第179話 も、もしかして? (1)

「えっ。う、うそ?」


「嘘じゃない。嘘じゃないの。一樹。本当だよ」


 僕の背から、後方から真剣な眼差しで告げてくる翔子でね。


 彼女の只今の様子を見る限りでは、僕に冗談を言っているようには見えない。


 だから僕は翔子に問いかけたのだ。


「……じゃ、翔子、お前は。何で今迄。俺に電話の一本もかけてこない。よこさなかったんだ? それって、どう考えても可笑しいじゃないか?」


 僕は翔子に対して、いつもの荒々しく、不満のある声音で尋ねる。


「……だって、私は未だ。妊娠検査薬を購入して調べてもいないから。妊娠がハッキリとはしていないのと。来月こそは、来月こそは、必ず来るだろうと思っているうちに、いつの間にか三ヶ月も経ってしまったものだから。どうしよう。どうしようと思ったの……」と。


 翔子は相変わらず俯いたまま、小声で僕へと言葉を返してきたのだが。


 僕はそんな翔子に対して、優しい言葉。


 そう。彼女のの事を労う言葉をかけることもなく。


「あのなぁ、翔子。お前は……」と。


 告げてしまったのだ。


 後で時間が経つ。


 後日になり。


 僕自身が良く思案をしてみると。


 翔子に対して、本当に酷い態度、様子、振る舞ってしまったと後悔……。


 僕自身が罪悪感に浸るくらい。


 この時の僕は翔子──。


 自分自身が不安で仕方がない筈の翔子に対して、傲慢な態度。


 酷い態度をとってしまったと後々後悔をして謝罪──。


 彼女に土下座をする事になるのだが。


 でもこの時の僕は、翔子が。


 僕とエルとの仲を引き裂こうと悪しき思い。


 冗談を言っているものばかりだと思っている。


 信じて疑わない様子だから。


 翔子に対して、不機嫌極まり。


 そう。怪訝な表情で睨むように見詰めていたと思う。


 だから翔子は僕の事が怖い。


 畏怖していたのだろうと思う。


 だって翔子は、また僕へと話しかけ、説明を始めるのだが。


 やはり自身の頭を上げる事はなかったのだ。


「……あ、あのね。でもね。私さ? 何度も家の受話器を握り。一樹の家に電話をかけようと試みはしたの……。でも、受話器の向こうから電話の音が鳴ると。私は、慌てて受話器を降ろして切っていたの。私自身が一樹に対して。なんて説明をしたら良いか解らない。だから土壇場になれば怖くて……。一樹、あなたに、叱られる。怒られるのではないかと思うと身体に震えが……」と。


 翔子の奴は、僕よりも、四つも年上の癖に弱々しく。

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