箒から輝く

メグ

第1話

 厚いレンズの眼鏡を外せば、空の青のなかに土色の虹彩が輝いている。ゆかりは、洗面所の鏡に映る自分の瞳に思わずため息をついた。小学校から帰ってきたゆかりが、鏡の前でため息をつくのはもはや日課になりつつある。ゆかりは鏡に映る自分の瞳が大嫌いだった。

 近くで洗濯物をしまっていたゆかりのママは、そんなゆかりの様子に、その手を止めた。そして温かな手で、ゆかりの顔を包み込む。ママもゆかりと同じ分厚いメガネを掛けていて、ママの視線はメガネ越しにゆかりの視線と絡まった。

「あなたは私のもかわいい娘じゃない。魔女である証拠がそんなに嫌い?」

 現代に魔女なんて存在しない。そう誰もが思うだろう。それでもそんな現代において、こっそりひっそり魔女は暮らしている。ゆかりもまたそんな魔女の血を受け継いだひとりだった。

 けれどその証である瞳は、普段は厚いレンズの眼鏡で隠されている。それがゆかりが自分の瞳を嫌う理由の一つだった。

「この眼鏡のせいでおしゃれもできないし、クラスメイトにもからかわれるんだよ」

 ゆかりももうすぐ中学生。おしゃれも楽しみたいし、新しい友達も欲しい。そんな中で、はっきり言ってダサい眼鏡はゆかりの求めるものからはかけ離れている。

 いっそ、友達の前で魔法を使ったらなにか変わるだろうか。

 そんなゆかりの思考を読むようにママの言葉が続く。

「ママも最初は嫌だったわよ。でもね、魔女の瞳は魅惑のアースアイ。人々を魅力するの。だから隠さなければならないわ。本当に愛すべき人の前以外ではね」

 魔女の瞳は特殊だ。時に空の色を写し取り、様々な色に輝く。

 人は大地の上に生きており、空の色に恋い焦がれる。だからこそ、魔女の瞳は人々を惹きつけて離さない。

 母の言いたいことはゆかりだってわかっている。魔女の力の源であるこの瞳を晒すことは危険と隣り合わせだ。

 昔、一度だけ眼鏡を外して遊んでいたとき、悪い人に誘拐されそうになったことすらあった。

 アースアイを晒す相手は慎重に見極めなければならない。それ故に思うのだ。

「そんな人現れると思う?」

 こんなにダサいわたしを好きになってくれる人がいるのだろうか。ゆかりは、それが気がかりでならなかった。そして返ってくるのはいつもの言葉。

「ええ、思うわ。だってママとパパとの出会いは運命だったんだもの」

 パパとママの出会いは本当に運命的だったらしい。大学時代、雨宿りしていたママにパパが傘を貸してくれたことから始まったのだという。

 パパの優しさに触れたママは、この人なら魔女である自分を受け入れてくれると思ったのだ。

 そんな運命の相手に出会うにはどうしたらいいのだろう。

 ゆかりにはその方法がまったくといっていいほどわからなかった。

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