第30話:剣士ひめのん
『ぎゃあああああああ!! ひひひひひめのん!! 骸骨が! 動いてる!!』
『
<ひめの>がかつてないほど俊敏な動きで俺の横を通り過ぎると、襲いかかってきた骸骨――スケルトン? へと剣を一閃。
それはもう、鮮やかかつ流れるような剣捌きで、スケルトンの首が飛んだ。俺はその動きに思わず見蕩れてしまう。
***
・ひめのん剣使うの上手いな!
・あれはVRMMOをやり込んでいる奴の動きだわ
・魔術剣士ってことは、ヴェルフレイムオンラインかな?
・あー、それっぽい動きだな。うわーそっちの動画配信とかやってほしいな
・団長ビビり散らかしてて可愛い
・俺、役割逆だと思ってたが、りったんが守られているなw
・お姫様が騎士を助けるってエモいやん?
***
『りったん! 前!』
<ひめの>の言葉で、俺が慌てて前を向くと――前方からも一体、スケルトンが迫っている。
スケルトンが手に持つ剣を折れへと振るってくるので、言われた通りに盾で弾く!
『カタカタカタカタ!』
スケルトンが歯を鳴らす不快な音を出しながら再び斬撃。だが、盾で弾くぐらいなら俺でも出来る!
何度も弾くが、当然倒す事は出来ない。
『俺だって!』
俺は腰に差していた剣を抜いて、いつかあのクソロボ……じゃなかったガラビットに振ったように剣をスケルトンへと薙いだ。
『……あれ?』
しかし剣はまるで存在しないものとばかりに、スケルトンの身体を貫通する。スケルトンは何事もなかったようにカウンター気味に突きを放つ。
『痛っ! ……くない!?』
胸を抉られたような感覚と共に、視界の端に赤いゲージが表示され、それが五分の一ほど減っていた。
『りったん!』
後ろのスケルトンを倒し終えたのか<ひめの>が前へと飛び出して、俺へと剣を突き立てていたスケルトンを袈裟斬りで倒した。
『あ、ありがとう。びっくりした』
『大丈夫?』
剣を収めた<ひめの>が心配そうに俺の顔を覗いてくる。
『なんか赤いゲージが減ったけど大丈夫』
俺は笑顔でそう答えた。クソ、カッコ悪いミスをしてしまった。
『HPゲージ減ってるね。ライフ制か……一撃で結構食らったけど……カウンター補正かな? でも無事で良かった』
『なんでか俺の剣が効かなくてさ、ごめん。言われた通り盾での防御に徹していれば……』
俺は自分の剣をまじまじと見つめた。
『多分、その剣の当たり判定を無効化されてるんじゃないかな? 武器を持っているアバターが有利にならないように。でないとポイント交換で武器を選ぶ意味がなくなっちゃう』
『あー、なるほど』
『うん。アバターの付属品はアテにしない方がいいね。鎧とかも意味ないと思う』
俺の着ている鎧は防御能力がそもそも不明だけどね……肌の露出のが多いし。
『そうか……ああ怖かった』
『あはは、りったん、可愛いとこあるよね』
『逆に怖くないひめのんが凄いよ……まさか背後で動き始めるなんて』
怖すぎるし、考えた奴性格悪い! 最初から動いていればまだマシなのに!
『いや……まあ、分かっていたんだけどね……こういう墓地っぽいステージってホラー要素入れがちだから、動くと見せかけて動かなくて、通り過ぎて安心したところで動くとか』
『分かってたのなら言ってよ!?』
『ごめんね? 驚くりったんがちょっと見たかっただけなんだけど』
<ひめの>がそう可愛く謝ったので許す! しかし、この島に来て<ひめの>の色んな一面が見えてきたな。
ちょっといたずらっ子な<ひめの>も素敵だ……。
***
・確信犯www
・↑それ使い方違うぞ
・ひめのんの本性が見えてきたなw
・背後でスケルトン起きあがるはあるあるすぎる
・アバターの付属品は使えないとか、結構考えてあるんだな
***
その後も、たびたびスケルトンに襲われつつ、冷静に倒していき順調に洞窟を進んでいく。階段が増えてきて、どんどんと上へと昇っていっているようだ。
そしてついに――分かれ道へと出た。
右側は今まで通りに狭い通路が続いており、左は少し先に広くなっている空間が見えた。
『ここだね』
『メッセージを待とうか。しかしポイント結構溜まったな』
俺は視界の隅に表示されている、110という数字を見つめてそう口にした。
『スケルトンが一体10ポイントもくれたしね』
『何かと交換する?』
『メッセージ次第かな。とりあえずメッセージを待とう』
『おっけー』
俺と<ひめの>がそうやって待っていると――オレンジ色の文字が浮かび上がった。
そこには短くこう書かれていた――【左に向かえ】、と。
☆☆☆
一方その頃。
双子山――山頂付近。
『いやあ、マジでガラビットさん、凄いっすね! 勘冴えまくりじゃないっすか』
いかにもチャラそうな青年の見た目をしたアバターが、前を歩くロボット型のアバター――ガラビットへとそう嬉しそうに声を掛けた。彼はガラビットと同じ事務所に所属しているVtuberでありガラビットを先輩として慕っていた。
『馬鹿野郎、声がでけえんだよ』
ガラビットが目の前に浮かぶ、【バーカクソロボ師ね。お前の言うとおり他のムカつく奴等にもデマ送っておいたぞ】、というメッセージを踏み付けて、山道を先行する集団を睨み付けた。
その集団の中には、身体が小さいながらも周囲に慕われている<ななね>の姿があった。
『俺のリスナーなんてクソみたいな奴ばっかりだから、メッセージはアテにならんからな。
『いやあすげえっすわ。まるで攻略サイト見てるかのようですもん』
『参加者なんだから見れるわけねえだろ。
『俺の頑張ったっすよ~。ポイント全部横取りはズルいっす』
『どうせお前はフィナーレなんていけないからいいだろ。適当なところで目立って死ね』
ガラビットの辛辣の言葉に、青年が肩をすくめた。
『まあそうなんすけどねえ。そういうガラビットさんだってフィナーレいってどうする気です?』
『フィナーレいけなかったクソ雑魚共をディスるだけだよ。顔真っ赤になるあいつらとリスナーを見たいだろ?』
『うわー、性格悪っ』
『そういう芸風だからな』
ガラビットがそう言いながら、メニュー画面からポイント交換の項目を開いた。
『しかしそろそろ武器必要っすね。ななね先輩のリスナーからのメッセージによると、この先はモンスターを倒せないと進めないみたいですし』
『ああ……武器な。大丈夫、
ガラビットが静かにそう言って、ゆっくりと青年へと振り向いた。
『流石ガラビットさ――え……?』
驚きの表情を浮かべる青年の胸には――歪な形をした刀身のダガーが突き刺さっていた。その柄をガラビットが握っている。
『なん……で――』
青年がポリゴンの粒子となって消えた。
『かはは……ちゃんと
そう言ってガラビットが無表情のまま、ダガーをデータに変えて収納した。
『さて……仲良しこよしの手つなぎレースなんてつまんねえだろ? 情報を貰った代わりに……言われた通りにかき回してやるよ、こんなクソイベント』
彼が手にした武器の名は〝十三銀の短剣〟
その効果は――〝ライフの残量にかかわらず、
ガラビットは無表情のまま、ゆっくりと<ななね>達の下へと歩いて行く。
だがその心の中では――別のターゲットを思い浮かべていた。
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