第19話   お祖父ちゃん

 ☆

「小太郎爺ちゃん、俺、花菜ちゃんと結婚したから」


「なんじゃと!」



 お爺ちゃんは体を起こして、大地君の腕を掴んだ。



「わしが家におらんうちに、花菜に手を出したのか?」


「お爺ちゃん。わたし大地君の事、好きになっていたの」


「小次郎爺ちゃん、俺は入社式の時から花菜ちゃんの事を好きだったんだ。一緒に住めて嬉しくて、花菜ちゃんも俺のことを好きだと思ってくれたんだ。だから入籍した」


「花菜が好きになったのなら、いいだろう。大地の事も子供の頃から知っておった。花菜を頼むぞ」


「おう!任せておけ」


「大地が言っておった夢のマイホームは、わしの家を壊して、そこに建てるといい。立地もいいだろう。電車の音はうるさいが、利用するには便利であろう。花菜に子供ができたときに通学やショッピングにも行きやすいだろう」


「でも、小次郎爺ちゃんの家を壊すのは抵抗がある」


「わしはもう80歳を過ぎておる。いつくたばってもおかしくはない。あの土地は、花菜のものにしようと考えておった。花菜と結婚するなら提供しよう。わしには、そうさの。もしリハビリ病院から出られる日が来るなら、一部屋くれればいい。この歳だ、このまま施設に入ることも考えておった」


「おじちゃんいいの?」


「花菜はわしの可愛い孫じゃ。遠慮はいらぬ。遺書を書いておこうかの?」



 お爺ちゃんは嬉しそうだった。

 大地君の夢も知っていて、わたしの事も考えてくれている。



「大地よ。会社の株は返してはならんぞ。勝負の行方は見守っておったからな」


「ああ、社長に引き抜かれてから、いろんな部署を見せてもらっているよ。律儀に念書も書いてくれたし、遺書にも書かれているらしい」


「それなら安心して花菜を預けられる」



 母が病院で話し合って、月末にリハビリ病院に転院するらしい。

 リハビリ病院は、少し遠くなる。今まで以上に会いに行けなくなる。



「大地の兄ちゃんを、ここに呼んでくれ。リハビリ病院に転院する前に正式な遺書を書きたいからのう」


「俺の兄ちゃんでいいのか?」


「他に信頼できる者はおらんのでな」


「わかった。すぐに連絡しておく」



 母が帰ってきたからか、不足分の買い物はなかった。

 自宅に帰るとき、車の中で、大地君はお兄さんに電話をした。

 月末まで、もうそんなに時間がない。



「小次郎時ちゃんの事覚えている?」


『ああ、大地が世話になっている家のお爺さんだったな』


「小次郎爺ちゃんは花菜ちゃんのお爺ちゃんで、月末に別の病院に転院することになったんだ。それで・・・・・・」


『分かった。月曜日にでも行こう』


「頼む」



 大地君がニッと笑った。



「月曜日には来てくれるって」


「大地君の夢、叶っていくね」


「この夢は、花菜ちゃんも一緒に追いかけて欲しい。花菜ちゃんが暮らしたい家を想像して」



 夢など持ったことがなかった。



「落ちついたら、ハウジングセンターに行ってみよう」


「うん」



 大地君は太陽のように輝いて見えた。

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