2章
迷宮都市ルナ(2-1)
「これで、依頼は完遂ですね」
どこかの施設の外側に馬車が停車すると、私たちは降りた。
降りると、エミリアは大きく伸びをして、同時にその言葉を口にした。それを聞いたアレンは、朗らかな笑顔を浮かべながら言い返す。
「そうだな。依頼の終盤ではいろいろ痛い目にあったが、全体的には大成功だった」
「やはり冒険者がいてくれたから、王都からの旅でも安全に感じたよ。本当に助かった、ありがとう、3人とも。では、俺はここで。これからもよろしく頼む」
そう言って商人は街の中へと消えていった。っていうか、馬車は彼のものじゃなかったか?
いや、たぶん彼のものだと思うんだけど……あ、ひょっとしてここって馬が休む場所だったりするのかな?
見渡すと、馬車がたくさん停まっているのが目に入った。
やっぱりそうだったんだな。まあでも、これで依頼は無事達成したね。
──それはいいんだけど、これからどうするんだろう、僕?
そう思っていると、
「それで、マティアスは今から何をするんだ?」
アレンがそんなことを聞いてきた。その隣にいるエミリアも、今後の僕の予定が気になるらしく、興味津々な表情をしている。
二人は、やはり同行しているからか、僕がいなくても全然一緒にいる気満々のようだ。
まあでも、それは別に……。
そう考えると、これからどう生きていくかという話になるな。──とは言っても、森にいたときにもう決めたんだけど。
「まあ、しばらくこの街で冒険者として活動しようかなと思ってる」
そう。冒険者になることに決めたんだ。
ただ、どこで登録すればいいのかはわからない。普通に冒険者ギルドだと思うけど、念には念を入れて、
「えっと、冒険者になるにはギルドに行けばいいんだよね? 市役所じゃなくて?」
とりあえず、二人がまだここにいるから、聞いてみることにした。
するとエミリアが答えてくれた。
「それはそうだけど……あれ。そういえば、ここに来るのが初めてだったか。冒険者ギルドの場所がわかるわけないじゃん」
そう言ってエミリアは難しい顔をする。何か悩みでもあるのだろうか?
もしかして、これ以上僕と一緒にいるのが嫌なのかな? いや、別にそれでも構わないけど。
確か、二人はここの出身だったはずだ。きっと家族を訪ねたいのか、それとも別の依頼を受ける前にしばらく二人きりで過ごしたいのかもしれない。
それなら……
「えっと、道を教えてくれると助かります」
そう言うと、エミリアの顔がパッと明るくなったように見えた。
「あ、じゃあ、こっちに真っ直ぐ行けばギルドに着くと思うよ」
今の反応を見て、図星だったんじゃないかと思う。やっぱり、恋する乙女って無邪気だな〜。
「ああ、わかった。本当に、いろいろありがとう」
「こちらこそ、魔物の襲撃から助けてくれてありがとう」
そう言うと、エミリアは少しソワソワし始めた。何か言いたそうな顔をしている。
「大丈夫? 具合が悪いのか?」
とりあえず、僕が聞いてみると、エミリアが答える。
「えっと、しばらくこの街にいるって言いましたよね?」
「はい?」
何を言っているんだ、突然?
確かにそう言ったけど、それがどうした?
そう思ってうなずくと、エミリアは安堵の溜息をもらす。
「よかった〜。ここに来る途中、もう言ったと思うけど、改めて熊に襲われたときの恩は必ず返すつもりだから、絶対に急にいなくならないでね? ねぇ、アレンくん?」
「え、あ……ああ」
またそれか。もう何度も言っているのに。
「そんなわけで、また会うことはあるでしょ。これからもよろしくね、マティアスくん」
そう言って、エミリアは大きな笑顔を見せ、アレンとともにどこかへと歩き去った。もしかして、依頼達成の報告でもするのだろうか?
そうか。依頼の報告は別の場所のようだ。まあいいけど。
そろそろ行こうかな。
そう決めると、私はエミリアが教えてくれた方向へと歩き始めた。
しばらく歩いていくと、3軒の大きな建物が並ぶ通りにたどり着いた。
建物の前には看板が3つ掲げられていて、それぞれに大きな字で【冒険者ギルド 迷宮都市ルナ支部】【迷宮入口】【迷宮都市依頼センター】と書かれていた。
なるほど、こういう感じか。
迷宮に入る前に冒険者登録をしなければならないのは当然だろう。ということは、行くべき場所は【冒険者ギルド 迷宮都市ルナ支部】だな。
まずは冒険者登録を済ませ、その後は森で取った魔石を売ろう。
それが済んだら、迷宮に潜ってみようか。それとも、宿屋を探したほうがいいのだろうか?
………………わからない。
何をすればいいのかはわからない。でも、ここにいても何も進まないだろう。
とりあえず、冒険者登録だけでも済ませよう。
その後は次の行動を決めればいい。
うん、そうしよう。
そう決めると、私は【冒険者ギルド 迷宮都市ルナ支部】の看板が掲げられた建物に足を踏み入れた。
何が待ち受けているのかはわからないが、ワクワクが止まらなかった。
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