第28話:〝ダンドラ〟


 俺は辿り付いたその広場を見渡した。どうやら辿り付いた参加者は俺達だけのようだ。そこは確かにあのメッセージ通り、遺跡のようであり、崩れた柱や岩壁がそこら中にあった。


『団員を信じたは良いが……博打すぎる道だったな』


思わずそうこぼしてしまう。<ひめの>がそれに同意するように頷いた。


『まあ、抜けられたから良かったけど……』


***

・うおおおおおお危ねえ!!

・ギリ間に合ったが確かに博打すぎたな

・だが、これでかなりショートカットできたぞ

・ナメクジまみれの団長見たか……なんでもない

・↑HENTAIめ

・攻略班、こっからどうするんだよ

・ここで起こるイベントでポイントゲットしてアイテム交換だろ?

・どんなイベントなんだよ

・あ、ちょ、早く次のメッセージ送れ! 団長達が動くぞ!

・あー、このイベント……確かにクリアできたら旨味があるが……失敗したらヤバいんじゃね

・やべえじゃんこれ! すぐに送るわ!

***



『見てあそこ、いかにもって感じ』


 <ひめの>がそう言って指差した先には広場の中心には円形のスペースがあり、そこだけ綺麗に正方形のタイルが敷き詰められている。


『イベントがある……だったな。何のイベントなんだろ』

『行ってみよよう。周囲に気を付けつつね』

『うん。俺が先行する』


 そう言って、俺がその円形のスペースへと足を踏み入れた。


 その瞬間――


『りったん!』

『あ、しまっ――!』


 円形のスペースが光の壁で囲まれていく!


『なにこれ通れない!』


 後ろにいた<ひめの>と俺の間に光の壁があり、通ろうにも弾かれてしまう。


『なんだよこれ! 俺、まさか閉じ込められた!?』

『りったん、後ろ!』

『へ?』


 そう言って、俺が振り向くと――


『……いや、誰?』


そこには――アフロで半裸なおっさんが立っていた。


『What Uuuuuuuuup!? さあ始まるぜ始まるぜええええ!! 魂と身体のソウルフルアクティビティ! それすなわちぃ――」


 おっさんが謎のポーズで天を指差すと同時に爆発が起き、周囲の崩れた柱やら岩壁から――巨大スピーカーとライト、そして電光掲示板が映えてくる。


 空間の中心には、ミラーボールが浮いていた。


 なんじゃこりゃああああああ!?


『ダンスバトォォォォォ!! まずは練習だ!』


 おっさんの声と共に――軽快なダンスミュージックが鳴り響き、それに伴って俺とおっさんの足下のタイルが光っていく。


 おっさんはノリノリで踊りながらタイルを踏んでいくと、電光掲示板に表示されたスコアの文字の下にで数字が加算されていく。片方がゼロなのを見ると、あっちは俺のスコアか!


『りったん! これがイベントだよ! ダンスバトルであのNPCと勝負するっていう!』


 <ひめの>の前にはメッセージが浮かんでいた。くそ、もうちょい早く来てれば安易には踏み込まなかったのに!


『なんでもありだなほんと!』


 俺はリズムに合わせて光るタイルを踏んでいく。予め前方のタイルが光るので、どれが光るか事前に分かる仕様だ。


 だけど――ムズい! ダンス経験者ほど、これやり辛え!


 結局俺はコツも掴めないうちに曲が終わってしまう。結果、スコアは大差をつけられてしまった。


 そして余裕そうなアフロのおっさんは、こんなことを言い放ったのだった。


『オーケイ!! では次は本番だぜ!? いいか良く聞けハニー。このダンスバトル、一回でもお前が勝てば500ポイントやるし、ここから解放してやる。負けたとしても、何度でも再挑戦できるぜ! だがミーより得点が低いと、その得点差だけ…………負け続ければ、そっちのかわい子ちゃんが……ナメクジに食われちまうかもな』

『はああああ!? いやちょっと待っ――』


 だが、俺の叫びは――腹に響くようなビートによって掻き消された。


『――さあ始めようぜハニー! 魂を賭けたダンスバトルを!』



***

・ほんとに誰だよwwww

・遺跡からクソデカスピーカーは草

・音ゲーかよ

・何のキャラwww

・↑は? お前ら〝ダンドラ〟のアフロ増田知らんの?

・知らねえよ。誰だよ

・ああ、メッセージ間に合わなかった!

・よりによってりったんかあ……ダンス練習してるひめのんにいって欲しかった!

・昔、ゲーセンに〝ダンス・ダンス・ドラゴン〟、通称ダンドラっていうゲームがあってだな。そのストーリーモードのラスボスがアフロ増田だ

・やり込んだ奴でも勝てないレベルの鬼畜難易度だ……うっ……トラウマが

・三十年前のゲームで草

・おっさん団員多いなw

・りったん、頑張れ!

・勝てば500ポイントはでかいぞ

・あのナメクジ一匹倒しても1ポイントだしな

・500あったら、モンスターに攻撃できる武器と盾を交換できるぞ。それないとこの先多分詰む

・サイト読む限り、序盤はこの500ポイントをいかに早く貯めるかがポイントっぽい

・負けたらひめのんがナメクジまみれ……ゴクリ。アフロ増田頑張れ!

・↑てめえw

・裏切り者は処せ!

***



くそ、これムズいぞ!


「りったん、頑張って!」


 ひめのんの声援を力にステップを踏むが、ミスが多い。


「フィニッーーーシュ!!」


 曲が終わると同時に、スコアがでかでかと表示され、俺の前に、〝YOU LOSE〟の文字が。


「へいへーい、ステップが雑だぜ?」


 アフロのおっさんの煽りに苛立つ。


「さて、得点差は……あーあ122点も差がついているな。では――122、広場を狭めるとしよう」


 おっさんの言葉と共に、空気がザワつく。


「……っ! 森が!」


 <ひめの>の言葉で、俺広場の周囲の森から枝葉がこちらへとせり出して来ているのを見てしまった。


 その森の陰には、ナメクジやらクモやらが蠢いているのが分かる。


「りったん! まだ余裕あるけど、負け続けるとヤバいよ! この広場が森に埋もれる!」

「が、頑張る!」

「さあ、再挑戦するかい? それともここで永遠にゲームが終わるまで待ち続けるか?」


 アフロのくせに煽ってきやがる。


「うるせえよファンキー野郎! ダンスの名のつくもので俺が負けるわけにはいかねえ」

「りったん、かっこいい!」


 <ひめの>の言葉がむず痒い。


「てめえ倒して500ポイントゲットしてやる! さあ次の曲始めな!」


 俺は掛かってこいとばかりに、指をクイクイと上げた。


「そういうノリは好きだぜハニー! じゃあ次の曲、スタートだ!」


 再び爆音が鳴り響く。


 まずは一旦、ダンスだということを忘れよう。大事なのはタイルを踏むタイミング、それだけだ。下手に自分でリズムを取ろうとすると、狂わされる。


 俺は前方から流れてくる光を注視して、足下に来たタイミングでそれを踏む。


「ああそうだ、言い忘れていたが――再挑戦するたびに曲の難易度は上がっていくからな!」


 アフロが今さらそんなことを言った途端、前方から洪水のように光が大量に流れてくる。


「あんなの無理だよ……!」


 背後で――<ひめの>の悲壮な声が響いた。


「あ、くそ! そういうことは早く言えよ!」


 油断していた俺はミスを連発する。アフロはというと、気持ち悪い動きでその全てを捌いていく。あいつ足、四本あるんじゃねえの?



***

・連続ノーツ草

・難易度いきなり上がりすぎだろ 

・おっさんの動きキモッ!

・あーりったん、ヤバそうだな

・初心者にしてはそこそこだが

・ヤバいヤバい、スコアの差がどんどんでかくなるぞ!

・あと何cmまでいける?

・あと十数メートルはあるが……負けるほど難易度上がるなら、ここらで決めておかないと無理だぞ!

・無理ゲー過ぎんだろこれw

・誰だよこのルート勧めたの! 俺だよ!

・↑いや、サイトにはこの仕様は。おそらくだが、嘘はないが、全部が書かれているわけではないってことだろう

・やっぱり一筋縄ではいかねえな

・団長頑張れっ!

***

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