第44話 肉じゃがでお腹いっぱい1月12日

 秘密の抜け穴を通ってハイデ殺害現場へやってきた。無月さんもふたりどうにか通路をやってきた。いや、いくらなんでもシンクロしないでも動けるから、どちらが先に通路にはいるか決まれば終わる話だけれど。

 見逃しがないようにハイデの部屋の明りをつけた。すべてがまるっとお見通しになった。

「ふっふっふ、わかりましたよ。無月弟さんの無実を晴らす方法が」

「さすが九乃さん」

「さっきはなんもわかってないくせにって言ってましたよね」

「忘れてください」

「いいんですけど。これを見てください」

「これって、ベッドのことですか」

 九乃カナは手を広げてベッドを示している。

「なかなか立派なベッドですな」

「どの部屋も同じみたいですけど」

「ベッドのマットレスをどかすと」

 九乃カナはマットレスに手をかけている。

「どうしました。どかすとどうなるんですか」

「いや、無理でした。重たい。ひとりではどかせませんね」

 無月さんがやっても、手を差し込んだところはもちあがるけれど、全体を移動させるのは無理っぽい。

「ということはですよ。ベッド自体が横にスライドします」

 今度はベッド本体を動かそうとしても、やっぱり無理。

「なさそうですけど」

「へんだなあ。ベッドの下に別の抜け穴があるはずなのですけれど」

「なぜそんなことがわかるんですか」

「論理的帰結です」

 キラン。メガネを持ち上げる。

「それがやりたかっただけなんじゃ。というか、抜け穴見つけてませんけど」

「論理は現実を超越しているのですな」

「ダメじゃん。ベッドにハイデが寝ていたら、ベッドだのマットレスだの動かしたら起きますよね。襲う前にひとを呼ばれたり退治されたりするんじゃ」

「その通りです。ベッドの下に抜け穴なんてなかったのです」

「九乃さんに期待したのがバカでした」

 がっくりきている無月弟さん。そんなことない、九乃カナに大いに期待して! 弟をカバーするように無月兄さんが手をあげる。はい、無月兄さん!

「坂井令和(れいな)さんはどうしたんですか。探偵のはずじゃなかったんですか」

「今は脳の研究でスウェーデンのウプサラ大学にいます」

「はあ」

「あ、わかりにくかった? 今のは島田荘司の探偵で御手洗潔の話ね。ネタです、ネタ。ツッコむところですよ」

「解説されてもわかりませんけれど」

「坂井さんなら、まだ手首の事件にかかりきりですね。早く登場してもらっても、文字数が足らなくなるし。しばらく我々だけで頑張りましょう」

「はあ」

 うかない顔。


「それにしても、教会につながる地下通路にはどうやって行くんでしょうね。この部屋から行けるのだとばかり思ったのに」

「なるほど、教会からこの部屋に忍び込んだんですね、真犯人は」

「でも、ちがったみたい」

「諦めないでくださいよ、そんな簡単に」

 狂信者が忍び込んでハイデを殺したのなら、あんなカーテンぐるぐるナイフでぶすっていう殺し方もしそうかなって思ったのだけれど。確かに無月弟さんの殺し方ではない。いや、殺し自体ないか。

 ほかにもカズキ殺しに死体消失、ミカン誘拐に崖から転落というふたつの事件も解決しなくちゃいけないし。メンドクサイ。

 無月さんは地下通路への入り口を探しているけれど、部屋のどこからも発見できなかった。

「やっぱりないのかなあ」

「別の部屋を探しますか」

 九乃カナは、斧で壊されたあと応急処置をされたドアをでた。玄関の反対に向かって廊下を進む。

「幽霊でも出そうですね」

「フリですか」

「バレバレですな」

 やめておこう。

 事件のとき1階に降りてきた階段に出た。

「あれ? この階段、下につづきがありますよ」

「なんだ、隠してないじゃん」

 地下へつづく階段は普通に設置されていた。そういえば、中世の城は地下倉庫があるのだったっけ。オトラントの城だな。オトラントの城なんて知っている人いなさそうだけれど。元祖ゴシック小説と言われるのだぞ。

 地下へ降りると、やっぱり倉庫になっていた。大きな空間を柱で支えている。部屋もある。怪しい。

「行ってみましょう」

「犯人がまたきたらどうするんです?」

「美女が殺される流れですか」

 九乃カナは髪をうしろに払った。

「殺されたいんですか」

「抵抗しまくりますけれどね。なんなら道連れです」

「いやな被害者ですね」

 あきれている。よし。キャラにもあきれられる小説を売りに、ならないか。

「開けますよ。心の準備はいいですか」

「なにかあるんですか」

 九乃カナはドアを勢いよく開けた。

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