第35話 「──現時刻を以て自衛隊の管轄下に入る!」

 戦いは終わった──

 ガーディアンズ──生徒たちは緊張が解けたせいか、戦闘の疲労がどっと身体を襲い、次々とその場に座り込んでいく。

 そして、力を使い尽くした誓矢せいやも同様だった。


「ゴメン、みんな──もう限界」


 そう言い残すと、誓矢も地面へと倒れ込み、そのまま睡眠へと落ちてしまう。

 慌ててその誓矢へと駆け寄り、とりあえず医療エリアへと運ぼうと相談する厳原いずはら絹柳きぬやなたち。

 一方で、嶺山多みねやまだキャスターの怪物化、そして消滅という事態に直面し、困惑していた様子の報道ヘリだったが、しばらく屋上上空でホバリングを続けた後、青楓学院せいふうがくいんから離れるように飛び去っていった。


 青楓学院高校屋上での戦い──この一連の様子は、報道ヘリの手によって映像として日本全国にリアルタイムで配信されていた。

 その結果、さまざまな反応が連鎖していくことになる。


「さて、こっからどうするか……」


 医療エリアに運ばれた誓矢、その周りに座る厳原、絹柳、森宮もりみや風澄ふずみ

 誓矢の治療の手はずをつけた四人は、目の前の現実に直面し、対応を考えなければいけなかった。

 今、青楓学院内は混乱と困惑のまっただ中にあった。

 絶対的な指導者であった霧郷きりさとが、仲間であるはずのガーディアン──生徒たちをその手にかけようとしたのだ。


「アレって、いったいなんだったんだろうね……」


 森宮のポツリと漏らした問いかけに、答えられる者はこの場にはいなかった。


「氷狩なら何か知ってるのかもしれないが……」

「ええ、以前は相手にされてなかったけど、今になってみれば、もっとしっかり聞いておくんだった」


 厳原と絹柳が考え込むようなため息をついた。

 それにしても、まず、先頭に立って動かなければならないのは、霧郷の側近ともいえる幹部生徒たちである。

 だが、霧郷と嶺山多の戦い、そして、霧郷の変貌──それらを目の当たりにしたショックからか、茫然自失ぼうぜんじしつの状態から立ち直れず、何も動くことができないでいる。

 風澄が三人に肩をすくめて見せた。


「避難民グループが落ち着いて行動できているのが不幸中の幸いよね」


 その言葉は正しかった。

 指揮系統が崩壊し、動けなくなったガーディアンズに比べて、避難民グループは青楓学院の教職員や避難民の中でもリーダー的存在が機能していて、多少の戸惑いはあるものの、それぞれが冷静に行動している。


「これも、ユーリ君や清守きよがみさんのおかげよね、きっと」


 苦笑する絹柳に他の面々も同意と笑いを返す。


「たぶん、イロイロ間違ってたんだな、俺たちは──」


 そう言ってから、ブンブンと頭を横に振る厳原。

 確かに今のこと、今までのことを悔やむ必要はあるのかもしれない。

 だが、今、本当に重要なのはこれからどう動くかということだ。

 厳原のその想いを、絹柳、森宮、風澄も自然と共有していた。


「……俺、生徒会室に行ってくる」


 そう言って立ち上がる厳原に、続いて絹柳と風澄も視線を交わしてから腰を上げる。


「森宮さんは、氷狩君の側に残っていて」

「うん、わかった」


 森宮は真剣な面持おももちで三人に頷いてみせる。


氷狩ひかり君のことは任せて、そのかわり、これからのことはお願い」


 厳原、絹柳、そして、風澄も頷き返してから、医療エリアが設置されていた多目的ホールから外へ出て行く──その時。


「全員その場で動くな! 生徒は能力の発動も禁じる、抵抗した場合は射殺許可も出ているんだ!」


 完全武装した自衛隊員が入室してきて、厳原たちにも銃口を突きつける。


「──青楓学院は、現時刻を以て自衛隊の管轄下に入る!」


 ○


 霧郷・嶺山多怪物化事件──それは、青楓学院を中心とした異能者たちの組織ガーディアンズ崩壊のきっかけとなった。

 ガーディアンズと利害関係にあった自衛隊は、この事件を奇貨きかとして、一気に各地のガーディアンズ拠点の制圧に動いた。

 もともと、事前に作戦が練られていたのか、自衛隊部隊の行動は迅速だった。

 また、指導者である霧郷を失ったことによる指揮系統の喪失もあり、日本各地のガーディアンズたちは、さしたる抵抗もみせずに自衛隊に制圧された。


『本日、北海道にあったガーディアンズの拠点も自衛隊の管理下に置かれ、これで、日本全国全てのガーディアンズが、政府の管理下に置かれることとなりました──』


 避難所の巨大モニタを見上げる人だかりの中に、金髪の少年──ユーリと、青楓学院の制服を着た沙樹の姿があった。

 ユーリが小さく呟いた。


「サキ……悪ぃ、オレ、行くところがある」


 この混乱の中、誓矢が戻る前に、沙樹を一人にしてしまうことを小さい声で詫びる彼に、沙樹は笑顔で首を振る。

 ユーリも笑みで返すと、足早にその場から駆け去った。

 その背中を見送りながら、沙樹は胸の前で強く手を握る。


「これで終わりってワケじゃないのね──むしろ、ここから始まるのかも」


 そう呟く沙樹の後ろ、巨大モニタでは、総理大臣会見の中継が始まっていた。


異能者いのうしゃの集団、通称ガーディアンズは、その組織を解体し、自衛隊指揮下の対怪物戦力【異能者部隊】として再編します。このことにより、自衛隊の監督の下、迅速な作戦行動と高度な連携行動が可能になり、怪物の効率的な駆逐作戦を進めることができるようになります──』


 そして、総理大臣の声がいっそう高まった。


『──そして、異能者の少年、少女たちは、全員、予備自衛官補の身分となります。これから自衛隊各隊の指揮監督の下、この国を未曾有の怪物災害から守るために戦うことになります。この国難の中、力を持つ者持たざる者に関係なく、それぞれができることを担い国民全員が一致団結して──』


 総理大臣の演説は、怪物たちを怯える国民たちに向けた鼓舞へと変わる。

 それをみている群衆の間から、賛同する声も上がりはじめる。


 沙樹は小さく頭を振ってから、光塚みつづか菊家きっかがいる医療エリアへと足を向けた──

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