第20話 称号士とルルカの修行
「よし。いつでもいいぞ、ルルカ」
「いきます、師匠……!」
俺の声を受けてルルカが手にした
そして、俺の足元の空気がざわつき始めた。
「エアリアルドライブ――!!」
ルルカが上級風魔法を唱えると同時、俺は地面を蹴ってその場所から離れる。
局所的な暴風が起こり、地面の土ごとその場所を巻き上げていったが、俺には当たらない。
「なっ……!」
上級風魔法を
俺はその隙を見逃さず、一気に距離を詰める。
「よっ、と」
ルルカの至近距離まで来ると、俺はルルカの被っている魔女帽子の上から木剣を「トンッ」と軽く当てた。
「ま、参りました……」
ルルカは手を挙げて降参の意を示している。
「うん。上級魔法を使うのにも慣れてきたみたいだな。前より凄く上達していると思うよ」
「あ、ありがとうございます」
「ただ、威力の強い魔法に頼るだけじゃ駄目だ。上級魔法は確かに当たれば強力だがその分隙も大きい。相手が単純な動きをするモンスターなら良いかもしれないが、次にどんな攻撃をするかや反撃された時の対処法は用意しておいた方がいいだろうな」
「はい! 師匠!」
ルルカは魔女帽子を被り直すと元気よく返事した。
「それにしてもさっきの師匠、尋常じゃないスピードでしたね」
「ああ。あれは《閃光》という称号の付与効果だな。ついこの前覚えたばかりだけど、素早さのバフ効果があるみたいで結構使い勝手が良さそうだ」
「いや、上級魔法が放たれてから範囲外まで避けるとか、結構どころじゃない気がするのですが……」
ルルカはやや呆れたように言って俺を見上げてくる。
《閃光》の称号付与による素早さの上昇効果は一時的なものだが、瞬時に離れたところまで移動できるので戦闘でも役に立つだろう。
「と、今日の訓練はこれくらいにしてギルドに戻ろうか」
「分かりました! 師匠!」
「……なあ、ルルカ。前から気になってたんだけど」
「なんです? 師匠」
「何で俺の呼び方が師匠になってるんだ?」
「自分にとってアリウスさんは師匠というのがしっくりきますから。ご迷惑でしたか?」
「いや、ルルカが呼びたいなら別にいいが」
俺の言葉を受けてルルカはにっこりと笑った。
***
「お兄ちゃん、おかえり! ルルカさんもお疲れさま!」
ギルドに戻ると厨房のところからルコットが駆け寄ってくる。
どうやら夕食の準備をしていたようだ。
「ありがとうございますルコット。いい匂いがしますね」
「うん。この前の依頼で報酬金の他にも猪のお肉をたくさん貰えたからね。ルルカさんがワイルドボアをたくさんやっつけてくれたおかげだよ」
「いえいえ。元はと言えば師匠のおかげですよ」
「今日も訓練だったんだもんねー。ルルカさんも毎日頑張ってるし、私もできることでサポートするね」
ルコットと言葉を交わした後で大机のところに向かうと、リアが何やら深刻そうな表情を浮かべながら独り言を呟いていた。
「よくよく考えてみればギルドメンバーが増えればこうなることも予見できたはず……。しかし、ここまでお二人の時間が増えるとは。これではアリウス様との親睦を深めるチャンスが……」
「何をブツブツ言ってるんだ、リア」
「あ、おかえりなさいアリウス様! 私にしますか? 私にしますか? それとも私にしますか!?」
「おい、俺に決定権が無いぞ。せめてご飯と風呂の選択肢も入れてくれ」
迫ってくるリアに若干引きながら俺はルルカと一緒に座る。
「ぐはっ……。自然とお隣に。アリウス様とルルカさんがこうも親密になるとは……」
「ちょっとリア。何を勝手に妄想してるんですか」
大机の上に崩れ落ちたリアとは対象的にルルカは冷静な対処をする。
ルルカがギルドに来て数日。
リアやルコットとも気が合うのか、だいぶ砕けた感じで接する感じになったようで何よりだ。
ちなみにルルカにはリアが女神だということも伝えている。
リアが翼をお披露目したところ「わぁあ、可愛いです!」という少しズレた反応だったのを思い出す。
「ほら、女神様なのにだらしないですよ。しゃきっとしてください」
「うぅ……。でもアリウス様とのデート、楽しそうで羨ましいです……」
「デ、デートではありませんよ。いや、まあその。た、確かに自分も師匠といる時間はとても楽しいですが……」
ルルカのその言葉が追い打ちをかけたようで、リアは更にがっくりと肩を落とす。
「いえ、よく考えたらアリウス様の器なら当然のことですね。ルルカさんも良い子ですし。そもそも別に一人だけという決まりもありません。そんな安い固定概念は持つ必要が――」
リアがまたよく分からないことを呟いている。
そうして、ルコットの夕食ができる頃にリアはすっかりと元気を取り戻していた。
「さて、ちょっと話しておきたいことがあるんだが」
俺は夕食の後でみんなに向けて切り出す。
ルルカも修行を重ねているせいか、このところメキメキと腕を上げている。
ギルドとしての今後も考え、これまで受けていなかった依頼、例えば《上級クエスト》などにも手を出してみようという提案だった。
「上級クエスト……。強いモンスターの討伐をすることが多く、基本的にB級以上のギルドが受注する依頼のことですね、師匠」
「そう、ルルカの言う通り。俺たちのギルドはC級だから、通常はB級以上のギルド限定の依頼を受けることができない。ただ、B級以上が条件ではなく『推奨』とされている依頼も中にはある。とりあえず達成してくれればどのギルドでも構わないというスタンスを依頼主が示している場合だな」
「ふむふむ。《災厄の魔物》に立ち向かうためには強い敵とも戦っておいた方が良いでしょうしね。アリウス様に賛成です!」
「よし、そうと決まれば明日ギルド協会に行ってみよう。協会長のキールさんなら上級クエストを紹介してくれるかもしれないしな」
皆が俺の声に応じるかのように頷いてくれている。
「んっふふー。アリウス様とまたお出かけ。楽しみですねぇ」
リアがいつもの調子で笑い、俺を含めてみんながそれを見てヤレヤレと苦笑する。
そうして、俺たちは初めての上級クエストに挑戦するための準備に取り掛かることにした。
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