第10話 「二人とも、残ってくれてありがとう」

「……その、心配かけるけど……うん、大丈夫。本当に危なくなったら逃げるからさ」

「……友達もみんな残るから、私も……たぶん、私にもできることはあるとおもうから」


 数日後、学校内は騒然とした雰囲気に包まれていた。

 生徒たちは家族への連絡をすませてから、次々と体育館へと向かっていく。

 ついに、霧郷きりさとが正式に独立行動を宣言する──その報せに、生徒たちは大きな決断を迫られることになったのだ。


「……結局、二人とも残ることにしたのね」


 小さくため息をつく沙樹さきに、ユーリが小さく笑いかえす。


「最初に残るのを決めたのはサキじゃねーか、他人ひとのこと言えた立場かよ」

「もしかして、二人が残るのは私が残ることにしたから……」

「そんなことない──とは言い切れないけど、それだけじゃないから」


 誓矢せいやが申し訳なさそうにうつむいてしまった沙樹を励まそうとする。

 正直なところ、残ることにした理由の半分は沙樹をフォローするためだったが、それ以外にも気になっている点がいくつかあった。


「気になっていることって、誓矢くんの力のこと?」

「うん、この力を持った状態で国の避難所に入ったら、どういう扱いを受けるかわからないから」


 テレビの報道番組やネット上のニュースや書き込みなどで、特別な力を発現させた少年少女たちの存在は日本国内各地で確認されていることがわかった。

 その大半は、学校や自衛隊などの管理の下、各避難所に配属されて防衛任務につく予定と告知されていた。

 表向きは国や国民を守る英雄と持ち上げられているが、実際のところは未知なる力への恐怖、それに嫉妬など──さまざまな感情が見えない矢となって当の少年少女たちへと放たれている。


「ぶっちゃけ、この力は僕たちが扱うには大きすぎるような気もするんだ。だけど、理由はわからないけど、僕たちに与えられた武器なんだよね。だから、自分の意志で扱いたいという気持ちもわかるんだ」


 誓矢は不思議な力の発現を隠していたが、今となっては意味がないと判断し、正式に自警団じけいだんへの加入を申し出ていた。

 同じように、力の扱いに悩み、自警団への加入を躊躇ためらっていた生徒たちも、次々と意を決して参加しつつある。

 霧郷はそんな彼らを喜んで迎えた。


「誰だって戦うこと──しかも、それが正体不明の力を扱うことだなんて悩むのも当然だろう。でも、それでも、僕たちとともに人々を守るために戦うことを選んでくれた皆を心から歓迎する!」


 体育館に集まった生徒たちを霧郷の演説が迎え入れる。


「僕たちの目標は、この特別な力を与えられた選ばれし存在として、襲い来る怪物たちを滅ぼすことだ。そのためには、未曾有みぞうの危機に立ち向かうため、同じ力を持つ仲間や支援してくれる協力者を増やし、連携していくこと。そして、必ずこの国から怪物たちを一掃し、平和な日本を再建するんだ!」


 爆発するような歓声が体育館に満ちた。

 しかも、ネット上で中継された動画が次々と拡散され、好意的な反応が怒濤の勢いで溢れていく。


「この国を救う英雄──」


 霧郷に対し、そう賞賛する声も上がりはじめている。

 確かに事件前の知名度とあわせて、一つの学校の生徒たちをまとめ上げ、地域の治安の確保で実績を上げているということ。そして、そのことをネットやマスコミを使って大規模に拡散し、世論を主導しているという事実は疑いない。


「──でも、それは本当に間違ってないのか。僕たちはそんなに正しい存在なのか」


 誓矢はそう懸念を口にする。

 そんな誓矢の肩に腕を回してくるユーリ。


「っていうかさ、オレたちフツーの学生なんだし、難しく考える必要なくね? やりたいようにやれば良いんだよ。それでミスったら、その時、また悩めばいいんだし」

「そうよね、わたしも今はここで頑張りたい。ここならなにか大きなコトができる気がするの」


 沙樹が誓矢とユーリの背中を叩く。


「二人とも、残ってくれてありがとう」


 この日、自警団──都立とりつ青楓せいふう学院がくいん高校こうこう私設しせつ防衛隊ぼうえいたい、通称ガーディアンズが発足する。

 能力を発現させた生徒と外部からの合流組をあわせた256名を霧郷が率いる形で運用される。

 また、学校に残ることを選択した一般生徒を中心に、避難所への移動を拒否した教師数人と一部の一般避難民も合流し、支援隊として活動することも決定された。

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