第5話 魔人
「さ、ここなら安全だよ。皆ゆっくり休んで」
「「「はーい」」」
「悪かったな。負けたのに要望なんかしてしまって」
「これくらい大丈夫ですよ。私達も出来ることなら助けられる人は助けたかったですし」
「でもまさか、戦う理由がこの子供達を僕らに無理やりにでもタガティマに連れて行かせる為とは」
「うるせえ」
ノートゥーンの見つけていた並の魔物程度なら大丈夫な場所にやってきた一行は、そんな話をしながらも久しぶりの安心出来る空間に笑顔を浮かべる子供達を見てほっこりしていた。
「ねーねー!おねーちゃん僕達と遊ぼー!」
「遊ぼ遊ぼー!」
「さっきのお手手がぶわーってなるやつなんだったのー?!」
「私もしりたーい!」
「えっ、あっちょっ、シィー!」
「ふふっ、ノーちゃん頑張ってー」
「良かったのか?ノートゥーン後で覚えてろみたいな顔してたが」
「ノーちゃんちっちゃいから同じくらいの背格好の子供達にも懐かれたんですかねー?それに、どうせノーちゃんはこれからする話に興味は無いでしょうから」
「そういや、アイツ俺が女って言ったらキレてたが、女だよな?」
「はい。女の子で間違いないですよ。ただ本人曰く「竜は本来雌雄がない、だけど女の体で覚醒したからバランスを取るためにか精神的には男になってるんだ」との事で、女の子扱いすると怒るんですよねー」
「なるほど。だからあんなに怒ったのか。っと行けねぇ俺まで聞き入っちまった。んじゃ改めてだがこの国に一体何があったかお願いしてもいいか?」
「あぁ。だがその前に、俺はウィーギンティーと呼ばれていた。この国で作られた魔人だ」
ノートゥーンと戦った大男はウィーギンティーと名乗り、自分の事を魔人と言った。
しかし細身長身だがガタイはいい目つきの悪い左目に眼帯という……確かに柄は悪いが、どこからどう見ても世間一般で言う魔人には該当しない見た目だった。
「その様子を見る限り、信じてないようだな」
「そりゃそうさ。魔人っつったらあれだろ?御伽噺に出てくる様な存在だろ?」
「確かにノーちゃんが衝撃波を使ってきたって言ってたし、魔物みたいな能力はあるみたいだけど……魔人には見えないですよ?」
魔人と聞かされた二人がそんな反応をしたのもそのはず。
魔人とは魔物が突然変異等により人の形を取った者の総称で、一概には言えないが大抵御伽噺中の魔人は魔物の部位を体に持ち、完全に人と同じ見た目にはなれないのだ。
それこそノートゥーンの様に変身変形する能力がない限り。
「だろうな。なんたって俺は人工の魔人なんだから」
「「人工の魔人!?」」
「そうだ。そしてその人工の魔人を作る為の研究されていた魔物と、その研究施設こそがこの国が滅んだ原因だ。予測だがな」
「にわかには信じられん……が、さっきのノートゥーンとの人ならざる戦闘……少なくともウィーギンティーが魔人であるかそれに準ずる存在なのは間違いないか」
「ですねぇ……ただ、それがこの国を滅ぼしたかと言われると……それに、人工魔人を作る事が出来るなんていう異常な力を持つ国がそれくらいで滅ぶとは思えません」
「ならばその魔物が並の魔物ではなく、人が手を出していいような魔物じゃなかったなら、どうだ?」
「!」
「……それはもしかして竜、か?」
「いや、そこまでは分からない。俺も大崩壊が起こるまでは地下に閉じ込められてたからな。だが大崩壊のだいたい1ヶ月前に研究員共が盛り上がってたのは確かだ」
ウィーギンティーのその言葉を聞き、ノートゥーンの目的に1歩近づいたと喜ぶルシィーナの横でハグラァドはある言葉に引っかかる。
「大崩壊……?街が壊れた事か?」
「それもあるが……お前達は知らないのか?」
「いや。確かに街は壊れてたし、象徴って言われる歯車は倒れてたが、大崩壊って言う程か?建物は原型を留めているのが殆どだったが」
「あぁ、やっぱり知らないのか。この国の街はな、お飾りなんだよ」
「「え?」」
「本命は下、地面の中だ。この国は地下深くまで続く生産施設と研究施設が本体なんだよ」
「なるほど。だから最初目に散策させた時やたらと地下に続くパイプと隠し通路が多かった訳だ」
「あ、ノーちゃー……懐かれたねぇ」
納得したような声でそう言いながら会話に参加しようと歩いてきたノートゥーンの翼や尻尾にしがみつく子供達を見て、ルシィーナは思わずそう呟く。
「懐かれたくはなかったんだけどね。所でウィーギンティー、一つだけ聞きたいことがあるんだけど」
「なんだ」
「この子達も、人工魔人だよね?」
「「んなっ?!」」
「……あぁ、その通りだ」
「ちょっ、ノーちゃん!それってどういうことなの?!」
「シィー、ちょっと黙ってて。ハグラァド、この街からの避難民とかは居たの?」
「……いや、確認が取れてる限りだと居なかった筈だ。俺が本国の指示で調査に来たのもコルド・ア・カルドが数週間前から何の音沙汰も無かったからだし……まさか────」
「あ、ハグラァド気が付いた?」
「気がついたも何もあるか!ノートゥーン、お前はまさかこいつら人工魔人以外のコルド・ア・カルドの住民が滅んだと言いたいのか!?それも跡形残さず!」
「それ以外に何があるの?言っておくけど僕は竜だよ。人は信じたくない事は直ぐに拒否して蓋をするけど、僕はわざわざ真実を隠す気はないよ?」
ずいっと顔を近づけ、そんな非現実的なノートゥーンの言いたいことに気がついてしまったハグラァドにノートゥーンは容赦なく言葉を放つ。
「……っ!だ、だが、地上には死体一つなかった!それなら逃げた人が居たとしても────」
「でもその逃げた人は確認されてないんでしょ?それに、死体くらい竜の力の前じゃ簡単に残さず消えるよ。破壊系の力を司ってない僕ですら片腕を代償にすれば出来るくらいなんだから」
「つまり、ノーちゃんはあの子達が生き残ったのはウィーギンティーさんと同じ魔人の強力な体があったからっていいたいの?」
「そういう事」
「信じられん……だが…………」
「そこの小娘が言う通りだ。俺達は地下施設で拘束されていたんだが、爆発と言うよりは何かの波動が通り過ぎた後拘束具が溶けるように消えてな。その後扉を壊して外に出たがそこには誰一人いなかった」
(ノーちゃん、そんな竜に心当たりある?)
(心当たりか……溶けるように……熱?だけど分解の線も……まだ絞り込めては居ないけど、やっぱりこの件竜が何らかの形で関与してるとみて間違いないよ)
「さて、一応今のウィーギンティーの証言を加味しても竜が関与してるとみて間違いないし、僕とシィーにはここを調査する理由ができた訳だけど、二人はどうする?」
ノートゥーンがそう聞くとハグラァドは頭を抱えたものの、ウィーギンティーはギッとノートゥーンとルシィーナの方に鋭い視線を向ける。
「俺はついて行く。ガキ共を街に届ける前に死なれちゃ困る」
「ん、わかった。それでハグラァドは?」
「〜〜っ!あーくそっ、仕方ねぇなぁ!ついてく、ついてくよ!「ついたら人がいなくなって国は滅んでました。原因は分かりません」なんて報告できるか!こうなったら最後まで見届けてやる!」
半ばやけっぱち気味にそう言ったハグラァドに、ノートゥーンはよく言ったとばかりに笑顔を浮かべるのだった。
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