第3話「落ち込むレイチェル」

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「レイチェル、メイクを落とさなくてはだめよお肌に悪いわ。ドレスを着たまま寝たのね、ドレスがしわくちゃじゃない、ドレスを脱いでお風呂に入りましょう」


「レイチェルや、ホットレモネードとクッキーを作ってきたよ、少しは食べなさい」


お母様とお祖母様が私の部屋に入って来て、あれこれと世話をやいて下さいました。


私、帰宅してからずっと部屋で泣いておりましたの、メイクは涙でぐちゃぐちゃ、オートクチュールのドレスはシワだらけ、髪はボサボサ、最低の状態ですわ。


ホットレモネードを飲んで、顔を洗って、髪をとかし、普段着に着替えをしたら少しだけ落ち着きました。


「お母様、お祖母様、騙しましたわね、【カウントダウンするラブ日傘】の話は嘘でしたのね!」


「嘘じゃないのよ」


「騙してはいないよ」


「だって、アルフレッド様に「好き」と言われるどころか婚約破棄されましたのよ。


お母様も、お祖母様も、ひいひいお祖母様も【カウントダウンするラブ日傘】の予知通りに思いを寄せる殿方から告白されたと聞かされていたから、私もアルフレッド様から告白をされるものだと信じて疑いませんでしたのに……!」


あら? そういえばひいお祖母様が【カウントダウンするラブ日傘】のお陰で幸せになれたというお話は聞いたことがないですわ? なぜかしら?


「告白とは「好き」と告げられることだけじゃないってことよ」


「お母様それはどういう意味ですか?」


「「嫌い」「婚約を破棄する」と告げられるのも、恋愛関係の告白のくくりってことさね」


「お祖母様、そんな……!」


「私の母、お前のひいお祖母様も当時の婚約者から誕生パーティーで婚約破棄されたのさ、【カウントダウンするラブ日傘】はそのことをちゃんと予知していた」

 

「それではお母様もお祖母様も、私が卒業パーティーでアルフレッド様に婚約破棄される可能性を考えていたと……」


「お母様は婚約破棄される可能性の方が高いと思っていたわ、アルフレッドはレイチェルの誕生日にプレゼント一つよこしたことなかったでしょう? パーティーでもエスコートしたことなかったし、お茶会ではいつも仏頂面だったし」

 

「わたしも婚約破棄されると思っていたよ、我が家での晩餐を断って幼馴染といちゃついていたような男だからね」


「お母様もお祖母様も、ミラが犬ではなく人間だと知っていたのですね、知っていて黙っていたなんて酷いわ!」


「ごめんなさい、でもこういう事態にならないとレイチェルはアルフレッドのことを諦めきれなかったでしょう?」


「恋は盲目というからね、どんなクズでゲスで救いようのないカス男でも恋愛フィルターがかかると王子様に見えてしまうものだからね、初恋の呪いを断ち切るには荒療治が必要だったんだよ」


「そうでしたの……」


お母様とお祖母様は私のためにしてくれたのね、私が不誠実な相手と結婚しないために。


「お母様、お祖母様、酷いことを言ってごめんなさい、二人は私のためにだまっていて下さったのに」


「いいのよ、娘のことを思うのが母親ですもの」


「孫が可愛くてしたことさ、一生恨まれるのを覚悟の上でね」


「お母様! お祖母様!」


お母様とお祖母様の思いやりの心が伝わってきて、涙がとめどなく溢れてきた。


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