第29話 襲撃

「確かに早い方がいいとは言ったけど、まさか次の日とは思ってなかったなぁ……」


「ははっ!悪ぃな嬢ちゃん達、もう仕掛けもなんも終わらせて後は攻め込むだけって状態だったんだ!必要な準備が終われば攻め込むのは早い方がいい、それは嬢ちゃん達も同じ意見だろう?」


「あ、ギンイロさん。おはようございますー」


「おう、おはよう」


 二人が白雪の下の氷を破り、氷蓋の国ヒャルコアカルテコへと侵入した次の日の朝、集合場所である昨日の酒場へと2階の宿場から降りてきた2人は、カナイロと同じ幹部であるギンイロへと挨拶をする。


「いやぁ、二人が作戦を手伝ってくれると聞いて安心したぜ。あの氷蓋を破れる奴が手伝ってくれるなんて、これ以上心強いこたぁねぇからな」


「この国の人達のあんな顔を見たらもう断れませんよ」


 そう言うとルシィーナは昨日の事を思い出し、ぎゅっと手を握りしめる。


 ーーーーーーーーー


「改めて見たけど、やっぱり凄い……」


「建物も道だけじゃなくて街灯とかも氷だ……ほんとに凄い」


「それだけやないでー。家の中は家具からなんやらも全部氷で出来とるんやで!」


「「へぇー……!」」


「凄いねシィー!」


「だねぇ。決行が明日だって聞いたから食料とかが悲惨な状況だったりするのかなと思ったけど、割と普通みたいで安心したよ」


 カナイロに作戦決行がまさかの翌日である事を伝えられた後、流石に翌日決行とは思ってなかった二人は作戦開始前にせっかくなので観光をとカナイロ案内の元街へと出ていた。


「まぁ言うてウチらの何世代も前からこの国は神さんのお膝元やからな、ここで産まれたらあの青天井を眺めて一生を終えるのが当たり前なんや……っと、おーいチビ助ー、走るとコケるでー」


「あ!カナイロおねーちゃんこんにちは!その人たちはー?」


「お姉ちゃんのお友達や!仲良くしたってなーっと、そうや。なぁチビ助、将来の夢ってあるか?」


「しょーらいのゆめー?んー……知らない場所に行ってみたいな!」


「!」


「そっかそっか!ほな明日はおもろい事があるかもしれへんでー?ほれ、飴ちゃんやるからきーつけて帰るんやでー」


「うん!カナイロおねーちゃんばいばい!おともだちのおねーちゃんたちもばいばーい!」


「ばいばい……カナイロさん今のって」


「ま、見てもろた方が早いおもてな。見たやろあの子のあの目、夢はあってもそれを諦めとった目や」


 カナイロが呼び止めたまだ10にもなってない様な男の子が夢を語る際に見た、最初から期待をしていない諦めの色が浮かんだ瞳を見たルシィーナの尋ねる声にカナイロはそう答える。


「でもウチらは閉じ込められたまま一生を終えたくない。他の諦めた奴らにも希望を持たせたい。だから神に反旗を翻す事に決めたんや」


 そしてルシィーナはそう氷の蓋を見上げて言うカナイロを見て決意を固めた。


「そういや、いつまでもお姉ちゃんじゃあれやし、そろそろ愛称とかで呼ばせて貰いたいんやけど、ええかな?」


「……!勿論だよ!」


 そして少しだけ二人の中は深まったのであった。


 ーーーーーーーーー


「そういや、皆僕達がすごい力を持ってるって言ってるけど、なんでそう思うの?」


「ん?あぁ、その事か。あいつらも昨日言ってたが昨日お嬢ちゃんらが破ったあの氷の蓋はな、神の御加護とやらで造られた溶けないし割れない氷なんだ」


「へぇ……その割には、結構簡単に割れたよね?」


「うん。こう、ノーちゃんが爆風を起こした後に殴ったら結構あっさりと」


「そう、そこだ。つまりお前さんらにはあの氷の蓋を壊せる様な、神の御加護に匹敵するかそれ以上の力を持つ存在だと言うことになる。って訳だ」


「成程……」


「それに、君達が穴を開けてくれたからあの氷周辺を守る青氷教会の連中が動かざるを得なくなった。お陰で仕掛けはバレなかったし、警備も手薄になった」


「そしてウチらは神座を揺るがす力を持つ可愛えぇ姉妹を味方につけたってわけや。おはようおふたりさん」


「あ、カナイロ。それにバリーも」


 ギンイロからどうしてこうもするっと作戦に加えて貰えたのかを聞いていた二人に、後ろからカナイロとバリーが追加の説明をしながら現れる。


「おはよー妹ちゃん。ほれ、もふもふやよー」


「わーい」


「……さて、もう一時間もすれば全員が集まる。集まり次第みんなで朝食を食べながら最後の作戦会議を行うから暫く待っていてくれよな」


「はい、分かりました」


「ここの飯はうめぇぞー。お嬢ちゃんも大満足する筈だ!」


「ほんと?!」


「あぁ!っと、ぞろぞろやって来始めたな。そいじゃ嬢ちゃん、満足するまでたんまりと飯を食ってくれよ」


「はーい!」


 そう言って先に店の奥にあるカウンターの元に行っていたカナイロとバリーの元へ、ギンイロは続々と酒場へとやって来始めたレジスタンスの仲間達を見るとそう言って二人の元を離れる。

 そしてレジスタンス「白雪の氷狼」の面々、総勢30名が揃った所でバリーが作戦を話し始めた。


 ーーーーーーーーーー


「……よし、敵はおらんで。進むなら今の内やな」


 氷の街の中央部、そこに鎮座するどの氷よりも深い青色の氷を囲む神殿の一角、周囲を確認したカナイロの手招きに従って二人とギンイロは前に進む。


「目的地まで後どれくらいだ?」


「ここを抜けたら神座のある場所に辿り着くはずや。二人共、準備はええか?」


「うん」「大丈夫、です」


 カナイロにそう聞かれて二人はそう返事をしながら、朝の作戦会議を思い出す。


 ーーーー


「先日の一件を踏まえ、当初の一点突破ではなく二チームに分けて作戦を行う」


 バリーのその一言で賑やかだった酒場は、1度一際大きいざわめきが起こった後、シンと静かになる。


「まず俺は、この二人の力が今回の作戦の肝になる。そう確信してる。だから先ずは部隊を俺の率いる誘導部隊、そして二人と精鋭含めた4人の本部隊の二つで先ずは神座を破壊する」


「神座?」


「お客人は知らんか、街の真ん中。底の方に恐ろしいくらい真っ青な氷があったろう?あれが神座、竜の眠る場所だ」


「なるほど」


「作戦開始後、本部隊が神殿内に潜入して10分が経ったタイミングで仕掛けを発動させ、誘導部隊が突入して警備を引き寄せる。これが、作戦の第1段階だ」


 ーーーー


「さて、時間通りならそろそろ──────」


 ドォォォォォォォオオオオン……!


「な、なんだ?!」「爆発だぁ!」「西だ!西棟からだ!」「確認を……うわぁぁ!」「白雪共がやってきたぞ!」「迎え撃て!」


「始まった!」


「現場もええ具合に混乱してきた様やし、行くなら今しかあらへん!三人とも行くで!」


「うん!」「はい!」「おう!」


 神殿内へと爆発音が響き渡り、一通りの騒がしさの後戦闘音が聞こえ始めたのを聞いたカナイロが先陣を切り、それに続く様にして三人が走り始める。


「む?!誰だ貴様らは!」


「邪魔や!どきぃ!金狼の双爪!」


「ぬぐぁあっ?!」


「ど、どうした!?って貴様らは!」


「ハハッ!餌が向こうからやってきやがるぜ!銀狼の重拳!」


「ぬぅおおぉぉお?!」


「おぉー!なにそれかっこいいー!」


「ははっ!ええやろー!これはウチらが使える自分の体を強化する技なんやでー!」


「まぁ人によって使える技も能力も変わるんだけどな!」


「へぇ……!種族特有の魔術とかそういうのなのかな?」


「俺はそう言うのに詳しくねぇが、とにかく道は開けたんだ。乗り込むぞ!」


 金色のオーラと銀色のオーラをそれぞれの爪や拳に纏わせ、立ち塞がって来た相手を一撃で仕留めたカナイロとギンイロの後にルシィーナとノートゥーンが続き、神座のある広間へと4人はたどり着く。

 しかしそこには……


「やはり来ると思っていたぞ、愚犬共」


「そっちこそ、大人しくリーダー達の陽動にかかっててくれても良かったんやで?枢機卿、アルケスティスはん」


「貴様らのような愚犬、我が手を下すまでもないわ」


 他の教徒とは違って三角頭巾こそ被って居ないものの、分厚い深い青色の細やかな刺繍が施されたローブに身を包んだアルケスティスと呼ばれた男は、そう嘲笑うように言って来る。


「……ただし、我らが神の神座へ触れると言うならば話は別。我が持てる力全てをもって叩き潰してくれよう!」


 しかし、一拍置いてそう言ったアルケスティスの目や態度、そして放つ雰囲気は一変し、容赦の無い物へと変わっていた。


「……ノーちゃん」


「分かってる。確かにこいつは底が見えない……けど」


「勝てない相手ではあらへん。それに」


「俺達もついている。そうだろう?」


「……うん。そうだね!皆、行こう!」


「「「おう!」」」


 ルシィーナがそう言ってロッドブレードを構えたのに合わせ、ノートゥーンを真ん中に三人はアルケスティスの前へと立ち塞がる様にして武器を構え、枢機卿アルケスティスへと向き合う。

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