【書籍化・コミカライズ化】天空の異世界ビストロ店 ~看板娘ソラノが美味しい幸せ届けます~

佐倉涼@4シリーズ書籍化

第1話 プロローグ

 様々な人が行きかうざわめき、飛行船の重厚なプロペラ音。ここは世界最大の空港、エア・グランドゥール。人間に始まり竜人、猫耳族、ドワーフ、小人、エルフまでここで見られない種族はいないというほどのハブ空港だ。

 そんな空港の一角で今日もひとつのお店が開店した。その店は小さいながらも瀟洒な作りで、貴族に冒険者、相反する二つの人種が何も気にすることなく店へと入って行く。

 

「いらっしゃいませ」


 笑顔でお客を迎え入れるのはソラノ。この世界に召喚されて二年の、元日本人で元女子高生だ。

 なんで召喚されたのかは未だにわからないが、二年もたてば場になじむ。すっかり店の看板娘となったソラノは今日も元気にお店で接客をする。


 ここはもともとしがない料理店で、つぶれそうな危機をソラノが立て直した。


 ことは二年前に遡るーーー



「やばい、うちの店つぶれそう」


 今にも吐きそうな顔をしてそう言ったのは、料理店の親父である牛の獣人、牛人族のカウマンだ。

「そんな弱気なこと言ってんじゃないよ」


 そういって慰めるのは妻である同じく牛の獣人のマキロン。カウマンが料理をし、マキロンが接客を務める。ここはエア・グランドゥールの隅っこの隅っこにある狭小料理店。

 航空技術の発達で年々乗り入れる飛行船の数が多くなり、それとともに空港は拡大と増築の一途をたどっている。次々と流行りの店やおしゃれなレストランがオープンしている。客も飛行船に乗るような人々だから小金持ちだ。奮発してお高いコース料理を出す店に行くか、さもなければ飛行船内で出る船内食を優雅に頂くか。


 ここカウマン料理店は空港ができた当初から存在する店で、最初のうちは繁盛したもののもはや朽ちかけボロボロで、昭和の遺産かというような出で立ちの店だった。

 場所もよくない。飛行船に乗る最終待合場所の一角にあるせいで、ここまでくる間に客は食事を済ませてくるか、飛行船内の船内食を楽しみに腹を空かせておくかの二択だ。

 カウマンとマキロンの店に足を止める人なんていないのだ。


「空港からは立ち退きを命じられてる」


 カウマンは絶望した顔で言った。ここのターミナルも改修工事が迫っている。空港としては売り上げが雀の涙で、見た目にもぼろっちいこんな料理店などさっさと立ち退いて違う店を入れたいのだろう。そりゃそうだ。カウマンが空港職員ならば同じことをするはずだ。

 けれどカウマンとマキロンにとってここは思い出の詰まったかけがえのない場所だ。結婚して二人で立ち上げた料理店。始めは空港ももっと小さくて、店は繁盛した。大繁盛の大繁忙で寝る間も惜しんで働いた。

 けれどいつしか飛行船の中で食事がとれるようになり、待合所で食事をとる人が少なくなった。ターミナル内ではなくエリア中央に高級料理店や冒険者向けの店が立ち並び、人の流れががらりと変わった。


 この店は時代についていけず、取り残されてしまったのだ。


「もうダメかもなあ。大人しく立退料貰って、街で一からやりなおすか」


 カウマンがそういった時だった。


「あのー、すみません」


 店を訪ねる声がする。


「はい、いらっしゃいませ!!」


 久々のお客だ、とマキロンが元気な声であいさつをすると、そこには見慣れない服装をした一人の少女が立っていた。


「あのー、ここはどこですか?」


 これがカウマン料理店とソラノの出会いだった。



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