第2話 「まさか──神狼フェンリル?」
「クソッ、自分たちだけ助かろうってか!」
ユーリが
そして、再び屋上へと飛び出し、集まってくる怪物たちに向かって拳を構えた。
「ユーリ、無茶だ!」
「ユーリくんっ!」
ユーリはボクシングをやっている、しかも、あの外見からは想像できないが、高校ボクシング界でも屈指の実力者だ。
なんとか怪物たちの攻撃を
誓矢は扉に飛びつき、両拳で何度も分厚い鉄の扉を叩きつける。
「頼む、開けてくれ──このままじゃ」
同じように取り残された何人かの生徒も扉を叩き、口々に助けを求める。
だが、そんな彼らを取り囲む怪物たちの包囲網はジワジワと狭まっていく一方だ。
「くっ、ダメか──こうなったら、ヤケクソだ」
誓矢は覚悟を決めた。
どうせ殺されるなら、とことん抵抗してやろう。
そう開き直って、不安そうに見上げる沙樹に小さくうなずいてから、戦い続けるユーリの元へ駆けつけようとした。
──その刹那。
空の黒雲から様々な色彩の雷光が
「うああああああっっ!」
「セイヤくんっ!?」
そのひとつ、一際大きな青い稲妻が誓矢の身体に突き刺さった。
「うぐっ、ぐああああっ!」
身体のあちこちに痛みとは違う、形容しがたい衝撃が炸裂したかと思うと、意識の中に膨大な情報が一気に流し込まれていく感覚に気を失いかける誓矢。
「……こ、これは」
誓矢は自分の両手をジッと見つめた。手のひらがうっすらと青い光を帯びている。
「セイヤくんっ、大丈夫!?」
「なにがあった、セイヤ!!」
心配する沙樹とユーリに「とりあえず大丈夫そう」とだけ返した誓矢はゆっくりと両手に意識を集中させる。
すると青い光が急速に強くなり、手の中である形を取り始めた。
「──これは、銃?」
頭の中で情報が再構築され、誓矢はハッと顔を上げた。
両手の中に現れた青白い光を放つ二丁の銃、それぞれを反対方向へと向け、屋上の上にいる怪物たち一匹ずつをターゲットとして脳内でマーキングしていく。
「ユーリには当てちゃダメ、それ以外の怪物全部──」
いまや、誓矢の全身が不思議な澄んだ青い光に包まれており、その背後には青銀色の狼の姿がおぼろげに揺らめいていた。
「まさか──
ユーリが驚いたように目を見開く。
だが、その呟きは誓矢も含めて誰の耳にも届かなかった。
そして、誓矢はゆっくりと銃を握る手に力を込める。
──シュバアアアッッッ!!
両方の銃から青銀色の光が放たれた。
それらは幾条もの光となって、屋上にいた全ての怪物を追いかけ、貫いていく。
「「シギャアアアアッッ!」」
誓矢の放った光に撃ち倒されていく怪物たち。
まさに一撃必殺──床に倒れ伏した怪物たちは
「みんな、大丈夫!?」
同時に昇降口の扉が勢いよく開き、校舎の中から両手で
「
恐怖に怯えていた女子生徒たちの一団が菊家と呼ばれた教師に駆け寄っていく。
「大丈夫よ、落ち着いてゆっくりと校舎の中に入って──って、え?」
菊家はあたりの様子を再確認してキョトンとする。
「あれ、怪物たちがいない──って、それよりも!」
拍子抜けしたような表情を一瞬見せたが、すぐに思考を切り替えて、呆然と座り込んでしまっている生徒やショックで泣きじゃくる生徒たちのフォローへと走る菊家。
そんな菊家をよそに、誓矢は気が抜けたようにその場に座り込んでしまう。本当なら菊家に状況を説明し、作業を手伝うべきなのだが、心身ともに重い疲労が襲いかかってきた気分で動くことができない。
「セイヤくん、大丈夫?」
そっと背後から介抱するように声をかけてくる沙樹を安心させるように頷いてみせるセイヤ。
屋上から外を見ていたユーリが声をかけてくる。
「今の力、セイヤだけじゃないみたいだぞ」
誓矢は沙樹の肩を借りて立ち上がり、ユーリの隣に並んで外へと視線を向けた。
その先では逃げ惑う生徒たちがいる一方、多数の生徒たちが不思議な力──光る武器のようなものを振るって校門から雪崩れ込んでくる怪物たちを駆逐していく姿があった。
とりわけ目立ったのは校門付近で派手に剣を振るう青年だった。
「あれ? あの剣で戦ってる人、うちの生徒じゃないよね? 先生でもないようだし」
誓矢の疑問に答えたのは沙樹だった。
「あの人はうちのOB、結構有名な俳優……ううんアイドルだっけ。番組のロケがあるって今朝連絡があったじゃない」
「そうだったっけ」
どうでもイイというようなため息をついて、誓矢は身を翻す。沙樹の反対側に立ったユーリの肩も借りて、ゆっくりと昇降口へと足を進める。
「怪我をしている人は体育館へ、保健室はいったん閉鎖しています。治療の必要が無い人はそれぞれの教室へ戻って待機してください」
さすまたを片手に指示を飛ばす菊家に従って、誓矢たちはとりあえず教室へと戻ることにした。
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