第7話 会議前
アンと共にやってきた会議室一つ。
その部屋をメイド少女のアンは素早く会議の準備を整えてくれる。
いくつか会議室はあるんだけど、ここはその中でも比較的小さめで、十三の席が円卓に並ぶように設置してある。
この会議室は、軍事国家——つまりは実力至上主義で成り立ってるクレプスクルムで最高幹部である者たちのみが出入れを許された特別な会議室だ。
もちろん防音もばっちりで盗聴される心配はないし、そもそもここに集まる者たちの目と耳を欺ける奴なんてそうそういないけどね。
本当はもっと広い会議室で大勢ともいわずに外に出て帝国民全員に伝えるべきなんだろうけど、状況がそれを許してくれないから、それはいつか必ずやるとして、まずは現状把握と情報共有、そして意思統一をするためにも最高幹部だけを集めることにした。
クレプスクルムの最高幹部は全員で十二人いて、それぞれ一人ひとりに≪色≫と≪称号≫を与えてあり、十二人全員の総称を国で最も強く優れてる者たち、吸血鬼の価値観で特別な血を持ってるという意味で、≪孤高の十二傑≫または≪孤高の十二血≫と呼ばれてる。
で、その≪孤高の十二傑≫が集まる会議室の十三席の一つである皇帝の席に座って、俺はみんなのことを今か今かと待っていた。
いや、まぁ、最初は手持ち無沙汰だったし、俺よりちょっと年下くらいの女の子一人に準備させるのもどうかと思ったから、手伝おうとしたんだよ?
だけど、動こうとしたらアンが「リオン様は座って待っていてください。これはアンの仕事です」って何故か有無を言わせぬ凄みを効かせて言ってくるから、座るしかなかったんだ。
そういえば、俺のお世話係だった幼馴染も同じことを言ってたっけ。
料理とか洗濯とか手伝おうとしたら、あたしの仕事だから~って。
今頃あいつは何してるかなぁ‥‥‥手紙を読んでくれてたらいいけど。
まだこっちにきて数時間だし、別にホームシックになるほどあの家に愛着が湧いていたわけじゃないけど、少しだけ心配になってそんなことを考えながらアンを見てると、その彼女が視線に気になったように振り向いた。
肩口で切り揃えられた黒羽色の髪が靡いて、薄闇色の瞳が俺を見据える。
「どうかしましたか?」
「ううん、なんでもない。ただ——」
なんというか、”オルタナティブ”の時もアンは常に甲斐甲斐しく俺のお世話をしてくれてたから、その様子を俯瞰的にではなく、同じ視点で見れたのがなんだか新鮮だったというか。
まぁ、そんなことを長々とアンに伝えてもしょうがないし、一瞬だけ重なって見えた幼馴染に最後に直接お礼を言えなかったことをちょっと残念に思ってるから、幼馴染に伝えるのもついでに一言。
「——いつもありがと‥‥‥って思っただけだよ」
「——っ!? い、いえ! これがアンの仕事ですから‥‥‥‥‥‥リオン様に褒められた」
伝えた途端、凛としてクールだったアンはぽっと頬を赤く染めて、視線をキョロキョロ、頭のプリムをしきりにいじり始める。
最後の方はよく聞き取れなかったけど照れたのかな?
”オルタナティブ”の時だって、会話とかも一つの大事な要素であったからなるべくお礼は言うようにしてし、聞き慣れてないことは無いと思うけど‥‥‥まぁ、感謝してるのは本当だし、嬉しそうにしてくれてるならいっか。
にしても、アンの様子を見てると、とてもじゃないけど彼女が悪魔には見えないな。
そう、もうお察しかも知れないけど、メイドとはいえこの会議室に入れるということは、アンも≪孤高の十二傑≫の一人だ。
種族は
称号は≪
たぶん、俺を含めたクレプスクルムの実力者の中で最も影魔法の扱いに関して優れてて、正面から戦うならまだしも、油断して不意打ちを狙われれば勝負にもならずに負けることになる。
影魔法と暗殺術の一撃必殺、そういうコンプセクトで育てたのがアンだ。
ちなみに、自称俺の専属メイドさんでもある。
別にこっちに関しては特に意識してなかったけど、気が付いたら主人とメイドって関係になってた。
アン以外にもメイドさんはいるはずなんだけど、任務とかを頼んでない時のほとんどでアン以外の他のメイドさんを見たことが無い。
そんなアンをじっと見つめてると、もう隠しきれないくらい顔が真っ赤になっていくので、流石に可哀そうに思って扉に視線を移した途端、トントンとノックの音。
「あ、アンが出ますから……こほんっ」
それを聞いたアンが、再びキリッとした表情になって扉を開いて訪問者を招き入れる。
「お待たせしました! ‥‥‥あら? アン、お顔が赤いけどどうしたの?」
「い、いえ! 何でもありません!」
「‥‥‥ふーん」
入ってきたのはエルナを先頭にヴォルク、それから他の≪孤高の十二傑≫たち。
エルナは、数秒じ~っとアンを見つめて、その視線が皇帝の席に座ってる俺の方に向く。
瞬間、パッと笑みを浮かべてスカートを翻して子犬のように駆け寄ってきた。
ヴォルクみたいにしっぽがあったら今頃ブンブン振られてそうだ。
そのまま俺の右隣に腰かける。
それから本物のしっぽがあるヴォルクは、相変わらず真面目に一礼してから、キビキビとした所作で歩いて俺の左隣に。
そして、俺がこっちに来てから初対面の他の≪孤高の十二傑≫が入ってくる。
俺が座ってる皇帝の席は扉の正面にあるため、入ってくる時に必ず俺を視界に入れることになるのだけど。
正直ドキドキというか、不安が止まらん。
エルナやヴォルク、それにアンは俺のことを信じて許してくれたけど、もしかしたら全員が全員そうである可能性なんかないわけで。
もしかしたら怒っていたり、もっとひどければ失望されてるなんてことも‥‥‥。
そう思うと何とも気まずくて、俺は微妙に視線を逸らしながらみんなが席に着くのを待つ。
ちらっと見た≪孤高の十二傑≫たちは、入った瞬間に俺の存在に気が付いて、息を飲んで驚いたり、瞳を潤ませたり、笑みを浮かべたり‥‥‥三者三様の反応を見せてくれる。
何人かは声をあげそうになったり、俺の下へ駆け寄ってこようとしたけど、ここが会議室であることを思い出したのか、直ぐに我に返って粛々と自分の席に座っていく。
会議室の席は強い順に‥‥‥というわけではない。
≪孤高の十二傑≫たちは、主に軍団長とかの重要な役職についてるものが多いため、その役職で分かりやすく座ってる。
それよりも、彼らは一体何を言おうとしたんだろう‥‥‥? やっぱり、「この裏切り者っ!」とか、「卑怯者っ!」とかかな‥‥‥。
でも、それくらいならいくらでも聞こう。
一発殴らせろって言うなら、それも甘んじて受ける。
そういう覚悟を決めて、今度は逸らすことなく前を向くと、全員が入ったことを確認してそっと扉を閉めたアンが自分の席に座るところだった。
それを確認して、静かに一言。
「それじゃあ、会議を始める」
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『帰り道に倒れていた吸血鬼を助けたら懐かれました』
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