第41話 湯たんぽを温めなおす1月9日
必殺技を叫ぶ感じで九乃カナは唱えた、メテオ・イレイザー!
「九乃さん? あの、なんにもかわっていませんけど」
無月さんのユニゾン・ツッコミ、やるわね。
「そりゃ、わたくしは魔法なんて使えませんからね」
「だったら、なんでやったんですか。時間の無駄ですよ」
「わぁかってる。チート能力ね」
あらためまして。九乃カナは両の手首をつける形で手を前に突き出した。なにかをつかむような仕草は、そこに球体があるかのように見える。
「」九乃カナの手が見えない球体を押しつぶす。手に力がこもる。空を破って突っ込んでこようとしている小天体は、あいかわらずだった「」
脱力。
「ダメね」
「どういうことですか、チート能力ではなかったんですか」
「悪魔みたいなメタ的な存在ならチート能力でどうにでもなるけれど、小天体は物理的存在だからチート能力で影響を与えてしまうと小説のリアリティーが崩壊してしまうということなのね、きっと」
「なにをいまさらリアリティーとか言ってんですか、とっくにリアリティーなんてありませんよ」
「ひとそれぞれのリアリティーがあるのね」
やさしい微笑み。
「いいこと言ったみたいなのやめてください。ぜんぜんいいこと言ってませんから」
無月さん、ツッコミがはげしいんではなくて。これもリアリティーの崩壊か。
ごごごごごと効果音がつきそうに、小天体はやってくる。今はもう大迫力。
「逃げた方がよいみたいね」
「九乃さんが役に立たないとなると、それしかありませんね」
「役立たず呼ばわりとは言い度胸ね」
そんなことを言っている間に無月さんは車に乗り込むところだ。置いていかないで!
車は走っているけれど、小天体は追いかけてくる。しつこい小天体ね。
「ちょっと待って」
「待っていられませんよ」
「追いかけられる方向に逃げたら、落下点に向けて走っていることになるのでは」
「どういうことですか」
「逆に向かえってことよっ!」
急ブレーキがかかって、九乃カナは頭が前に転がってゆく思いをした。ホラー案件である。
「殺す気?」
「九乃さんに賭けます」
「その賭け、勝たせてあげる」
車はUターン。もときた道をひきかえす。また時間の無駄をしてしまった。
小天体は頭上を越え、地表に突っ込む。衝撃波がきて車は一度宙に浮いて吹き飛ばされ、何度かバウンドして着地した。
地面が波打ち、こちらへ向かってくる。
「ぎゃー、なんてことなの」
「九乃さん、悪魔を召喚してください。悪魔に助けを求めましょう」
「ナイス・アイデア。本当か?」
なるようになれ。
「」九乃カナは車の窓からルーフへ這い出した。ルーフへ右手をつき、唱える。出でよ、メフィスト! ルーフから闇が吹き出し、メフィストが時空を破って湧き出た「」
「我を呼び出したのはお前か」
「お前とはご挨拶ね、ご主人さまに向かって」
九乃カナは走り続ける車のルーフに仁王立ちして威張る。
「主人と認めるものの命令にしか従わぬぞ」
「だったらまずは、あの巨大地面津波をなんとかしなさい。お前が我の下僕となる資格があるか見てやろう」
「九乃さん、一人称かぶると誰がしゃべっているかわからなくなります」
「今、そこはツッコむところじゃないでしょ!」
窓から上半身を出してツッコんでくる無月さんにルーフを蹴って応える。
「ふん、よいだろう」
メフィストは顔を九乃カナに向けたまま、腕を突き出し、横に払った。体をひねって後方まで手刀で斬り払う感じだった。空を覆わんばかりに盛り上がっていた地面は爆発し消し飛んだ。
これはこれで大参事じゃないの。
車は停止した。
小天体が激突してきのこ雲が発生していて、手前はメフィストのせいで焼けた台地が広がっている。
「悪魔は物理に干渉できるのですね」
無月さんは細かいことを気にする。メフィストは高位の悪魔だからたしかにメタに近い存在だ。小悪魔とちがって物理攻撃は効かないはず。逆に物理に干渉もできないような気もする。
「そこんところはどうなの?」
「悪魔はメタから物理の間の存在。いや、物理にメタの影を落としていると言った方が正確だが。わかりやすくいえば、メタにも度合いがあるのだ。下位の悪魔は物理にはいつくばっているようなものだが、上位のものはメタの高みに飛翔できる。高いものが下へ降りてゆくのは容易なのだ」
「うん、あとからとってつけたような言い訳ありがとう」
「言い訳ではない、もともとそういう構造をもっているのだ、この世界は」
「はいはい。わかっていますよ、作者だからね。というわけ」
無月さんはガッテンしていた。本当かよ。
「それにしても、2回も小天体が落ちてくるとはね」
「君の名は。をパクるからそういうことになる」
「どういうこと?」
「君の名は。は2回落ちただろ」
「ああ、ご先祖の時代と現代とね。でも、なんでまた落ちてくるって思ったんだろうね。入れ替わりの不思議な能力って、また同じことがあるからって避難するために伝わっていたんだよね。普通そんな能力は降ってわかないだろ。あまりツッコんではかわいそうだけれど。だからリアルタイムにもツッコんじゃダメよ」
「今度はお前の番だ」
「なにが? つうかお前っていうな」
「主人にふさわしいか、見せてもらおうではないか」
意地の悪そうな悪魔の微笑み。本当に悪魔だけどねっ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます