、日常品にかぎらず武具やあやしげな巻物まで置かれていた。
さすが、急ごしらえとは思えない品揃えだ。
今まで稼ぐだけ稼いでいたお金の半分を投入したとレンはいう。
相当な意気込みだ。
……レンの期待にどこまで応えられるだろうか。
てか、ここで成果が出せなければ、オレはいよいよ役立たずということになる。
昨日は結構うまく立ち回れたとは思う。
指輪の鑑定結果は要努力だったけど。
努力というと訓練がてら、市場に寄って掘り出し物がないか探していた。
しかし今のところみつかってはいない。
おそらく市に並ぶ前に大手の武具屋などに持って行かれてるんだろう。
単にレア物か否かを判断するだけなら、普通の鑑定士の精度で十分ってわけだ。
なにか他にできることはないか。
するべきことはないのか。
『なんでアンタ、転生してきたの?』
不意に、今日学園で言われたことを思い出す。
……そんなの、オレが知りたいよ。ふう。
「こーらー、シュウくん。
ボーっとしてないで入荷した薬草を棚にしまってちょうだい」
レンの綺麗な顔が棚の脇からちょこっとはみ出す。
彼女はオレを見ると心配そうにカウンターに近づいてくる。
「どうしたの? シュウくん。
……もしかして悠里さんのこと? 別に気にしなくていいのに。
あの子は、そういう娘だから」
『大場 悠里』はこの世界でのもう一人の天敵。
転生者で、『農民の加護』を与えられている女子だ。
そのジョブクラスは、オレより多少は戦闘への適性がある。
だが戦闘系の加護を持つ奴から見ればどんぐりの背くらべってところだろう。
それでもオレとは違い、転生者として分かりやすく頑張っていて。
そんなわけでクラスのムードメーカー的なポジションに収まっていた。
そして明らかにオレを嫌っている。
勇者が陰湿にネチネチくるなら、彼女は直球で罵倒、そういう違いしかない。
「けどさ、あいつの言うとおり実際役立っている感じもしないし……」
「そう? わたしはシュウくんがいて、たすかってるけど?」
「うーん、確かに仕分けは鑑定眼で出来るから便利かもしれなけどさ。
もっとこう、鑑定士にしかできない何かってしてないじゃないか」
「お姉ちゃんだってそうよ?
わたしも戦いなんでまるで分からないもの。
スキルだって商人らしいの、持ってないし」
驚いて思わずレンを鑑定眼で見てしまう。
たしかに彼女の所持スキルは薬師スキルや低レベル隠密スキルなど。
薬師のスキルは珍しいが、商人に関係しそうなスキルを持っていなかった。
「でも、それにしてはうまく商売ができているじゃないか」
「きゅぅ。ま、まあ一応、商人の加護を受けているし?」
つまりスキルなしで、持ってる人と同じ土俵で商売をやってるってことか。
それはそれでスゴいな。
もっとも転生者は総じてレアリティランクが4以上。
鑑定情報に欠落が発生する。
てかレンの鑑定結果にいたっては氏名まで一部しか分からないわけで。
だから自分すら知らないスキルをホントは持ってる可能性もあるにはある。
「シュウくん、そろそろ休憩したら?
疲れているからそういうことを考えてしまうのよ」
かもしれない。
お言葉に甘えることにした。
レンは店の正面に、小さめな円形のテーブル一つとイスを三つほど置いていた。
その一つにどかっと座り、目の前を眺める。
平和だ。
魔王がいずれ復活するというが、信じられない。
ここは大通りから離れた裏の通りではあるが、適度に日が入りぬくぬく。
また、目の前には水場があり、すこしひらけた感じになっている。
そんなわけで冒険者は寄りつかないが、王都の住人はそこそこ訪れていた。
彼らを相手にすれば客入りは確保できるが、日常品は大して金にならない。
それで利益を出そうとすれば、やはり大通りくらい人がいないとダメだろう。
なので店は冒険者を中心にアピールすることになる。
とはいえ、単純に冒険者向けの武具だけ扱っていればいいわけじゃない。
品揃えでは大手にはおよばないし、始めたばかりじゃ名も知られてないだろう。
ある程度は日常品を取り扱い、地道に知名度を稼いでいく必要がある。
……みたいな話をしたら、レンに頭をなでられた。
大体同じことを考えていたらしい。
現実面で細かい調整は必要なようだが、レンに任せていれば大丈夫だろう。
「あの……勇者さま?」
小さく可愛い声に思わず思考が止まり、思わずそちらのほうを向く。
そこには一人の愛らしい金髪少女が立っていた。
「君……いや、貴方は」
「はい、昨日助けてもらった者です。その節はお世話になりました。勇者さま」
「いえ、まあ仕事の一端ですから。
盗品であるのを分かって扱ったら、自分が怒られてしまいます」
「くすくす、そんな丁寧な口調で話さなくても大丈夫です。
今は勇者さまと同じ一学生にすぎませんから」
それで大丈夫なわけはないだろう。
だが、彼女の言葉に逆らうのもいろいろ面倒なので、受け入れてしまう。
「なら、き、君も『勇者さま』っての、やめてくれないか?
オレはそんなんじゃないんだからさ」
「え? そうなのですか?
でも、レンさんから転生者学級に在籍していると聞いていましたが……」
「いやいや。
勇者っていうのは『勇者の加護』を神から受けた、ただ一人をさすんだよ。
オレは『鑑定士の加護』を受けた一介の鑑定士にすぎない」
「そんな!
あんな強力な指輪を使えるのは、勇者さまだからではないのですか?」
「? それって昨日の? あのとき使ったのはこれだよ」
太陽の指輪。
レアリティのランクは2だが、ほとんどの遺跡から数十個単位で発掘される。
誰でも知ってる、どの店でも捨てるように置かれている指輪だ。
オレが今しているその指輪を見せると、リタは目を見開く。
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