第105話 男の威厳って奴?(5)

 僕自身の両手だけではなく。腰や両足……。自分自身の身体全体を使う。使用して。


「どけやぁあああっ! エル! わりゃ、あああっ! 儂がどけぇえええっ! どけと、言っちょるのが、わからん! わからんのか! わりゃ、あああっ!」、


「うりゃ、あああっ!」と。


 僕はエル。自分自身の妻へと憤慨しながら怒声! 罵声! を放った。吐いてやったのだ。


 だからエルは! そう、夫の僕へと馬乗りになっているエルはね。また僕へと折檻! 折檻だよ! 妻の勇者らしくない華奢で綺麗な手! 掌で、夫の僕の頬を力強く。


〈バチン!〉


〈バチン! バチン!〉と。


 最後にとどめの如く、もう一度!


〈バチン!〉とね。


 僕の頬へと平手打ちの連打を、左右、右左とリズム良く打つ、放ってきたのだ。


「はぁ、あああっ! 一樹──! あなたぁあああっ! 誰に言っているの? 物申しているの? 私は勇者よぉおおおっ! 勇者エルなのよぉおおおっ! あなたぁあああっ! ちゃんとそのことを分っている。いるのぉおおおっ! あなたぁ~。あなたわぁあああっ⁉」と。


 エルは憤怒! 怒号を僕に吐きながら平手打ちの連打をおこなってきたのだ。更にこんな台詞も付け加えてね。


「私は一樹の妻であって。あなたの下僕や奴隷ではない。ないのだから。一樹が妻の私に意味不明な言葉を荒々しく告げて。告げてきながら強引な下知を下して、従うようにと荒々しく告げてきても。聞ける事と聞けない事があるのぉおおおっ! 分ったぁあああっ? 一樹──?」と。


 まあ、こんな感じだよ。僕の勇者な妻エルはね。夫の僕がわからない。理解ができない言葉と台詞を荒々しく告げてくるのだが。


 僕は只単に妻が、エルが自害して果てようとしているのをとめて、いるだけなのに、いつの時代の言葉、意味なの? と、言いたいような単語である。自分自身は、夫である僕の、『下僕』や『奴隷』ではないと、当たり前のことを憤怒しながら告げてくる。……だけではないのだ。


 また僕のエルは、夫の頬……。



 それも両頬を『パチン!』、『パチン!』と、打つ。打ってくのだ。エルは懲りもしないでね。



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