第2話 称号士は謎の美少女と出会う
「それじゃ、ちょっとお邪魔しますよ、と」
ギルドから追放された日の夜、俺は王都外れの遺跡にやって来た。
遺跡の入口にある階段を少し下った所で布を広げ、その上で仰向けになる。
石造りの地面が固くゴツゴツしているがこの際仕方ない。
何箇所もギルドを回った疲労も手伝ってか、すぐに意識がまどろんできた。
……。
…………。
――何だ?
俺はふと、何かの気配を感じて起き上がる。
「遺跡の奥からか……?」
俺は片手に灯り、片手に愛用のショートソードを持ち、奥の方へと歩を進める。
先日、野盗を捕らえた際にも来たことがあるが、この遺跡自体はそこまで広くない。
そして予想通り、すぐに奥の壁へと突き当たってしまった。
気のせいかと思い踵を返そうとしたが、そこで壁の方から冷たい風が吹いているのに気付く。
そうして、他とは少しだけ色褪せ方が違う壁面があるのを見つけ、何とはなしに力を込めた。
すると――、
「おわっ、何だコレ!?」
壁が音を立てて崩れ、更に奥へと続く通路が現れる。
――隠し、通路?
風はその奥から吹いてきているようだ。
「野盗の奴らが隠してた財宝でもあると嬉しいんだがな……」
そうして通路を進んでいくと、開けた場所に出る。
巨大な石柱が規則正しく二列に並び、王都にある大聖堂を思わせるような場所だ。
しかし、その不可思議な場所よりも、その一番奥で光を放っているものの方が気になった。
俺は慎重にその場所へと近づき「それ」を見つける。
「……っ!」
光を放つ魔法陣の上にいたのは、人だった。
もっと正確に言うなら、女の子だった。
そして更に……、というか念のため言うなら、その女の子は一糸纏わぬ姿でそこに倒れていた。
だが、俺が驚いたのはそこだけではなかった。
背中の真ん中辺りまで伸びる、水色に透き通った髪。
目を閉じていても分かる、妖精のように整った顔立ち。
そして何より、背中から生える純白の翼――。
若干幼い感じはしたものの、女の子はこの世界に伝わる女神、エクーリアの容姿と瓜二つだったのだ。
「ん、うぅ……」
「お、おい、大丈夫か!」
微かに声を漏らす女の子に近づき、その体を抱えあげた。
俺の声に反応してか、女の子の瞼はゆっくりと開いていき、宝石のように蒼い瞳が現れる。
それはまるで、神聖な儀式か何かのように思えた。
のだが……、
「ふぁああ。……おはようございましゅ」
気の抜けた声で女の子は言った。
「……」
「あれ? ここは……?」
あまりに緊張感の無い第一声に固まってしまう。
女の子は寝ぼけ眼で辺りをキョロキョロと見回すと、自分の体に目を落としていた。
「……あ、良かった。ちゃんと受肉できてる。翼もある、と。でも体は少しちっちゃくなっちゃいましたか」
「え、と……」
「まあ、仕方ないですね。何と言ってもあの方に会うためですから」
「おい君、大丈夫か?」
俺は何とか冷静さを取り戻して女の子に声をかける。
すると、女の子の首がぐるりと回転して俺の方に向き、その綺麗な蒼い瞳が見開かれた。
「あ、あ……あぁ」
「……?」
「アリウス様ぁ! お会いしたかったです!!」
「って、ちょっ……!」
女の子がいきなり俺に抱きついてきた。
……もちろん裸のまま。
「良かったぁ! 早速会えました! これはやっぱり運命です!」
「ちょっと待って! 一旦離れてくれ!」
俺はしがみつく女の子をどうにか引き剥がす。
そして、生まれてきて一番早いんじゃないかというスピードで上着を脱ぎ、女の子に羽織らせた。
やめてくれ……。
生まれてこの方、ギルドの仕事三昧で妹以外の女の子とはロクに話したことも無いんだ。
それが突然裸の美少女に抱きつかれるとか、刺激が強すぎる。
そもそも状況が全く分からない。
何で俺の名前を知っている?
この子は一体、何なんだ?
俺はバクバク鳴っている心臓を落ち着けるため、大きく深呼吸してから女の子に向き直る。
「なあ、君は誰なんだ? どうしてこんなところにいる? それに俺のことをアリウス様って、一体……」
「お、落ち着いて下さい、アリウス様」
いきなり抱きついてきた人間に言われたくないんだが……。
「ええと、どこから話しましょう。あ、そうそう。私が誰かってことでしたね」
女の子は姿勢を正すと深々と俺の方へ頭を下げた。
「私の名前はエクーリア。女神です」
「………………は?」
ものすごくあっさりと言われて、思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。
「女神です」
またも女の子は繰り返す。
表情は至って真剣そのものだ。
……。
いや、女神って……。
「あー、その顔。アリウス様ってば信じてませんね?」
「そりゃ、信じられないだろ。普通……」
女の子の容姿は伝承に伝わる女神、エクーリアにそっくりだ。
背中から伸びた純白の翼も、明らかに人間のものとは思えないのは確かだが……。
「ならいいですよ。アリウス様のジョブ、当てちゃいますから!」
「俺のジョブを、当てる?」
それは無理だろう。
俺が女神から授かったジョブは【称号士】という今まで聞いたことの無いものだ。
話してもいないのにそんなことが分かるはず無い。
そう思っていたのだが、
「ズバリ、【称号士】ですね!」
女の子はピタリと言い当てる。
「ど、どうして……?」
「ふっふーん。もちろん分かりますよ。だってそのジョブをアリウス様に与えたのは私ですから」
確かに、ジョブを授けた女神本人なら俺のジョブが分かっていても不思議ではないが……。
……いや、しかし……。
「仮に君が女神様だとして、どうしてこんなところに?」
「ええと、それはですね――」
その時、俺は背後に強烈な殺気を感じ取る。
「……っ!」
――この気配は、モンスターの……!
俺は灯りを床に置き、女の子の前に立ちはだかるようにしてショートソードを鞘から抜き放つ。
そして――、
「な、なんだコレ……?」
規則正しく並んだ石柱の間に黒い渦のようなものが現れる。
その渦の中心からは、漆黒の毛並みに赤い瞳持つモンスター、ブラッドウルフの群れが出現したのだった――。
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