昔々、ある所にケータイ小説という

もと

複雑怪奇で

新しいオモチャがありました。

 今は昔、そのケータイ小説なるものに妊婦さんやっててヒマだった私が食いついた。


 人面石を貯めたり、生のナスを食べて不味いって泣いたり、蟻見て一日終わったりするぐらい小さい頃から本の虫だった私、作文はよく褒められてたから意気揚々と登録。


 ランキングには甘々とか彼氏とか放課後とかが並んでてババアには用が無いなって一瞬で理解した。

 当時は二十歳ぐらいだったけど、もう私にこんな敏感な所も瑞々しい感性も無い、そんな単語に縁も無い。

 だってこれから母親になる、もう甘いトコなんて何もかも済んで生命宿っちゃってる。


 だから隙間を攻めた。なぜかケータイ小説界では一緒にされがちだったホラーミステリージャンルに飛び込んだ。

 こんなゴミみたいな文章力でもバカみたいに読まれた。嘘だろってぐらい読まれた。上手いって言われた。

 新しく書けば更新を追ってくれて完結すれば絶賛された。気持ち良かった。

 あの頃はみんなバカで嘘だったんだ。

 さて、このタイミングで産んでくる。楽しかった。


 抱っこ紐にも慣れたある日、本屋で平積みされてたのはピンク色のキラッキラした表紙の見知った作者名の本。タイトルも見たことある。


 同時期に書いてた人達が本を出してる、甘々で。

 へえ、良かったね。私これからオムツとミルク買いに行くんだ。昨日のうちにどっちか買っておけば良かったのに、昨日はトイレットペーパー買って力尽きたんだ。今日はオムツとミルクが絶対必要なんだ。


 気付けば二人目が産まれてる。やることはやった。

 本屋にはピンク色の背表紙がズラッと並んでる。黒いのも出てきた。もう作者名にもタイトルにも心当たりがない。へえ、すごいすごい。


 そこはチラッと通るだけ、私は一人抱っこして一人に引っ張られて絵本コーナーに行くんだよ。

 動物さんがドラマチックにお着替えする物語の手書きポップを見ながら、今日は肉にするか魚にするか超悩んでる。離乳食的には魚の方が楽なんだ、人気あるのは肉なんだ。そりゃそうだ。


 一番上が高校生になった。真ん中は小学生、下は保育園。頑張って三人産んだ。

 歳が離れてるのは色々あって、そこそこ大変でなんだかんだで幸せな時間だった。


 あっという間に一番上が社会人になった。誰か芸人さんか、人の子とゴーヤは大きくなるの早いみたいな事を言ってた。自分ん家の子供もアサガオ並みには早い。


 一番下がついに小学生になった。


 子供と小学校と保育園の連絡先しか入ってないスマホを眺める。

 ママ友は一人もいない、顔見知りすら作ってない。


 邪魔者はいない、さあ始めよう、好きな事を。

 さあ、始めるんだ、始めなさい、始めろってばよ。


 音楽は初恋のYOSHIKIさん、Xしかない。

 え、Twitterやってる、Instagramやってる、なにそれ、YouTubeはヒカキンさんと面白インコと犬猫しか映らないと思ってたんだけど今あのYOSHIKIさんがいるの? 天上からそんなに近くまで降臨して下さってるの? あらまあ。


 アニメはそこそこ付いていけてる、というか一番上の子がヲタ気質、妙に尖ってるトコだけ私も詳しくなってた。


 ドラマ? あら、二時間サスペンスってもうやってないんだ。

 映画? 金曜ロードショーで見るぐらい。映画館は家から一番近いのがどこかも調べた事がない。

 服? ユニクロ、GU、プレミアムバンダイしか分からない。


 髪は一人目でバッサリ切ってから変えてない。長いと吊革代わりにされるじゃん。抱っこ期が終わっても美容師さんに色々と伝えるのが面倒でずっと短い。


 さて、早く好きな事をやるんだ、やれ。


 ライブハウスに行きたい。コロナだってよ。

 本屋でも行くか。だからコロナで閉まってるってよ。


 書くか。


 小説投稿、検索。

 みんなどうしちゃったんだよ、なんか呪ってるのその題名、呪文? もうタイトルだけでお腹いっぱいだ、はい終了、もう縁の無い異世界だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る