大きな積み木
影津
第1話 はじまりは旅の途中
あの巨大な積み木がはじまったのは、二年前。人類が混乱に陥るコロナ禍よりも少し前の話。
霧の立つ雨の日、靴を湿らせ傘で風に立ち向かう。出勤なんてそんなもの。
近くの駐車場が取り壊された。重機がやってくる。何かが建つらしい。
今日、発表がある。新人賞の結果待ち。午前中の仕事ははかどるだろうか? 気になって手につかないだろう。それをいかに、同僚に悟られずに過ごせるか。それが鍵だ。
午後になっても選考結果は出なかった。難航しているらしい。だが、本当は今頃二次選考まで進んでいるんだろう? じれったい。落ちるか通るかはっきりしてくれ。そうしないと、進めない。落ちなければその作品を別の賞にも出せない。また、通らなければ自分が何者かも分からない。永遠のアマチュアだけは嫌だった。昼のチャイムが鳴る。社会人になっても、チャイムで支配されるとは思わなかった。
妻の手作り弁当は、冷凍食品で埋められている。別にかまいやしない。妻には時間がないらしい。時間が人を縛りつけるようになったのは、時計が発明されてからだろうか。
それとも、スマホが僕らを縛るのか。
レンジで解凍した弁当の唐揚げを箸でつつく。
食品添加物ましましの、喉に染み渡る唐揚げの味。うん、濃い。
一次選考の結果をまだかまだかと、何度もサイトにアクセスする。やはり結果はまだ出ない。ため息が出る。仮に通っていても二次選考で落とされるんじゃないだろうか? ツイッターは結果発表を待ちわびる声で溢れている。
午後からの仕事に備えて、頭をリフレッシュしたいところだ。だが、頭は自分の作品の良いところ、悪いところで溢れてくる。いや、良いところの方が多いかもしれない。自分にとっては最高の物語なのだ。それを、針の穴に通したい。通したい欲求ばかりがつのる。一次選考の穴は百人に一人ぐらいが通ることができるのだろう。自分を特別な存在だとは思わないが、自分の作品を特別な作品にしたい。そんな思いと願いばかり募る。
あのシーンは、人生で一番良かったときのシーンだ。このシーンは、涙なしには読むことができないはずだ。そんなことを思い出すとにやけてしまう。ふと、我に返って、スマホゲームのアプリを開く。
テトリス。パズルゲーム。積み上げては画面上から消していく。この単純な作業が昼休みという時間を埋めていく。潰していく。僕は、それで時間を飛躍するのだ。
結果発表が遅れるのならば、おそらく次のタイミングは夜だろう。夜まで時間を早送りしたい。ゲームに没頭する。時間を浪費する。僕らは消費者。時間の消費者――。
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