第5話 クレプスクルム帝国の姫
【お礼】
レビューで★を着けていただいてありがとうございます! 嬉しいです!
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「よし! これでいいだろう!」
姿見の前でターンを決める俺。
結構長いこと”オルタナティブ”をやっていたこともあって、それなりの量を手に入れたコスチュームから選んだのは、黒を基調として赤と銀のラインが入った軍服に立て襟の赤黒いコートだ。結構かっこいい!
我がクレプスクルム帝国は軍事国家だし、そんなに違和感はないと思う。
それと気になるのは、”オルタナティブ”ではこういうコスチュームとかにはステータスアップの効果が付いてたんだけど、そういうのはオールドデウスではどうなるんだろう? 色々検証したいところだけど、今は優先することがあるし、また今度だな。
「それじゃあ、さっそく‥‥‥ゴクリ」
廊下に繋がる扉に手をかけて、恐る恐る開いてみる。
‥‥‥いや、まぁ、ここは俺が作った城だし、そんな遠慮することは無いんだろうけど‥‥‥何て言うか、いざとなると緊張するというか‥‥‥。
よくよく考えてみれば、俺って重度の引きこもりなんだよね。
それこそ、この数年で会話をしたのだって、俺の生活の面倒を見てくれてた幼馴染くらいな訳で‥‥‥あれ? 認めたくないけど、もしかしなくても俺ってそうとうコミュ障‥‥‥。
「‥‥‥まさかね。えっと、お邪魔しま~す」
自分の城だけど、なんとなく声をだして一歩廊下に出ると、月の光を吸収して光を発する特殊な石である月光石の灯りに照らされた。
これでもたぶん人間なら薄暗く感じるけど、【夜目】が使える吸血鬼なった今なら丁度いい光量だ。
それに月の光ということもあって、城の中にいるだけで体の奥底で力が増すしね。
右を見ても左を見ても、俺以外の人影が一切なく、ぼんやりと薄暗い廊下がずっと続いてる。
そのことにちょっとホッとするものの、同時に不安も押し寄せてきた。
”オルタナティブ”だったらいつも皇帝の寝室の前には護衛の騎士とメイドがいるはずなんだけど‥‥‥。
「ま、まぁ、たぶんセツナとの戦争して、そこからとんとん拍子にオールドデウスに来ちゃったから、混乱で城の機能が正常に動いてないんだろう‥‥‥うん、きっとそうだ」
本当は何もかもただの夢だった‥‥‥一瞬脳裏をよぎった、そんな悪い予感を否定するように小さく呟いて、俺は歩き出した。
目的地は政務室。
彼女ならそこにいて、きっと今も国の為に動いてくれているはず。
階段を下りたり、長い廊下を歩きながら、それでも誰ともすれ違わないことに変な焦りを感じて自然と早歩きになってるのを自覚しつつ、目的の場所にたどり着いた。
ドアの取っ手を引いて、部屋の中を伺うと、待ちに待った人の話し声が聞こえてくる。
「では、私はリオン様の護衛に戻ります」
「えぇ、ご苦労様。何かあったらまた頼むわ‥‥‥よ? ——っ!?」
「エルナ様?」
声の主は真面目そうな青年の声と、まだ幼さが残るもののよく通る毅然とした少女の声だ。
そして、俺が入ってきたのに気が付いた声の主の少女と目が合って、驚いたのか少女は持っていた精緻な装飾の万年筆を手放した。
少女の俺と同じ赤い瞳にうるうると波紋が広がっていき、やがて——。
「——お兄さまっ!!」
執務机に重ねられた書類が散らばるのも厭わずに堂々と飛び越えて、紅の風となった少女が俺にめがけて勢いよく飛んできた。
「——ぅぐっ!?」
何とか踏ん張れたものの、少女はそのまま俺の腰にガッチリと抱き着いて、髪が乱れるのも気にせずにぐりぐりと頭を押し付けてくる。
「お兄さま! お兄さま! お兄さまっ!! ずっと会いたかったよぉっ!」
「お、おう、エルナ。俺もお前とやっと会えてうれしいよ」
「ほ、ほんとですか?」
「もちろん!」
心の底からそう思って頷くと、少女は可愛らしい顔を百点の笑顔で彩って、再度強く抱き着いてくる。
薄暗い中でも美しく輝く紅髪と綺麗な瞳を持つ少女の名前はエルナ。
エルナ=クレプスクルムだ。
”オルタナティブ”を始めて一番にできた最初の仲間で、いわゆるチュートリアルで手に入れるキャラクターだった彼女は、クレプスクルムになる前の国のお姫様だった。
というのも、”オルタナティブ”はまず、主人公が隣国に行っていて国に帰る途中に魔物に襲われてるお姫様を助けるところから始まる。
ここで戦闘の操作方法を学ぶ。
その後、お姫様を助けたお礼と恩賞として城に招かれパーティーを開いてもらうが、そこで突然の隣国からの宣戦布告。
理由は確か、お姫様が隣国の王子様との婚約を破棄したことだったはず。
なかなかの急展開で理不尽な理由だけど、それからお姫様を助けて王の信頼を得ていた主人公は兵たちを指揮する王の補佐を行うということで戦うことになる。
ここで戦争システムや操作方法を学ぶ。
それから、なんとか戦争を勝利で収めたものの王は不運の流れ弾で助からないような重傷を負ってしまう。
もうすぐ息絶えそうな王の周りを国の重鎮たちが囲む中、この戦争で王を補佐してさらに信頼を重ねることになった主人公に、王は最後の力を振り絞るように周りにいる全員に伝わるよう大きな声で『ワシは、○○(主人公の名前)に国を任せたいと思う。どうか、頼んだ』という言葉を残して安らかに息絶える。
こうして新たな王としてゲームが始まっていくんだけど、その助けたお姫様がエルナというわけだ。
俺が国の名前をクレプスクルムにしたことで、エルナの性もクレプスクルムになり、そして種族も俺と同じように
まぁ、でも、普段やってることが事務的なことなだけで、エルナは俺の血を一番多く取り込んで吸血鬼になっただけあって戦闘でもクレプスクルム内で上から数えて十二番に入るくらい強いし、特殊能力を使えば指揮官としても最強クラスになれるオールラウンダーな女の子だ。
ちなみに、一応変な誤解をされないように言っておくけど、エルナが俺のことを『お兄さま』って呼ぶのは別にそういう風に設定をいじって強要させてるわけじゃないからね?
というか、セツナが作った”オルタナティブ”にはそういうキャラの設定みたいのは一切なくて、ゲームを進めてキャラクターたちと交流していくうちに自然と関係が構築されていくことになる。
だからプレイヤーによってはその最初のお姫様と恋仲になる人もいたし、仲が悪くなる人もいた。
それが俺の場合は兄と妹って感じになったわけだ。
”オルタナティブ”のキャラは妙に自立してるというか、人間味が溢れてるというか、普通のゲームには無い人格を持ってるような気がして、キャラクターたちの交流もまた一つの醍醐味だったのを覚えてる。
え? ならエルナが俺をお兄ちゃん扱いするのは、お前が妹が欲しくてそういう風に接してきたからだろうって?
まぁ、確かに兄妹が欲しいなって思わないこともなかったけど……。
エルナとの出会いを回想している間も、俺の腰に抱き着いて離れない彼女の頭を軽く撫でてると、政務室の時間が止まってることに気が付いた。
エルナの他に文官として働いていた人たちが、俺たちの方を向いて目をおっきく開けて驚いてる。
そりゃあ一国のお姫様が部屋に入ってきた人に急に抱き着いたらびっくりするか。
俺はそんな見覚えのある人たちを見渡して、そっと息を吸った。
「みんな、ご苦労様。そして、お待たせ! こっちに来たよ!」
そう言った瞬間、みんなはまるで動き方を思い出したかのように一斉にその場で頭を下げて跪く。
思わず苦笑い。
堅苦しいけど、まぁ皇帝と臣民って関係ならたぶんこれが普通だろう。
「エルナ、そろそろ」
「——あっ! ご、ごめんなさいお兄さま‥‥‥嬉しくて、つい」
「いや、またあとで色々話をしよっか」
「はいっ!」
名残惜しそうに離れたエルナの俺の言葉に待ちきれないっ! ってばかりの笑顔を見て、微笑ましく思いつつ、俺は周りの人たちと同じように跪いて微動だにしない青年にそっと声をかけることにした。
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