第4話:闇の力


 ノルンの一撃によって出来た道を二人がのんびり歩いていると、複数の影が近付いてきていた。


「おや、ノルン。何かこっちに来てるね」

「あら? 小鳥さんかしら」

「いや、もっと邪悪な何かだ」


 ディールの視線の先。闇が溢れる森の中から、巨大な影が飛び出してきた。


「ウゴアアアアア!!」


 それは身長三メートルはあるだろう巨大な鬼だった。辛うじて人型ではあるが、頭部が二つあり、背中からもう一本腕が生えている。


 手には、その辺りの小さな木をそのまま引き抜いたものをまるで棍棒のように握っている。


「ゴブリン……だろうけど、めちゃくちゃデカくなってる上に、異形化しているね」

「ゴブリンですか」

「闇の魔力を吸収して巨大、異形化したんだろうさ。うん、やっぱりノルンは闇の魔力……つまりその魔剣の使い方を考えた方がいいね。ただのゴブリンがあんなことになってるんだから、他の魔物も凄いことになってそうだ」

「私のせいなのですね」


 ノルンが悲しい表情を浮かべる。


「うーん。まあそうね」


 なんて会話していると、異形ゴブリンが木を振り上げつつ、ノルンへと突進。


「ならば、償いをせねばなりませんね」

「へ?」


 それは、ディールですらも見逃してしまうほどの速度で放たれた一閃だった。

 ノルンが前傾姿勢になると共におっぱいの間から出てくる鞘から抜刀、そのまままさに文字通りで薙ぎ払ったのだ。


「グ……オ?」


 肉薄していた異形ゴブリンは、何が起きた分からず首を傾げたまま――胴体が縦に真っ二つに裂けた。


「魔物は、人々の生活を脅かすです。女神として……断じて許してはおけません」

「あはは……凄いね。完璧に剣を使いこなしている。でもやっぱりまだ闇の魔力が漏れてる」


 一気に周囲の闇が濃くなったことにディールが気付き、声を上げた。


「うーん、やはり難しいですね。闇の魔力を誰か使ってくださらないかしら。そうすれば真似できるのに」


 ノルンが笑顔で魔剣をゆるりと構える。その視線は森の中へと向けられている。

 

「闇の魔力ね……そうそう、ゴブリンってさ、群れで行動するから――」


 ディールの言葉と共に――森から数十体の異形ゴブリンが飛び出してきた。どうやら先ほどの一体は斥候だったようだ。


「あらあら。元気が良いですね」

「流石のあの数はちょっとめんどくさいね。仕方ない、本当はまだ取っておきたかったけど――<闇竜>の力、見せてあげるよ」


 そう言って、ディールが飛び立つと――その身体から闇の波動が放たれた。


 飛び出してきた異形化ゴブリン達がそれに触れた瞬間、その動きが停止した。その姿は、立っているだけもやっとのように見える。

 

「なるほど……そう使うのですね。さっそくやってみましょう」


 それを見たノルンが魔剣に力を込め、再び闇の波動を放つ。それはザレスに放ったような無軌道で暴れ狂った魔力ではなく、明確な目的を持った純粋な闇。


 結果、それに触れてしまった異形ゴブリン達全員が――


 まるで――透明な巨人に踏み潰されたかのように。


「あはは、流石だね。もう僕の得意技を使えるようになってる」


 ディールが嬉しそうに笑った。


 闇にはいくつもの側面がある。そしてその中でも特に強力と言われているのが――重力の特性だ。


 異形ゴブリン達はディールとノルンの力によって超々高重力に耐えられず、圧死したのだった。


「さあ、行きましょうか。他にも暴れている魔物がいるかもしれません。全て――滅します」

「僕は休憩してて良さそうだね」

「はい!」


 剣を構えたノルンが疾走を開始する。


 魔物に対して、神は慈悲を持たない。



☆☆☆


 ケール村、近辺。


「アルカ!」

「くっ! 引きましょう! これは私達の手に負えません! 数が多すぎる!」


 冒険者パーティー<放浪の槍>のリーダーである剣士イーゼと回復士アルカは苦戦していた。


 二人は既に複数箇所負傷しており、巨大化し異形化したフォレストウルフらしき魔物、数体に囲まれている。


「ここで引いたら村に被害が出る! くそ、森に何が起こったんだ!?」

「ですが、ジリ貧ですよ!?」


 アルカが回復魔術をイーゼに使うものの、残る魔力は少ない。


「一体でも多く倒すしかないだろ! はあああああ!!」


 もはや勝てる見込みはない。ならば一体でも多く道連れにするのが、冒険者としての最後の意地だった。


「ガルルルル!!」


 脚が六本あり、たてがみが生えた巨大な狼――フォレストウルフが、獲物が向こうから飛び込んで来たとばかりに嬉しそうにその口腔を開いた瞬間。


「へ?」


 イーゼの目の前で――フォレストウルフが真っ二つに切り裂かれた。


「え?」


 同時に、周囲にいたフォレストウルフ達が全員、悲鳴すら出す間もなく押し潰されていく。


「これで……最後ですわ」

「いやあ、流石に、結構時間が掛かってしまったね」


 呆然としたまま、立ちすくむイーゼとアルカの前に現れたのは――その神秘的な雰囲気とは裏腹に、血塗れの禍々しい剣を握った絶世の美女と、その肩に止まる一匹の竜だった。


 その出会いは、彼等の運命のみならず――この大陸の運命すらも変えることになる。

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