第31話 時間稼ぎの総集編12月31日

 過去を振り返るのにはよいタイミングというものがある。なにかの節目の時である。たとえば、年末大晦日とかね。

 九乃カナは古い冊子類に目を通して捨てるという作業をつづけたけれど、やっと終わったと思ったらもう大晦日。大掃除は大大晦日にもちこしだ。もしかしたら大大大晦日になるかもしれない。神のみぞ知る。


 まだカズキの気配を感じる。カズキに話すつもりで九乃カナは事件のあらすじのつづきを振り返る。昨日は美女の悲鳴を聞いたところまで入力したのだった。


 美女は自室で胸を刺されて殺されていた。金髪の、おそらく白人で、ナイトウェアも日本人離れしていた。ほとんど裸みたいな、透け透けのネグリジェというやつ。胸は隠れていないし、血が内股まで流れる筋も判別できた。

 美女の名前はハイデ。お城の主人がヨーロッパから連れ帰ったというけれど、親しくなって離れたくないと言ってやってきたのか、金で買われてきたのかわからない。

 ハイデの部屋には隠し通路が通じていて、もう一方の出口は無月さんの部屋にあった。無月さんが通路を使ってハイデの部屋に忍び込み殺したと思ったけれど、霧に閉じ込められたせいで滞在することになった城でたまたま隠し通路を発見し、その先に美女が寝ていて殺すと言うのは現実離れしている。おっと、これは小説だろと言うツッコミは控えてくれ、現実のテイで進んでいるのだからな!


 九乃カナはパンツをはいて、もちろんほかの服も着たけれど、城から逃げた。無月さんに殺人の疑いをかけて、もう一緒に行動はできないと思ったからだ。

 霧の中を逃げてゆくと湖に出た。日が昇って真っ暗な世界から真っ白な世界になった。ナイフをもった手があらわれて、それは黒パーカーの手だったのだけれど、防御しようと身構えたところでもうひとりの黒パーカーに助けれられた。あとからあらわれた黒パーカーは無月さんだった。

 無月さんから逃げてきたのだから、さらに逃げた。霧が地表近くには残っていたこともあって穴に落ちた。底がさらに崩落して、落ちた先は教会へつづく地下道だった。


 教会の地下墳墓へ出て、地震が起きて天井が崩落、悪魔を封印していた石像が破壊されて悪魔が登場したのだった。もうこうなると謎とか言うレベルの話ではない。地震と思った揺れは小天体が湖をかすめて落下したせいだとわかった。

 悪魔復活のせいか、小天体落下のせいか、悪魔どもが町にあらわれるようになった。


 ふいーっ。一気に書いてきたけれど、とんでもないことばかり起きている。行く先々でなにごとかに巻き込まれる。巻き込まれ体質ではないのだけれど。たぶん、部屋から出てはいけないのだ。


 今日の夕食はうどんに決めた。麺が冷凍庫にはいっていた。湯を沸かして10分煮ればよい。鍋の中の麺を菜箸でまぜる。感じるよ、カズキ。いま背中にいて、抱きしめるようにして一緒に菜箸をもっている。

「あっちっ!」

 鍋からお湯が手の甲にはねた。熱さに手を払ったら、たぶんカズキの顔面に肘を叩き込んでしまった。幽霊だから通り抜けたよね。うん、大丈夫。痛いって言われても聞こえないし。

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