第43話 かっぱえびせん1月11日
小天体とメフィストのせいでひどい有様だけれど、ぼおっと眺めていてもラチが明かない。
「おうちに帰りますか」
「お城にもどらないんですか。事件はどうなったんですか」
「こんなことになって、きっと人も大勢死んだでしょ。無月弟さんがハイデを殺そうと、警察はかまっている場合ではないことでしょう」
「そんなあ。疑いを晴らしてください」
「つらい事実を突きつけられることになるかもしれないのに?」
「やってませんから!」
密室トリックを暴くとなると骨が折れそう。ポッキポキに。気が重い、ヘリウムくらい。水素よりは重い。でも、2番目に軽い。
「よし、行ってみますか」
「はい」
「自分は弟が犯人でいいと思いまーす」
「だよね」
「ふたりともー!」
無月弟さんの運転でお城へ戻ってきてしまった。
「お帰りなさいませ」
「執事さん、恨みます」
恨みがましい目で執事さんを見つめる。九乃カナは根にもつタイプ。大根くらい。太っといな。
「申し訳ありません、おふたりがまたいらしたら警察に一報いれるように言われていましたもので」
ふん、小市民だから仕方ないか。多くを望んではいけない。執事さんは愛のレジスタンスではないんだから。ジ・アルフィー。
「今日はもう時間がないから。ちがった、夜だし、いろいろあって疲れたし、おにぎりでももらってお部屋で休ませてもらいますね」
「では、おにぎりとお味噌汁を作ってもっていかせましょう」
「罪滅ぼしですね」
「市民の義務でございます」
食えない爺さんだ。
無月弟さんと九乃カナは前回と同じ部屋へ通され、無月兄さんは無月弟さんの向こう側に部屋をあてがわれた。
おにぎりを食べ、味噌汁も残さず飲み干した九乃カナはシャワーを浴びてベッドに入った。深夜2時、パチリと目を開けると、むっくり起き上がり、のそりと床に足をおろした。ベッドから抜け出た姿は、普段着姿だった。はじめからゆっくり休もうなんて思っていなかったのだ。
無月兄さんの部屋をノックする。反応がない。のん気に眠っているのだろう。いい気なものだ。今夜はなにかが起こるに違いないのに。
コートのポケットからスマホを出して電源オン。無月兄さんにかける。着信音がした。でも、音は無月弟さんの部屋からだった。
『どうしたんですか、こんな時間に』
『ひとりでは寂しかったの? 双子はいつでも一緒でないと死んじゃうの? かわいい動物』
『ちがいます』
無月弟さんの部屋から顔がのぞいた。
「もう部屋の前にいたんですか。どうぞ入ってください」
「すみませんねえ、お邪魔しちゃって」
相手にしてもらえなかった。部屋に入ると照明は消えていて、懐中電灯だった。クローゼットが開いている。
「また事件を起こそうとしていたんですか」
「ちがいます。密室トリックを自分たちで解決しようと思って」
「無理無理、それは探偵の仕事」
九乃カナは自分のことを指す。
「わたくしはそのつもりでやってきたの。あなたたちは助手ね、ワトソン役をやらせてあげる」
「でも、まだなにもわかっていませんよね、九乃さん」
「いや、もう大体わかってるから」
「絶対嘘ですよね」
「まあね。ついてきて」
九乃カナはクローゼットにもぐりこみ、背板を押して秘密の通路に進んだ。
「ちょっ、なに、てっ。あたっ。とっ」
「なにをもたもたしてるの。置いていくよ」
「すみません、ふたりでいっぺんに入ろうとしてしまって」
「なるほど、双子は動作がシンクロしているから別々に秘密の通路にはいるのは無理なのね。ということはお城の主人たちもシロってことね。城だけに」
「あの双子が一番怪しいのに容疑者からはずしちゃって大丈夫なんですか」
「一番は無月弟さんでしょ」
「ひどい」
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