詩「真冬の林檎」
有原野分
真冬の林檎
ラジオの聞こえる長風呂が
冷え切った心を溶かすように
口の中で
真冬の林檎が溶けていった
それは雪にように柔らかく
べっこう飴のように甘かった
あなたの酒くさい
息の止まるような抱擁は
わたしの心臓を躍らせる
寝巻の下では汗が止まらない
心が湯の中に
浮かび続けている限り
深夜のテレビから流れる
焚き火の音に包まれながら
わたしはふと
厳しかった祖母を思い出した
思えば
わたしの規範は祖母譲りだろう
いつだって
女性は美しくありたいと思う
祖母が旅立って
父は酒を飲むようになり
母が亡くなって
酒とたばこを辞めた
亀の甲羅のような皺を顔に刻みながら
父はわたしの子に会うたびに
くしゃくしゃに丸められた
折り紙のように笑った
あなたのお酒のにおいは
まだわたしの心に残っている
長い二日酔いだ
今夜は冷えるだろうか
真冬の林檎が溶けるまで
ただゆっくりと湯に浮かんでいたい
あなたの口ずさむラジオが
月の裏から聞こえてくるまで
詩「真冬の林檎」 有原野分 @yujiarihara
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます