第27話:女神島


『よし、早速森に突――』

『ちょっと待って』


 俺が早速、他の気の早い参加者と共に森へと向かおうとするも、<ひめの>に止められてしまう。


『へ? だって先着順ってことは競争みたいなもんでしょ? 早く行かないと!』

『そんなシンプルな話だったら、リスナーだけが見れる攻略サイトなんて用意しないよ。十中八九、目の前の森は――


 <ひめの>が冷静にそう言った途端――森から悲鳴が聞こえるくる。


『ぎゃあああなんかデカいのがいるううううう』

『私虫系苦手なんですううううううう』


 ……おお、本当だ。


『ね? 便利アイテムがないと突破できない森だと思う。で、多分、目的地はあそこだと思う』


 <ひめの>が指差した方向――島の中央部には二つの岩山があり、細い柱のように切り立った片方の岩山の上には、いかにもそれらしい神殿が見えた。


 もう片方の山から吊り橋が架かっており、確かにそこがゴールっぽいように見える。


『ふうむ。目の前の森が無理となると……』


 俺らと同じ考えの参加者達が左右に分かれて、進んでいく。時計回り方向に行く一団の中央に、<空乃ステラ>の姿が見えた。反時計回り方向に、あのいけ好かない<嵐牙ライル>と<ななね>がお互いを牽制しながら走っている。


『島の沿岸に沿って進んで、中央のあの山への道を探すしかないね』

『問題はどっちに行くかだな』

『……少しだけここで待つ!』


 <ひめの>がそう言って、ジッとあの山の上の神殿を見つめた。


『いいのか? みんなどんどん進んでいくけど』

『私ね、結構ゲーム好きでやり込むタイプなんだけど、こういうタイプのゲームって、制作者の思惑通りに動かない方が正解な場合が多いの。特に、目の前の森に罠を仕掛けるようなタイプの制作者の作ったゲームはね』


 ……竜崎さんがゲーマーだったとは初耳だ。


『だから、ちょっとだけ様子見。もしかしたらリスナーのヒントが来るかもしれない。それから動いても遅くはない。イベントの予定時間から逆算して、そう簡単に脱出できる島じゃないと想定すると、十分程度の遅れは誤差だよ』

『うっし、俺はひめのんを信じよう! なんせこういう類いのゲームには疎くて……』

『ふふふ、まっかせなさーい!』


 ドヤ顔の<ひめの>がどちゃくそ可愛いので、これで良し!


 なんて言っていると――


『りったん! 見て!』


 <ひめの>が俺達の目の前にある地面を指差した。


 そこは何の変哲もない砂浜だが――ボンヤリとオレンジ色に光る文字列が浮かび上がってくる。


『きっとリスナーからのヒントだよ!』

『おお、なんて書いてあるんだ!?』


 文字が鮮やかになり、そこにはこう表示されていた。


【いえーい、団長見てる~?】

『『ヒントですらねえ!』』


 その何とも気の抜けた、リスナーからのメッセージらしきものを読んで俺と<ひめの>が思わずツッコミを入れてしまう。


 おいおい……大丈夫かよ。



***

【No45:ドラゴンナイトチャンネル! リスナー専用待機所】

・wwww

・誰だよあんなクソメッセージ送ったの!!

・まさか本当に送れるとは……マジですまんかった

・↑ばーかばーか

・ひめのんがガチゲーマー脳で草

・おい、なんで俺が送ったメッセージが採用されないんだ!?

・とりあえずお前ら攻略サイト見てこいよ。一筋縄ではいかんというか、死にゲーレベルの鬼畜難易度だぞこれ

・メッセージどうやって送るの?

・↑メッセージフォームに送りたい参加者番号入力して、本文を入れて送信。例えば団長に送りたい場合は45と入れてから送りたいメッセージを入力して送信すればいい。ただ攻略サイトには、〝全てのメッセージは表示されず、ランダムで選ばれたもののみが参加者の前に、一定時間出現。更に、〟ってあるから、絶対に表示されるとは限らないし、団長にばっか送っても中々届かない可能性が高い

・↑丁寧な説明サンクス。となると、他の誰かへと交互に送るのが吉か

・多分、リスナー数による不公平性を無くすためだろう。ステラなんてウン万人いるしな。

・逆に言えば、そんだけリスナーがいて全員が好き勝手にメッセージ送信したら、どれが採用されるか分からないからノイズも入ってくるんじゃないか? 馬鹿が無意味なメッセージを混ぜて、それが採用されたらヤバいっしょ

・……だからすまんかったって! 試しにやっただけでまさか採用されるとは思わなかったんだよ!

・俺達は他のチャンネルのリスナーに比べたら小規模だが、そのおかげで意見を統制しやすい。まず、攻略サイトを読み込んで攻略ルートを考えるチームと、メッセージを送るチームに分かれた方がいいな。メッセージ送信チームで同じ内容を全員で送ればそれだけ、そのメッセージが届く可能性が高くなる。

・なんか熱くなってきたぞ!

・リスナー参加型って言うから投票ぐらいかと思ってたら、これ、俺らがガチらないと勝てないやつだなw

・団長らのフィナーレを見たいだろ!? 気合い入れていくぞお前ら!!

・おおお!!

***



 しばらくすると、あのメッセージが消えた。五分も経っていないので、すぐ消える仕様のようだ。


『どうしようか……なんかヒント期待出来なさそうだけど』

『うーん。せめてどっちに行くかを決めたかったけど……仕方ないか』


 俺と<ひめの>がとりあえず、ゴール地点へと橋が架かっている岩山に近付く方向――反時計回りに進もうとすると、再びあのメッセージが表示された。


【前の森を進め。ただし立ち止まらずに道を駆け抜けろ。絶対に止まるな。抜けた先にある遺跡広場でイベントあ――】


 おお! それっぽいガチヒントきた!


『途中で切れてるね。イベントあり? かな?』

『数えたら五十文字だ。おそらく五十文字以上は送れないんだろうな』


 俺がそう答えると、<ひめの>が驚いたような顔をする。


『数えるの早くない!?』

『そうか? 見ただけで分かるよ?』

『意外な才能……ってそんなことは今はいいや。とりあえず、このヒント、どうする?』


 罠っぽい森を団員達は走れという。しかも立ち止まらずにだ。


 嫌な予感しかしない。


 しないが――

 

『――信じるしかないでしょ』

 

 団員を信じずして何が団長か!


『……うん!』


 <ひめの>も俺の言葉に同意してくれた。


 ならばもう迷う暇はない。


『じゃあ行きますか!』

『頑張って走る!』


 俺達は頷き合うと――目の前の森へと駆けた。


 <ひめの>は予想通り、そんなに足が速くなさそうなので、向こうのペースに合わせる。


 暗い森の中に入ると、小さな道が奥へと続いていた。


 続いてはいるが――


『ぎゃあああああこっちくるなああああ』

『びええええええもういやああああああ』


 最初に駆け込んだ参加者達が――でっかい芋虫やらクモやらに追い掛けられている。


 それはまさに――阿鼻叫喚と呼ぶに相応しい光景だった。


 俺達の先にも、道を塞ぐように足の長い全長十メートルはありそうなクモがこちらを見つめている。


『いやあああああああ俺クモは苦手ええええええ』

『りったん止まらずに真っ直ぐだよ!!』


 俺が思わずクソデカクモにたじろぎそうになるも、<ひめの>がペースを落とした俺の手を握ると、そのまま前へと走っていく。


『くそおおおおこんな所でリタイアしてたまるかああああああ』


 俺は叫びながら、クモの足の間を駆け抜けていく。


 更に上から気配。


『うげ、ナメクジ!』


 頭上の枝から、人ぐらいの大きさのナメクジが大量に降ってきた。最悪が過ぎる!


『触ったら駄目だよ!』


 <ひめの>が、視界の端でナメクジに触れた途端姿を消した参加者を見て、鋭い声を出した。


『お金もらっても触りません!』

『残機制なのかライフ制せいなのか分かんないけど、一発アウトの可能性もあるから、立ち止まらずに走ろう!』

『こんな場所、一秒でも長居したくないし、後ろも見たくない!』


 後ろで蠢く気配に鳥肌が立つ。


 俺達は速度よりも、振ってくるナメクジに当たらないようにジグザグに走りながら、森の奥へ奥へと進んでいく。


 少しでも立ち止まれば、背後に迫るナメクジの波に飲まれそうだ。逆に言えば後ろにいた連中はご愁傷様だ。


『りったん! 見て!』


 <ひめの>の視線の先――そこで森が途切れているのが見えた。


『あと少し!』


 俺と<ひめの>がペースを上げ、一気に森を駆け抜けてその先へと飛び込む。


 そこは森の中にある広場で、頭上から日光が差し込んでいる。その日光に当たった瞬間、背後に迫っていたナメクジ達が溶けていった。


『あっぶねえ!』

『間に合った!』


 広場に入り、俺と<ひめの>はお互いを見て、苦笑する。


 やれやれ、いきなり前途多難なスタートだ。

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