★スマホ

※ この話はカクヨム用に新たに執筆しっぴつしたものです。


俺    主人公

ナナコ  主人公の彼女。馬女うまじょ


***


 ナナコと付き合う事になってから、俺がまず決めたのは大人のお店には、もう行かないという事だ。ナナコにみさおを立てるのは、勿論もちろんだが、俺が病気を持っていないか心配だった。


 いずれ、ナナコと深い関係になるかもしれない。その時に俺から病気がうつるなんて絶対にイヤだ。どうでもいいが、法律だと、自分が感染している事を知りながら、相手にうつすと傷害になる。なかなか立証は難しいが。


 俺は、ネットで検査キットを買った。自分で採取して検査機関に送ると、匿名とくめいで結果が分かる物だ。結果は問題なかった。しかし、検査結果は100%ではないし、潜伏期間があるかもしれないので、時間を置いて数回は検査しようと思う。



 ナナコと付き合う上で、考えなくてはならないのは、俺の資産についてどこまで話すかだ。ナナコには、少し実家が裕福な、ただの学生を演じている。将来はわからないが、付き合い始めたばかりなのに、今、それを考えても仕方ないのかもしれない。


 競馬場でのデートも、御金のかかるボックス席を取ったのは数回だけ。それ以外はゴール近くの一般席だ。


「ゴール前のスタンドの方がいい。花びらが一番よく見えるから」


 彼女の言う花びらとは、はずれ馬券の事だ。ゴール前で自分が賭けた馬が勝てないと分かった瞬間、ファンははずれ馬券を空に投げる。中央的な競馬場で観客が数万人のビックレース(G1じーわん)だと、テレビ中継でも見えるくらい馬券が舞う。俺には負けた人の怨嗟えんさにしか思えないのだが。


「地方競馬だと花びらがしょぼいね」と、UMAJO様はおっしゃる。観客を中央的なところと比べてはダメだよ。


 競馬場デートは、思ったほどお金がかからない。1レースに賭けるのも数百円。全レース賭けても1万円にもならない。そして、食事代はナナコがすべて出してくれる。


「大丈夫、大丈夫。私は働いているから、お姉さんに任せなさい」と冗談っぽく、彼女は言う。これじゃ、まるで俺がヒモだ。


 今は、こんな感じだから、自宅(3LDK)の事をどのタイミングで話すかは、流れを見て考える事にした。


***


 彼女を競馬場以外へのデートに何度も誘っていたら、そのうち、テーマパークやレンタカーを借りてのドライブ、映画や買い物にも行くようになった。


 彼女も仕事があるし、俺も平日は大学がある。司法試験の勉強もある。だから、実際にデート出来るのは、月に数回だった。後はSNSで、毎日やり取りをしている。彼女は夜勤があるから、頻繁ひんぱんに電話出来ないのは少しさびしい。


「ねぇ、俺君の部屋が見てみたい」


 久しぶりにデートに行った帰り、彼女はそう言った。


「俺の部屋に寄っていたら、終電が無くなるかもしれないよ。それに何もないから」


「大丈夫、大丈夫。今日は用事があって、この後、友達の所に泊まるから」


「行っても面白いものはないよ」


「見られたら困るものでもあるの? それとも汚いとか」


「ないない」


「じゃあ、行こう。しゅっぱーつ」


 俺はナナコと一緒に、自称、前線基地のワンルームへ向かった。12階建ての8階の部屋。現在は、仕送りももらってないので、家賃、水道光熱費はすべて俺が払っている。うちには何もないので、2人でコンビニで飲み物やお菓子を買った。


「へーへー。学生の1人暮らしの割には、綺麗きれいにしてるんだね」


 今はここに寝泊まりしてないし、家政婦さんが週に1~2回、掃除してくれるので汚れようがない。


「テレビもないんだ。勉強の物しかないけど、いた時間は、何しているの」


「うーん、ネットをしたり、本を読んだりかな。正直なところ、大学や司法試験の勉強に忙しくても余暇よかの時間がないかも」


「ふーん。学生だもんね」


「まぁ、取りえず、好きなところに座って」


「ベッドもないんだね。布団?」


「うん。最初はベッドやカウチソファーを買おうと思っていたんだけど、面倒くさくなって止めた。俺1人しかいないし、友達も誘わないからね。大学に近いから、たまり場になるのが嫌なんだ」


「面倒くさいって、なにそれ」


 2人でお菓子を食べながら、四方山話よもやまばなしをしていたが、部屋を見るだけなのにナナコに帰る気配がない。


「何もないけど、パソコンで映画でも観る?」


「観る観る」


 テーブルの上にノートパソコンを置く。カウチソファーの代わりに、布団ふとんを丸めて壁際に置き、2人で寄りかかって映画を観た。1つしかなかった保存食のカップめんを2人で半分こした。


 気がつくと、終電の時間が過ぎていた。


「ごめん、時間に気付かなくて。もう、終電ないからタクシー呼ぶね」


「あ。俺君。怒らないで聞いてくれる?」


「うん」


「友達の所に泊まるって嘘。今日は、最初から俺君の所に泊まる予定だったの。お泊まりセットも持ってきてるから」


「そっか。ウチは布団が1つしかないけど、いいかな」


 ちょっと動揺したが、にぶい俺でも、その意味は分かる。


「うん。布団も半分こしよ、はんぶんこ」


 映画を観終わってから、それぞれユニットバスでシャワーを浴びた。彼女は、タオル地ではない、ピンクで薄手のバスローブに着替えていた。このあたりになると、もう、2人に言葉はない。


「じゃあ歯を磨いて寝ようか」としか俺は言えなかった。


 2人で布団に入って、リモコンで照明を落とす。だが、どのタイミングで行動を起こすか、俺はつかみ兼ねていた。


「あのね、俺君。誕生日の競馬場でのサプライズ、すごくうれしかった」


 布団に入ってから、しばらくしてナナコが言った。


「うん」


「最初は、俺君の事、ちょっと怖いかなと思ってて、でも、一緒に競馬場に行く友達なら、ボディガード的でいいかなと思ってた。でもでも、誕生日の後、どんどん、俺君の事が好きになってきたと思う」


「ありがとう。俺もナナコが好きだよ」


「それでね、俺君、私、初めてじゃないの。こんな私でもいいかな」


勿論もちろんだ。俺と出会う前・・・・・・の事なんて気にしない。今は俺を好きでいてくれるなら、それだけでうれしい」


 その後、言葉はいらなかった。


***


 それからは、ナナコとのデートの後は、俺のワンルームに泊まっていくのが恒例となった。彼女は病院のりょうに住んでいるそうで、男子禁制のため俺は入れない。


 ワンルームとは別に自宅があるので買うつもりはなかったのだが、ナナコと過ごす時間に必要なため、ベッド、ソファー、テレビなどを購入した。調理器具までは買わなかったので外食かデリバリーだ。


 家政婦さんには、急に家具が増えた事をどういう心境の変化かと揶揄やゆされたが、俺は誤魔化した。でも、女性が部屋に入り込んでいる事は、落ちている長い髪の毛でバレているような気がする。


 こうなると、ナナコに自宅(3LDK)がある事を、言い出しにくくなった。なんかもう、カミングアウトするなら、サプライズしかないような気がしてきた。


 いつものようにナナコがワンルームに泊まった日、俺はふと夜中に目が覚めた。なんかチカチカしているので、よく見たら、ナナコのスマホだった。


 俺は詳しく知らないが、病院では急患が出た時など、夜中でも緊急呼び出しがあるという。人命がかかっていたら大変だと思い、俺はナナコのスマホを充電器から外した。間違い電話だったら、ナナコを起こすのも忍びないので、とりあえず操作したらロックはかかっていなかった。


 どうやら、電話ではなくSNSの通知のようだ。眠気眼ねむけまなこで、なにげなく見てみたが、俺はその内容に驚き、一瞬で目が覚めた。


 ナナコを起こさないようにスマホを持って、そっとトイレに行った。そして、俺は、履歴をさかのぼった。






【合コン前】

ナナコ:欠員が出た合コンに誘われた

ハルト:行くの?

ナナコ:合コンに行ったことないから興味あるかな

ハルト:マジか。お前、浮気だろw

ナナコ:浮気って。ハルトは奥さんいるのに?

ハルト:確かにw

ナナコ:ハルトとは結婚できないから相手を見つけないと

ハルト:お前、結婚願望あるの?

ナナコ:うん。いつかは。

ハルト:悪いな。結婚できなくて

ナナコ:わかってる


【合コンの後】

ハルト:合コンどうだった?

ナナコ:競馬好きな人がいた

ハルト:あー。お前、女のくせに競馬好きだもんな

ナナコ:タイプじゃないけど、競馬場に行く約束をした

ハルト:お前、またアザトイ事してたんだろ

ナナコ:T大生だからちょっと本気出したw

ハルト:マジか。将来性だけはあるからな

ナナコ:悪い人じゃないけど顔が怖い

ハルト:なんだそれw

ナナコ:それに趣味が競馬ってね。友達ならいいけど

ハルト:男としてはダメ?

ナナコ:うん。ちょっとね

ハルト:でも、キープするんだろ?

ナナコ:一応ね


【初デートの後】

ハルト:競馬どうだった?

ナナコ:万馬券当てたよ!

ハルト:おお、すげー。幾ら?

ナナコ:4万くらい

ハルト:なんだ。しょぼ

ナナコ:これって、すごい事なんだよ

ハルト:そうか。俺にはようわからん

ナナコ:初めて当てたんだよ(怒)

ハルト:それで、あいつはどうだった

ナナコ:いい有料席を取ってくれた

ハルト:学生のくせに張り込んだな

ナナコ:俺君は気配りできるいい人だよ

ハルト:おい。俺の前でそいつの名前を出すな

ナナコ:ごめん

ハルト:キープなんだから、あいつでいいだろ

ナナコ:ごめんなさい

ハルト:あいつにキスくらいさせたのか?

ナナコ:してないよ!

ハルト:まぁ、頑張って押さえとけよ


【誕生日デートの後】

ナナコ:あのね、彼と付き合う事になった

ハルト:ほぉ。うまくたらしこんだな

ナナコ:今日競馬場でサプライズしてくれた

ハルト:花束でももらったのか?

ナナコ:ナナちゃんお誕生日おめでとう特別レース

ハルト:なにそれ

ナナコ:お金払うとレースに名前をつけれるの

ハルト:わはははは。なんじゃそりゃ。ウケる

ナナコ:競馬やってない人にはわからないよ

ハルト:そっか。で、告白された?

ナナコ:うん。ネックレスもらった

ハルト:ほう

ナナコ:嬉しくてOKした

ハルト:なるほど

ナナコ:でも、気持ちはハルトにあるから

ハルト:当たり前だろ


【付き合っている頃】

ハルト:お前さ、最近、あいつとどうなの

ナナコ:競馬場にしか行ってないよ

ハルト:もしかして俺に気を使っている?

ナナコ:うん

ハルト:そんなんじゃ怪しまれるぞ

ナナコ:ハルトは私が競馬場以外でデートしても気にしないの?

ハルト:結婚できないんだから仕方ないだろ

ナナコ:そっか

ハルト:将来有望な奴を捕まえたんだから、ちゃんとキープしとけよ

ナナコ:うん


【俺の部屋に来る前】

ナナコ:ごめん。最近、彼が好きになって来た

ハルト:浮気だ浮気

ナナコ:あなたに言われたくない

ハルト:俺に飽きたのか

ナナコ:そうじゃないけど

ハルト:じゃあ、なんだよ

ナナコ:ハルトとは先が見えないから

ハルト:乗り換えるのか?

ナナコ:わからない

ハルト:わかった。お前、あいつと一回、寝ろ

ナナコ:え?

ハルト:キープしとくには餌をやらんとな

ナナコ:そんな言い方しなくても

ハルト:事実だろ。それに俺の方がテクが上だ

ナナコ:・・・

ハルト:どうせ、モテない童貞君だろ

ナナコ:わかんない

ハルト:お前は俺から離れられないはずだ

ナナコ:・・・

ハルト:寝たらその時の話を教えてくれ

ナナコ:なんで?

ハルト:NTRで萌えるだろ

ナナコ:サイテー



【お泊りの後】

ナナコ:昨日、彼と愛しあったよ

ハルト:どうだった?

ナナコ:上手だった

ハルト:は?

ナナコ:すごく優しくて女慣れしてた

ハルト:俺より上っていうのか?

ナナコ:言いにくいけど、そうだと思う

ハルト:はぁ、なんでだよ

ナナコ:ハルトは一人よがり

ハルト:お前だって、喜んでいたじゃないか

ナナコ:サイテー。自分の事しか考えてないんだね

ハルト:だったら何だよ

ナナコ:しばらく、会わない方がいいね

ハルト:そんなにあいつのテクの方がいいのかよ

ナナコ:ごめんね

ハルト:おい

ハルト:おい、ナナコ、ナナコ

ハルト:ちくしょう、返事しろ



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