第34話:フィナーレ
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「波乱に満ちたイベントでしたが……フィナーレを飾るのはやはり絶対王者! 圧倒的ムーブでクリアしていき、結果見事一位! Vtuberの星! 原点にして頂点! <空乃ステラ>だあああああああ!!!」
会場に、大歓声が満ちる。
「そしてお前らは見たか……? 彼女達の大冒険を! 竜の背に乗って舞い上がった姿を、俺達は一生忘れることはないだろう! まさに竜騎士となった、最強の無所属Vtuber!! <ドラゴンナイトチャンネル!>の<盾野リッタ>と<紫竜ひめの>だあああああああ!!!」
そんなナレーションと共に――ステージの上に現れたのは、三人の少女だった。
<ステラ>を中心に、左右に<ひめの>と<リッタ>が並んでいる。
「そしてえええええ何とこの三者がここで即興コラボだとおおおおおおおお!? おいおい、運営側の俺ですらこれには興奮マックスだ! ドラゴンナイトチャンネルの二人! 覚悟はいいか!? 生半可なパフォーマンスは、王者の前では掻き消されるぜ! というわけで……グランドフィナーレスタートだああああああああああ!!!」
ナレーションと共に――ステージの宙に浮いているスピーカーから大音響で軽快な音楽が流れ始めた。
<ステラ>の歌声と共に、<リッタ>と<ひめの>が踊り始めた。
その振り付けは完璧であり――何よりも、二人の顔に浮かんでいる笑顔が素敵だった。
「「〝だから私は――」」
サビで<ひめの>が歌に参加し、<ステラ>の歌声とハーモニーを奏でていく。
歌わない代わりに、<リッタ>が全身で曲を表現する。
その姿は、否が応でも目に入ってきた。
三人の瞳が――色は違えど、全てまるで銀河を映しだしたかのような光を帯びていた。
それは――〝宙の瞳〟と呼ばれる特殊な瞳であり、それを持つ者は……〝スターになる〟、そう言われていた。
***
・ああああああ
・画面が涙で見えねえ
・ひめのん歌上手っ!
・マジで即興? めちゃくちゃすげえじゃん
・つうかステラに負けてないな
・おいおい、あの眼、なんだよ
・団長ダンス上手すぎだろ……すげえよ
・負けてない! ステラに負けてないぞ!
・宙の瞳だ
・↑なんで団長とひめのんに?
・わからん……
・神は実在するか? 答えはこうだ――〝VRで見た〟
・うおおおおおおおおお!! 団長おおおおおおお
・ひめのおおおおおおおお
・感動した! 俺は感動してるぞ!!
・やりやがった……俺達の団長とひめのんがやりやがった!
・ドラゴンナイトチャンネル万歳!
***
ステージ上ではパフォーマンスが続いていく。時折MCが入り、三人の会話が会場を沸かせた。
そんなステージを見ていた、男性――Vtuber事務所最大手である<エステライト>の社長であり、<リッタ>の叔父である深山が嬉しそうに笑いながら、隣にいるスーツ姿の女性に言葉を投げる。
「凄えじゃねえか律太。なあ、ありゃあ逸材だったろ?」
「社長。例の話、本当に進めるんですか」
スーツ姿の女性――<リッタ>のデビューまでサポートしていたマネージャー、本郷が深山へと問いかけた。
「ああ。ステラの言うことも理解できるしな。結局あいつの言った通りになっちまった」
「……律太さんが納得するかどうかですが」
本郷の言葉に、反対側に座っていた、豆腐のような姿のアバターが答えた。
「決めるのはあいつらだ」
「肩を持つねえ。綾瀬らしくもない」
「そういう気分の時もある」
「ならしかたねえ」
三人が見つめる先で――ついに最終曲が終わった。
ステージの中央で、<ひめの>がマイクを持って喋っていた。
「今日は本当に……私達のような無所属のVtuberにこのような機会を与えていただいて本当に感謝しています。ステラさん、運営さん……りったん。そして誰よりも……リスナーのみんな……本当にありがとう!!」
泣きそうになるのを堪えながら必死に言葉を紡ぐ<ひめの>を見て、既に<リッタ>は号泣していた。
「……リッタは喋れそうにないから、私が代わりに。実は――空乃ステラから重大発表があります」
その<ステラ>の言葉に、会場が静まり返る。
「――私、<空乃ステラ>は今日、この時を以て……
その言葉によって――毎秒何千何万というコメントの書き込みが、一瞬止まったという。
「理由は色々ありますが……その一つに、私の対となれる星を……二人も見つけたからです」
そう言って、<ステラ>が嬉しそうに<リッタ>と<ひめの>の手を取った。
「そして、これは彼女達次第ですが……私はこの二人を――<エステライト>へと招待したいと思います! 彼女達ならきっと私に代わる、リスナーを照らす星の光……エステライトになれる!」
「……へ?」
「えええええええ!?」
そのサプライズ発言に、<リッタ>も<ひめの>も驚いたような声を上げた。
「かはは! あの馬鹿、こんなところでぶちまけやがった!」
それを聞いた深山が嬉しそうに笑った。
「ああ……どうするんですかこれ……ぎゃああめっちゃ通話掛かってきてるううううううう」
「いやあ、どうすっかなあこれ」
「ふん、結局はあいつら次第だろ」
綾瀬の言葉に――深山は頷いた。
「だな……まあ、無事に終わって何よりだ」
☆☆☆
「御堂君! これはどういうことだね!? 無所属がパフォーマンスをしただなんて前代未聞だよ!!」
横から聞こえてくるその声を聞こえないフリして、このイベントのディレクターである御堂は涙を拭いた。
良かった……本当に良かった。
最高のイベントになった。
だが、他のスタッフからの視線に気付き、力強く頷いた。言わなければいけないことがある。
御堂は隣に座る、肥満体の男――VRアルタの運営に所属する千石を睨み付けた。
「千石さん、結局、あんたには見る目がなかった。それだけですよ。俺はあいつらはやると信じていた。そして見事にやりやがった。あの<空乃ステラ>が実質後継者に指名したんですよ? もしこのイベントに出していなかったら……ゾッとする。あんたは、未来ある星の光を私利私欲で握り潰そうとしたんだ。あんた、このイベントの情報、
「な、そんなことを俺がするわけないだろう!」
焦ったような声を出す千石の顔に、御堂がデバイスを突きつけた。
「そうですか? では、これはなんでしょうか?
そう言って、御堂がとある音声データを流し始めた。
『がはは! あんなイベント、俺のさじ加減でいくらでも上位者を決められる! 見てろよ! ガラビットって奴にアレコレ教えてやったからな! ああ、そうとも、無所属の奴も消すように命令した! 貧乏人に万が一でも目立たれてはかなわん!』
その後も、あれこれイベントに関する情報を得意気に若い女性に語る千石の声が垂れ流された。
「これ、アルタの法曹部にタレコミ入れたら……マズイですよねえ」
「あ、いや、それは、君……マズイよ。いくら、欲しい? いくらでも出そう!」
千石が縋るように抱き付いてくるので、御堂はそれをスッと避けると、その醜い姿を嫌悪するように見下した。
「残念……もう報告済みです」
「へ……」
まるでその言葉を聞いていたかのように――千石の持っていたデバイスの通知音が鳴り響く。
「ああ……終わりだ……終わりだあああああ!!」
「後任者はもう少しリテラシーのある人でお願いしますね……ってもう聞いてないか」
その場で丸まってガタガタ震える千石を見て、御堂は溜飲を下げると天を仰いだ。
「今日だけは……煙草を吸ってもいいな」
こうして、<
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