コミカライズ化決定【称号付与士のギルド立ち上げ計画】最弱ジョブ認定されギルド解雇された俺。授かったのは名前を付けるだけで真の力を引き出すチート能力でした。能力を使っていたら最強のギルドが爆誕した件。
天池のぞむ
第1話 称号士と解雇通知書
「解雇、通知書……」
ギルド長の執務室を訪れた俺に、一枚の羊皮紙が手渡された。
その紙にはアリウス・アルレインという自分の名前があり、そしてただ一言、ギルド《黒影の賢狼》より解雇すると記載されている。
「これは……。一体どういうことですか、ギルド長!」
「おやおや。文字が読めないほどに低能だとは思わなかったよ、アリウス君。どういうことも何も、そこに書いてある通りさ」
俺に解雇通知書を渡した男は、精悍な顔立ちとは裏腹に下卑た笑みを浮かべている。
レブラ・テンベル――。
若くして《黒影の賢狼》のギルド長に就任した男だった。
《黒影の賢狼》はこの王都でも随一を誇るエリートギルドであり、大陸一のギルドとの呼び声も高い。
故郷にいる病弱な妹のため資金を稼ぐ必要があった俺にとって、このギルドに採用が決まったことはまさに僥倖だった。
故郷のみんなが祝ってくれて、妹などは手製のお守りを作って祝福してくれて……。
これで故郷の妹を楽にしてやれる、恩を受けたこのギルドのために尽くそうと、これまで奮闘してきた。
先代からは部下を持つ部隊リーダーに任命され、ここで頑張れば明るい未来を歩むことができると、本気でそう思っていた。
しかし、そんな未来図は一年前に終わりを告げる。
一年前、このレブラがギルド長に就任してからというもの、ギルドメンバー一人ひとりに過剰なノルマが設定されたのだ。
来る日も来る日も戦闘に駆り出されるギルドメンバーは日を追うごとに疲弊し、その代わりにギルドは例年よりもほんの少し多くの金を得た。
その利益がギルドメンバーに還元されることは無かったが……。
「いやぁ、部隊リーダーであるキミには期待してたんだけどねぇ。よりにもよって授かったのが戦闘に使えない外れジョブだとは。本当にキミにはがっかりしたよ、アリウス君」
「何で俺のジョブが外れだと決めつけるんです!」
「あっはぁ。キミ、それ本気で言ってる?」
レブラは笑みを浮かべたままツカツカと俺の方に歩み寄り、いきなり俺を蹴り飛ばした。
「がっ……! な、何を……」
「ほら、現に【バトルマスター】のジョブを持つボクには手も足も出ないだろ? そりゃそうさ、ボクのは全てのステータスが上昇する上級ジョブだもん」
黙っていれば美形だというのに、レブラは憎らしく破顔して金色の髪を掻き上げる。
「それに引き換えキミのジョブ……、【称号士】だっけ? 授かった能力は《称号を与える》って、意味分かんないよねぇ。単に名前を付けるだなんて、子供の遊びじゃないんだからさぁ!」
「ぐ、が……」
レブラはひざまずいた俺を更に上から殴りつける。
くそ、このサディストめ……。
こんなことして一体何が楽しいんだ。
「確かにキミは優秀だったさ。優れた戦闘能力を持ち、先代から部隊リーダーに任命された。きっと有能なジョブを授かるんだと思って誰もが疑わなかった。でも、それも今日の朝までだったなんてねぇ」
今日の朝――。
18歳になった俺は女神から力を授かった。
それは何も俺だけに起こることじゃない。
この世界では誰もが18歳の朝を迎えると女神から「ジョブ」という異能の力を授かることになるのだ。
ジョブはその者の潜在能力を引き出すと言われ、剣士や魔道士、回復士にテイマーなど、数多くの種類が存在していた。
自身の行く先を決めるジョブの決定に心躍らない者はおらず、それは俺も同じだった。
けれど、そうして俺が授かったジョブは【称号士】。
能力は「称号を付与することができる」という使い道の分からない意味不明な力だった。
いや、使ったところで何になるのか、と言った方が正しいかもしれない。
けど、ここで引き下がるわけには……。
「せ、せめて……」
「ん?」
「せめて俺のジョブ能力を確かめて下さい!」
「……いいとも。試しにボクに使ってみたまえ。それでもしキミのジョブが有能だと証明できたのなら解雇の撤回を考えてあげよう。もっとも、名前を付けるだけのジョブにそんなことできるハズないと思うけどね」
「じゃあ、いきますよ……!」
俺は対象をレブラに定めてジョブ能力の使用を念じた。
すると、目の前に青白く光る文字列が並び、レブラと一緒にその文字列を覗き込む。
=====================================
【対象レブラ・テンベル、選択可能な称号付与一覧】
●愚者
・知能のステータスがダウンします。
●怠惰
・魔力のステータスがダウンします。
=====================================
「……」
「……あ、えっと……」
言葉を選んでいると、またレブラに殴り飛ばされた。
「キミは、ボクのことを、馬鹿にしてるのかい……!」
「い、いや、そういうわけでは……」
断っておくが俺が文字列の内容を決めたわけじゃない。
《選択可能な称号》というのは勝手に表示されたものだ。
そうレブラにも伝えるが、問答無用と言わんばかりに拳が二度三度と振り下ろされる。
「第一、能力を下げるデバフならギルドにいる魔道士でも十分にできることなんだよ。それをわざわざボクを愚弄するような言葉で表わすなんて、馬鹿にしてるとしか言えないよねぇ……!」
「く……」
「そうだ、ボクがキミに称号を与えてやろうか? そうだなぁ。『外れジョブ持ちの低能クン』なんてのはどうだい? ハハハハッ!」
と、レブラに殴られた拍子に1体のお守りが床に投げ出された。
「なんだい? このチンケな護符は。こんなものを持ち歩いてるからそんな外れジョブしか授かれないんじゃないのかなぁ?」
言って、レブラがそれを踏みつける。
それは故郷の妹が俺のためにと、今後も無事でいられるようにと、想いを込めて作ってくれたお守りだった。
「――っ、貴様!」
「……あのさぁ、ボクは大陸一のギルド《黒影の賢狼》の長だよ? いいのかなぁ、そんな口聞いて。このギルドを出ていった後、アリウス君を雇わないよう他のギルド長に声をかけてあげてもいいんだけどなぁ」
かつてない怒りを覚えたものの、思い留まる。
ここでレブラに歯向かい他のギルドでも受け入れられなくなれば、俺はこの王都で稼ぐ手段を失うのだ。
そうなれば、妹は……。
それに、悔しいがこのレブラにはそれだけの力がある。
「……失礼、しました。せめて、その足を離して下さい」
「クックック。ああ、いいとも。そらっ」
レブラが蹴って寄越したお守りが顔に当たった。
「……」
俺は膝をつき、ボロボロになったお守りを拾い上げた。
怒りと悔しさとを均等に混ぜ合わせたような、チリチリとした感情が湧き上がるのを感じる。
授かったジョブが役に立たないからというだけで、こんな仕打ちを受けなければならないのか……。
そんなことを考えていると、執務室の扉が勢いよく開く。
「ギルド長!」
そこにいたのはギルドの副長を務めるクリスだった。
普段の冷静沈着な彼女からは想像もできないほどの剣幕で、長く綺麗な銀髪を揺らしながら執務室の中へと入ってくる。
「聞きましたよ! 私に報せもなくアリウスを解雇するなんてどういうおつもりです、ギルド長!」
「うるさいなぁ。キミは」
レブラは面倒くさそうに大きく溜息をつく。
「ギルドの長であるボクが、副長であるキミに了承を得る必要がどこにあるんだい?」
「し、しかしあまりにも横暴です! アリウスがどれだけ身を粉にしてギルドに尽くしてくれたと思っているのです? この一年、仕事を終えるのはいつも日をまたいでから。来る日も来る日もモンスター討伐。そんな状態でロクに休みも与えず働かせ続けたのはギルド長じゃないですか!」
クリスは憤慨して捲し立てる。
確かにいつしかそれが当たり前になってしまっていたが、言われてみるとけっこうな激務だった気がする。
「でも、キミだって分かってるでしょ? この世界においてジョブは絶対なんだよ。個人の持つ元々の戦闘能力なんてジョブが及ぼす影響力の前ではちっぽけなものさ。アリウス君の【称号士】は魔法が使えるのかい? 剣技が使えるのかい? どうしたら役に立つか教えてくれよ」
「そ、それは……」
「ね? 名前を付けて強くなれるんなら誰も苦労しない。現にさっきもボクに能力を使ったところボクを愚弄するような効果だったよ」
「……ですが、アリウスの人柄は先代も認め多くの部下から慕われるほどで――」
「あーもう、そういうのいいからさぁ。ギルドは仲良し集団じゃないんだから。まったく、こんな人間が部隊リーダーとは、先代もとんだ節穴だよ」
「……ギルド長っ、あなたという人は!」
「クリスさん。もう、大丈夫です」
俺は妹のお守りを懐にしまい立ち上がる。
副長にもこれ以上迷惑をかけるわけにはいかない。
「クリスさん、ありがとうございます。でも、大丈夫です。ギルド長の言う通り俺はこのギルドを出ていきますから」
「しかしだな……」
「出ていく、じゃなくて追い出されるんだけどねぇ……。さあ、行った行った」
口に手を当てて笑うレブラに背を向けて、俺は執務室を後にする。
「アリウス……」
副長が心配そうに呟いてくれて、少しだけ心が軽くなった気がした。
――このまま……、このまま終われるかよ。
***
「残念だがウチのギルドじゃ雇えないねぇ」
「そう、ですか……。お忙しい中、ありがとうございました……」
俺は何度目になるか分からないその言葉を受けて、訪問したギルドを後にする。
――外れジョブを授かった野郎を雇う余裕なんてあるかよ。
後ろで対応してくれたギルド職員の声が聞こえた。
どうせ悪態をつくなら聞こえないようにしてくれと思ったが、俺は聞こえないフリをしてその場を去る。
レブラに《黒影の賢狼》を追い出されてから色んなギルドを手当たり次第に当たっていたが、どこもこんな調子だった。
《黒影の賢狼》で部隊リーダーを務めていたことを伝えるとどのギルドも目を輝かせたが、女神から授かったジョブが【称号士】であるということを伝えると手の平を返したように態度を変えられるのだ。
故郷で病を抱えている妹のためにも、稼ぐ手段をつくらなくてはならないというのに。
――これなら、いっそのこと自分でギルドを立ち上げてやろうか。
そんな考えがよぎったその時、空から雨が降ってきた。
「仕方ない、ひとまず雨をしのげる場所に行こう……」
王都から少し外れたところに遺跡があったはずだ。
つい先日までは野盗の根城とされていた場所だが、その野盗は《黒影の賢狼》にいる時に俺の部隊が捕らえていた。
宿代を使う余裕もないし、今日はそこに行って明日からのことを考えよう。
そうして城壁の方へと向かう途中で女神像が目に入る。
肩に水瓶を抱え美しく微笑む女性の姿を模した像だった。
像の背中からは天使のような翼が生えていて、神秘的な雰囲気すら感じさせる。
「女神様、どうかお導き下さい……」
俺は胸に手を当て、女神像に向けて頭を下げる。
子供の頃から教えられてきた女神に対する拝礼の作法だ。
「……」
当然だが、女神像は何も答えない。
雨が降る中でも変わらない笑みを浮かべているだけだ。
そうして、俺は遺跡を目指して歩き出す。
――本当に、女神がいるなら導いてほしいよ。
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