第1話
あ〜、終わった……」
生放送の歌番組終了後。
本日の仕事を終えた時雨は楽屋で伸びをしていた。
新曲をテレビ初のフルオンエアということで盛り上がっていた方々には申し訳ないが、疲れたので早く帰りたいしか考えていなかった、というのが彼女の正直なところだろうか。
既に私服に着替えており、すっかりリラックスモードだ。
「時雨、疲れてるのは分かるけどダラけるのは帰ってからにしろ」
そんな時雨に苦笑するのはグループのリーダーである悠飛だ。
髪の色は金から地毛である茶に戻っている。
派手な蛍光色の服装も白色のシャツにロングカーディガンとジーンズという服装に変わっている。
これではチャラ男というより好青年だ。
悠飛の言葉に時雨は軽く頷き、立ち上がる。
「はーい。ていうか悠飛、今日飲んでこ」
「酒飲まないのにお前はなんで飲みに行くんだ?あと、ミステリアスキャラでうってるアイドルが居酒屋にいるのとられたら普通にヤバくないか?」
「本当はチャラいの「チャ」の字も出てこないような男が今更何言ってんの?」
図星だ。
悠飛は時雨からサッと視線を逸らす。
デビュー当時、自分のキャラ設定が本来の性格と真逆で戸惑ったのは鮮明に覚えている。
周り曰く、真面目・誠実・努力家で面倒見もよく事務所の後輩から慕われているとの事。
素でやった方がいいのでは?と疑問を持たれる事も多いが苦労してつくりあげたキャラのため今更変えるとなると胃が痛くなる(既になっている)と本人は譲らないらしい。
週刊誌にあることないこと書かれまくって苦労したのはつい先日の出来事であり、デマ情報を流されるのは困りものだがそれ以上にキャラづくりに苦労したようだ。
「まあ、私は兄さんがチャラ男でいい加減だし。悠飛を見習って欲しいくらいだけど」
時雨は遠い目をしながらため息をつく。
ちなみに、芸能一家の秘蔵っ子としてデビューした彼女の兄も芸能人である。
そんな遠い目をしている時雨を横目に悠飛は楽屋の端に目をやった。
「なんか飲みに行くらしいけどお前も行くか?」
「ん?ああ」
楽屋の端に置かれた椅子に座っているのは雅哉だ。
雅哉は難しい顔をしながらゲーム機片手に顔を上げた。
「時雨。お前はポケ○ンの最初の三匹何にすべきだと思う?」
「アンタ、クイズ番組の超難問は怠そうな癖してサラッと解くのになんでゲームはそんな真剣に迷ってんの?しかも、めっちゃ最初じゃん。バトルすら始まってないじゃん」
突然幕を開けたゲーム談義に悠飛は長くなりそうだなと椅子に座る。
雅哉は所謂、オタクというやつである。
漫画やアニメも好きだが特にゲームへの愛が強くこだわりが強い。
時雨も漫画やアニメが好きだが悠飛はあまり興味が無いので基本二人が喋っている。
「こういうところにこだわりがあるんだ。さっさと言え」
「ドS遅刻魔が命令するな。……私は水タイプが好きだから水タイプのやつだよ」
「じゃあ俺は水以外にするか」
「聞いた意味よ」
お互いかなり酷いことを言っても傷つかないのをいいことに言葉のキャッチボールならぬハンマー投げをし出すので今のはかなり緩い。
今なら中断しても許されるか……と察し、悠飛は立ち上がる。
「で?飲みに行くんだろ。行くなら早く行くぞ」
時雨が頷きついて行こうとすると、雅哉が口を開いた。
「店行くの面倒だな。悠飛、お前ん家で良くないか?」
「は?」
雅哉の提案に悠飛があからさまに顔を顰める。
その背後には「嫌だ」という二文字が太字で浮かんでいる。
「店行くの面倒なら自分家でいいだろ。なんでわざわざ俺ん家なんだよ」
「あ〜、あれか。お前の家は俺の家的な。私も家近いから帰るの楽だし別にどっちでもいいよ。あ、でも泊めてくれたら嬉しい」
「妙にアニメネタ挟むのやめろ。あと、酔って寝ても問題ないのをいいことに俺ん家に転がり込むのそろそろやめろ」
悠飛は早口でツッコミを入れるが時雨はどこ吹く風だ。
毎度ほぼ同じやり取りをしているのだが、三人揃って飽きずにやっている。
そして、居酒屋に行くのか悠飛の家に行くのかはその日の三人の気分次第だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます