ナゼか日本でラグナロク〜神狼の力を得た僕は神々へ反逆の刃を突き立てる
藍枝 碧葉
第1章 平和な日々が砕け散る
第1話 「なんなんだよこいつら──」
その日、僕の平穏な日常は粉々に砕け散ってしまった──
○
──シュイン、シュインッ!!
「なんなんだよ、これ!?」
さっきまで穏やかな昼休みを共にしていた友人たちを背後に
「くそっ、ゲームっていうならとっととやめろよ、夢ならはやく覚めろよっ!」
遠く視界の端で、また一人同じ制服を着た高校生が怪物の爪に引き裂かれた。
○
「ふああああ……」
誓矢は盛大なアクビとともに目を覚ました。
心地よい春風が吹き抜ける高校の屋上。友人たちと昼食を摂ったあと、つい眠気に耐えられずうたた寝してしまっていたようだ。
「入学したばかりなのに屋上で堂々と昼寝なんて、セイヤくん度胸あるよね」
そう笑うのは
さらに隣に座る金髪少年が、小さく鼻を鳴らして悪態をつく。
「そういうのは度胸があるんじゃなくて、鈍いっていうんだよ」
ユーリ──フルネームはユーリ・ファン・デル・フォルスト、誓矢の家の隣に住んでいる金髪の美少年で、彼もまた子供の頃からつるんでいるもう一人の幼馴染みだ。
金髪の幼馴染みは外見に似合わず口が悪いことを十二分に知っているので、誓矢は今さら腹を立てることはなかったが、それでも、コツンと前頭を小突く。
「ユーリもちょっと言葉を選ぶようにしないと、高校でも敵を作ることになっちゃうよ。特に先輩とか今の時期は気をつけないといけないのに」
「別にオレはやりたいようにやるだけだよ」
不満げに短く答えるユーリに誓矢は「しかたないなぁ」と笑ってから、ゆっくりと両腕を伸ばす。
誓矢にとってユーリと沙樹の二人は幼い頃からずっと一緒にいるかけがえのない存在であり、今、この瞬間、なぜかそのことを再認識させられた気持ちになった。
沙樹が小さな弁当箱を袋にしまいながら立ち上がる。
「そろそろ教室に戻ろう? セイヤくんたちは次の時間体育でしょ? 着替えないと間に合わないよ」
そう彼女がうながすと、誓矢とユーリも渋々と行動を開始する。
「なんで午後イチに体育なんて……」
「せっかく昼食で補給したエネルギーをすぐ消費するなんて非効率極まりない……」
口々にぼやく二人を
「──あれ、なに?」
空を見上げる彼女の視線の先、それを見た誓矢とユーリも
「台風、竜巻──て、いうかヤバくね?」
──それは屋上の真上に突然発生した渦巻くような真っ黒い雲。
一瞬の自失から、真っ先に我に返ったのは誓矢だった。
「とにかく校舎の中へ戻ろう、ここよりは安全なはず──」
その誓矢の言葉に沙樹やユーリだけではなく、周りの生徒たちも一斉に動き出しはじめた。
だが、次の瞬間、空の黒雲から黒い雷のようなモノが鋭い音を立てて屋上のあちこちに突き刺さり、生徒たちは一気にパニックに陥ってしまう。
「お、おい、どうしたんだよオマエ!?」
「きゃあっ! やだ、こっちこないでっ!?」
悲鳴を上げる生徒たちの目の前に現れたのは異形の怪物へと姿を変えた同じ生徒たちだった。
制服を纏ってはいるが。体中のあちこちから棘のようなモノが生え、あろうことか口からは青黒い炎をチラつかせている、あきらかにこの世のモノではない存在。
「なんなんだよこいつら──」
呆然とする誓矢、その視界のあちこちで逃げ惑う生徒たちが、怪物の爪に引き裂かれていく。
反射的に後退した誓矢の背中が、屋上の手すりに当たった。
その耳に遠くから複数の悲鳴が飛び込んでくる。惨劇の場は屋上だけではなかった。下に見えるグラウンドや校舎前の広場でも生徒たちが制服を纏った怪物たちから逃げ惑っている。
「もう、いやぁ──!!」
誓矢と同様に屋上の端に追い詰められた女子生徒の一人が、半狂乱の状態で空中へと身を躍らせる。
「あ、だめだ!」
咄嗟に手を掴もうとする誓矢だったが、その手は空を切ってしまう。
「ぼうっとするな! しっかりしろセイヤっ!」
女子生徒を逃したことにより、誓矢へとターゲット変更した怪物。その横っ腹に拳を叩き込んで吹き飛ばしたのはユーリだった。
「今は自分の身を守ることを優先しろ!」
その金髪少年の叱咤に我に返る誓矢。
弁当箱が入った袋をがむしゃらに振り回して怪物を牽制している沙樹も声を上げる。
「はやく校舎の中へ!」
屋上の生徒たちは次々と昇降口へと逃げだしていく。
誓矢とユーリも沙樹を庇いつつ、逃げ遅れそうになった何人かの生徒たちを先に走らせ、校舎の中へと駆け込もうとする──だが。
「──!? ちょっとまって、まだ!」
誓矢たちの目の前で鉄製の扉が閉じられてしまったのだ。
慌てて扉に飛びつき、押し返そうとする誓矢とユーリ、そんな彼らの耳に鍵をかけられる重々しい音が無情に響いた──
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