第16話 悲劇

 野球観戦から月日が経ち、あまねの学校は夏休みに突入していた。

 夏休みが始まってから三日目、あまねは三四郎の家に行くことになった。三四郎からラインで来てほしいとメッセージがきた。あまねの家から歩いて三十分ほどだった。三四郎の家は和風の一軒家だった。庭は木が生い茂っており、手入れがされてなかった。

 あまねはインターホンを押し、家に入った。三四郎が玄関に立っていた。三四郎はパンツ一枚だけだった。あまねは眉をひそめた。

 「えっ?パンツ一枚だけ?」

 「裸でびっくりした?」

 「びっくりした…」

 あまねは驚いていた。

 「今日は特別な日や」と三四郎は謎に満ちたことを言った。後にあまねはその意味を知る。 

 玄関で靴を脱ぐとリビングルームに案内された。

 リビングルームはたくさんの新聞が山積みされていた。中身のない缶ビールも数本床に転がっていた。その床にはホコリが積もっていた。何日も掃除がされていないのだろう。リビングルームは異臭が漂っていた。

 あまねは少し怖くなってきた。一人でこの部屋に入ってきてよかったのだろうかと思った。何か危ないことをされるのではないかと思った。


 「俺一人で住んでるねん。家族に見放されてん」

 「そうですか…」

 「汚くてびっくりした?」

 「はい…」

 それよりあまねは三四郎に服を着てほしかった。

 「服着ないんですか?」

 「ええねん、暑いから」三四郎はぼそっと言った。

 部屋は冷房もついてなく蒸し風呂状態だった。あまねの頬を汗が滴り落ちる。

 あまねは部屋の汚さが目に余った。

 「あたし掃除しましょうか?」

 三四郎は黙ったままあまねを見つめていた。いつもの飄々とした目じゃなかった。何かおかしいとあまねは思った。

 するといきなり三四郎が距離を詰めてきた。不自然な行動だった。

 あまねの華奢な腕を強く掴んだ。

 「なんですか?三四郎さんっ」

 三四郎は答えずにあまねの身体を掴み引き寄せた。あまねは裸の三四郎に抱きつかれた。そしてそのまま引き倒された。あまねは抵抗した。三四郎はあまねにのしかかり、あまねの顔を舐め回した。

 「いやや、やめてっ」

 「今日は特別な日や」

 三四郎はあまねの胸をまさぐったあと、スカートの中に手を入れた。

 あまねは頭が真っ白になった。

 やばいと思った。

 あまねは渾身の力で三四郎から逃れ、家から逃げ出した。とにかく逃げないと。

 一体何なんだ。

 あまねは悔しくて涙が出てきた。

 三四郎があんなにおかしな人だと思わなかった。

 あまねは泣きながら自宅へと帰った。

 もう三四郎とは絶対に関わらないでおこうと思った。

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