長崎銘菓と異世界勇者 ~~「よりより」の硬さは魔王も砕く!~~

武州人也

勇者と魔王の戦い

「この一撃で仕留める!」


 金色に輝く鎧をまとった勇者は冷たく光る剣を構えて、黒い鎧に身を包んだ魔王と向かい合っている。

 目の前の敵を倒せば、この世界に平和が訪れる。そのために二年の月日を費やし、ようやく仲間とともに魔王の手下を倒して城に討ち入ったのだ。


「ふん……なら試してみよ」


 魔王の顔は兜に覆われているものの、その中ではきっと嘲るような微笑を浮かべているのだろう。部下を討ち果たした相手に肉薄されているというのに、魔王は余裕綽々しゃくしゃくな態度を崩さない。

 

「うおおおおっ!」


 雄たけびをあげながら、勇者は一直線に突進し、剣を振るった。魔王は振り下ろされる刃を前にしても、全く避ける素振りを見せない。

 白刃が、黒い鎧に当たった。甲高い金属音が、魔王城の中に響き渡る。


「なっ――」


 勇者が絶句したのも無理はない。勇者の剣は折れてしまい、その切っ先が宙を舞ったのだから――


「そんな骨董品アンティークをたのみに我を討とうとしたお前が悪いのだ」


 魔王の右手が、勇者にかざされる。その掌が眩い光を放った時、勇者の後ろに立っていた若い男が、木製の杖を前に突き出した。彼は宮廷魔術師で、勇者とともに何度も死線を潜り抜けてきた戦友であった。


「頼む間に合え!」


 この宮廷魔術師が繰り出したのは、転移魔術であった。自分と勇者を緊急退避させようというのである。木杖が光を放つのとほぼ時を同じくして、魔王の掌から光弾が射出された。

 光弾が勇者に直撃する直前――勇者と魔術師は、光に包まれて消えてしまったのであった。

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