ネット対戦メインの格ゲーのプレイヤーキャラになったから誰の技でも使えるんだが
恵那氏
第1話
画面上のキャラが台詞を叫びながら次々と攻撃を当てていく。パンチ、下段蹴り、頭突きにタックル。次々とラッシュを決めるキャラに対してそのキャラを動かす画面を見つめる男は口を開かない。画面を真剣に見つめては次の行動を考えるので頭がいっぱいなのだ。
しかしその静寂もおよそ2分ほどで破れる。
画面上ではキャラクターが敵と思わしき相手を吹き飛ばして勝利の雄叫びを上げている。
「あーっしゃ」
音は小さいながらもその意味の持たない言葉に込められた思いは勝利を喜ぶ気持ち。
武田虎太は自室で人気漫画の格闘ゲーム「ファイト・ファルコン」をプレイしていた。
この「ファイト・ファルコン」というゲーム、月刊雑誌で絶賛連載中の大人気王道バトル漫画の「ファルコンの雄叫び」を家庭用ゲーム機でプレイヤー同士の対戦バトルが出来るようにしたものであり、武田虎太も今ネットを使ってその対戦を遊んでいたところだ。
この「ファイト・ファルコン」は所謂格ゲーであり、対人対戦に重きを置いている。
その為申し訳程度に作られたストーリーパートに制作側が時間をかけなかったのかは分からないがネットではクソゲー呼ばわりされている代物であった。
ストーリーモードでは原作を忠実に追っていき、そこにはプレイヤーであるあなたの姿が!主人公達と一緒に原作を追体験しよう!というのが売り文句だったのだが実際にやってみたプレイヤーからは不評だった。
曰く、原作に無理やりプレイヤーを落とし込んでいて齟齬が出ている。
曰く、オリジナル展開が多い。
曰く、結局プレイヤーいなくて良くね?と。
しかし、対戦というところではよく出来ているゲームであり、ユーザーやファンの評価も高い。「ファイト・ファルコン」には原作のキャラクターが50人以上操作出来、そのキャラ選択の自由度の高さが売りだった。
虎太もストーリーモードこそ数分だけ遊んだが、あとは殆ど友人やネットで対戦を行って遊んでいた。虎太は原作の「ファルコンの雄叫び」が好きで購入したのだが、格ゲーというジャンルを遊ぶにはどうにも忍耐力が足りず、コンボを決めたりするのには練習がいるのだが、シンプルに強い技を使ったりと対戦にはそこまで強くなれず、何となく原作が好きだし友達と遊ぶのが楽しいから、という理由でこのゲームを所持していた。
ゲームは強くないし無理やりプレイヤーを入れたストーリーモードは面白く無いのだが虎太は満足していた。
友人と遊ぶのが楽しいし、漫画で読んでいたキャラクターが大好きな必殺技を繰り出す様子を見ているだけでアニメーションを見ているようで好きだったのだ。
故に何となく攻撃を続けたり、相手の隙をみてエネルギーを溜めては演習の入る必殺技をぶっぱなしていた。何故なら楽しいから。
虎太は敵キャラクターをお決まりの必殺技で倒したあとゲームの電源をおとして眠りに着いた。画面上で激しく動き回るキャラを注視し、目を酷使したせいか目元に疲労感が溜まり、休憩したいなと思ったら眠気が襲ってきたのだ。
何、ほんの少し昼寝するだけさ。
そう思いながら瞼を閉じた。
目が覚めたら知らない街にいた。
「は?」
突然の事で頭が混乱する。
それもそうだ。寝ていたはずの自分が目を開ければ自室ではなく外。
それも見たことの無いような街並みだったのだ。
「なんか変な格好してるし」
周りを通る人々は不思議な格好、まさに漫画のような格好をしているのだ。
拳法家のような道着姿の男やまさにNINJA!と言うようなコッテコテの服装で肉だか揚げ物だかの何か茶色い食べ物を食べ歩く女性。
日本風の鎧剣士もいれば西洋風のフルプレートを纏う騎士風の剣士もいる。
「えぇ……」
ススっと少し道の小脇に移動してゆっくり人の流れにそって歩いてみる。
先程まではぼんやりと道の真ん中止まって辺りを観察していたから正直ジロジロみられて居心地が悪かったのだ。
何となく人に見られるのは嫌な習性を持つ現代日本人の虎太は内心パニックではあるがそれを悟られて見られるのは嫌だと訳が分からないなりに周りな溶け込もうとする。
人の流れに逆らわず、さも当然のような顔を貼り付けて何となく歩いてくとあまり人のいない広場のような開けた場所に出た。
あちこちに置いてあるベンチには何人かが座りそれぞれゆったりと時間を過ごしているのを見て虎太もそれにならい空いているベンチの、なるべく人が周りにいない所を選んで腰を下ろす。
深く息を吐いて手で顔を覆うと若干の、それでいてどこか確信を持って呟いた。
「ファルコンの雄叫びじゃねーか」
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