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ぎょっとして後ろを振り向くが、すでに二人組は離れてしまっている。予定ではここで岡崎が帰ってくるのをじっと待つわけだったが、一つの可能性が浮上してそうもいかなくなった。仕方なしに、野次馬の一部になっている後輩の元へ向かうことにした。
橋の下は警察の様子を見ようと皆一様に背伸びをしていて滑稽さを際立たせている。一部に成り下がりたくなくて少し間を置いた場所で眺めてみたが、いまいち情報は入ってこない。そこでようやく人だかりから出てきた岡崎を発見した。目が合うと、岡崎はぱちぱち瞬きをして、視線をくるくると変えながら妙な足取りでこちらへ歩いてきた。不審な態度にますます疑惑が深くなる。
「岡崎、車に戻る」
「……うす」
先ほどとは打って変わって殊勝な岡崎を引っさげて社用車へ戻り、エンジンを付けてからシートベルトに手を掛ける彼女の横顔を見た。仄暗いそれは、村木の予想を肯定していた。
「あのさ、もしかして被害者分かった?」
岡崎の方は村木の態度に気が付いていなかったらしい。質問の意外さに、肩をおおげさに揺らした。それでもまだ迷いがあるのか上目に村木を見つめていたが、やがて諦めて小さく頷いた。「はい」
「単刀直入に聞くけど、相園さん?」
「……多分、いや、そうっす。私が行った時にはすでに青シートが張られてましたけど、それより前に来てた人たちが「あれはもしかして相園さん家の子じゃないか」と言ってました」
慎重に、二人しかいない車内であるのに誰かに聞かれたくないとでも言いたげな岡崎は、耳元で話す内緒話と同じくらい殊更声を抑えていた。肯定されるのを予想していた村木は驚きもせず、彼女からバトンを受け取り繋げる。
「確証は無いけど、昨日から行方不明で、現場を見た人が相園さんだと言っていた……か。まあ、可能性は非常に高いといったところか。それなら急ごう、もしかしたらもう警察から連絡がいってるかも」
村木は言いながら発進させた。身分が分かる物を身に着けていなかったとしても、相園と思われているのであればすぐに連絡がいくはずだ。そうなれば家に向かっても入れ違いになるかもしれない。どうせここまで来たのなら、結果を持って帰社せねば来た意味が無くなる。数分だけの時間すら惜しくやや急ぎ気味に住宅地を通り抜け、やがて茶色い屋根の一軒家が見えた。さすがに間に合っただろう。家の塀に沿って駐車させインターフォンの前に立ったところで、ちょうどドアが開いた。
「あ、お母さんですか。お世話になっております、村木です」
「あ、ああ……村木さん……どうしましょう、私」
「落ち着いてください」
たった今、電話が着たのか。警察へ行くためか誰かに助けを求めたかいのか、着の身着のまま出てきた様子が窺える髪型に、何故だか自分が悪い事をした気がして心が痛む。三十路を前にして子どもどころか結婚すらしていない村木にとっては遠い出来事であるが、家族が殺されたと考えれば想像に難くない。頼りない肩を支えて「一緒に向かいますか」と尋ねれば、母親は力無く首を縦に振った。
停めたばかりの車に逆戻りし、助手席に乗っていた岡崎は後部座席に場所を変えて母親の背中を擦ってやる。母親はしきりに両手を擦り合わせ何かに祈るようだった。こちらが望んでも結果は変わらない。それでもす縋るしか方法が無いのだろう。やがて大きな、母親にとっては娘を閉じ込める牢獄へ辿り着き、動かない足を半ば引っ張り上げて中へ滑り込んだ。
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