第4章 学校祭の終わり
第28話 「頼む! 学校を助けてやってくれ!」
「
避難所の医療エリアに駆け込んだ
ベッド脇の椅子には
「あの……その、光塚君は……」
あからさまに動揺する誓矢の肩をユーリが掴む。
「安心しろ、命には別状はないってさ」
「そうなの? よかったぁ……」
ベッドに手をついて大きくため息を吐き出す誓矢。
確かにいわれてみると、光塚の顔の血色は悪くないし、口や鼻からは規則正しい寝息も聞こえてくる。
「光塚くんが、この避難所に駆け込んできたのはちょっと前──セイヤくんが仕事を終えて、これから帰るって無線連絡が入ったすぐ後のことだったらしいの」
光塚が事情を説明するにあたって、まず名前を挙げたのが誓矢とユーリ、沙樹の三人だった。
不在の誓矢の代わりに菊家が名乗りを上げ、ここの避難所の防衛を担当する自衛隊の指揮官も含めた四人が、光塚のベッドの周りに集まって、緊急会議が開かれた──
「なんだと!
指揮官が驚きの声を上げた。
その場に
「……はっ、その、青楓学院にはガーディアンズの本部があり、他部隊も防衛隊として派遣されていることもあり、警戒対象からは外しておりまして」
「バッカもん!!」
「申し訳ございません──!!」
叱りつけた指揮官だったが、その顔は冷静なままだった。
「とはいいつつ、
指揮官は声の質を通常に戻し、恐縮する下士官に指示を出していく。
その様子を見て、光塚がさらに口を開こうとしたが、疲労の限界に達したのか、そのまま意識を失ってしまったのだった。
「そうだったんだね」
沙樹から一通りの話を聞いて、誓矢は両拳を強く握りしめる。
「僕がもし、留守にしていなかったら──」
その考えが頭をよぎった瞬間、誓矢は慌てて頭を振って打ち消した。
もし、アメリカ軍の基地を助けに行っていなかったら、今ごろは基地が陥落して大変なことになっていたし、自分が避難所にいたからといって、光塚を助けることができたとは言い切れない。
「……よう、氷狩」
不意に横合いから声がかけられた。
ベッドに横たわった光塚、その目がしっかりと見開かれていた。
「ここの避難所にいてくれたんだな、助かったぜ……」
そう言って笑ってみせる光塚ベッド脇に、誓矢、ユーリ、沙樹の三人が駆け寄った。
「光塚君、目が冷めたんだ──大丈夫? 痛いところは?」
「いったい何があった! 他の皆は無事なのか!?」
「心配したんだから、大丈夫? わたしたちが誰かわかるわよね!?」
同時に声をかけてくる三人に、さすがに苦笑する光塚だった。
「おまえら、一度に聞かれても答えられないって──」
いったん深呼吸してから、光塚はゆっくりと語りはじめた。
「話は氷狩たちが青楓学院を追放された後まで
誓矢たちが学校から去るのを見送った後、光塚をはじめ、
だが、霧郷たちの返答は、誓矢たちに向けたモノと何ら変わりは無かった。
「何度も言うけど、今のガーディアンズの戦力は充分すぎる──むしろ、強大な力を持てば持つほど、今度は
むしろ、組織の中に反抗的な生徒がいることのほうがデメリットが大きいなどと、一方的に論破されてしまうだけだった。
さらに、この一件が印象悪化につながったのか、光塚たち五人は霧郷や幹部たちの都合の良いようにこき使われることが増えたのだ。
「まあ、それだけだったら、文句のひとつやふたつぶつけてやるだけの話だったんだが──」
光塚の声が暗く沈んだ。
誓矢たちが追放された後、少し時間をおいて、青楓学院への怪物たちの襲撃回数が目に見えて増えていったのだ。
その光塚の話を聞いた誓矢たち三人は顔を見合わせた。
ヤクモやスズネが言っていた、怪物たちが誓矢のフェンリルの力を警戒するという説の信憑性が高まる。
そんな視線を交わしあう三人には気づかずに、光塚は誓矢の手を掴んで声を張り上げた。
「頼む! 学校を──青楓を助けてやってくれ!」
光塚の目から涙がこぼれ落ちる。
「お前を追い出したっていうのに、虫の良い頼みだっていうことはわかってる──でも、学校に残っているヤツら、それに預かっている避難民の人たちを見捨てるわけにはいかないんだ!」
その真面目で誠実な光塚の思いを、誓矢、ユーリ、沙樹の三人は三者三様に受け止めたのだった。
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