N ナオミ(男が女に暴力を振るわれてもどうしようもない虜)

「ナオミ頼む、婚約を破棄してくれ…… 私はどうしても今の妻と別れることはできない……」

「はぁ? 何を言ってるのよ!?」


 ナオミは私の顔面を拳固で殴った。


「お前はアタシの言うことを聞けばいいかんだ! アタシには好きなことをすればいい、それが自分の望みだ、と言っておいて何を言ってるんだ!」


 私を突き飛ばして足蹴にする。

 足の線の美しさは出会った時とまるで変わらない。


「結婚はお前の望みでもあったろう? だから了承してやったんだ。それが何だ? は、奥方がごねたからって、それだけで? だったら何とでもすればいい。アタシはお前の奥方のところに乗り込んで、お前がアタシを引き取って望んだことを一切合切ぶちまけてやるよ」

「それだけは…… あいつはそういうことを聞いて、耐えられる女じゃないんだ!」


 うるさい、と私を突き飛ばし、ナオミは身支度を始める。

 彫りの深い顔に、舶来の発動映画に出てくるスタアの様な化粧。

 ああ何ってその口紅が似合うことだ。

 絹の靴下のシームもすっとして。

 流行をいちはやく取り入れて丈を上げたスカート、パーマネントウエーヴをかけた断髪にクロッシェ帽。


「これで最後だね。面白かったよ」


 そういう彼女の姿はやっぱり美しい。

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